世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲府市】住吉神社 ~神社建築と忌み数・四~

今回は山梨県のマイナー観光地ということで、甲府市の住吉神社(すみよし-)について。

 

住吉神社は甲府市街の南部、身延線の沿線に鎮座しています。

境内には立派な楼門があるほか、本殿は四間社という非常に珍しい様式になっており、神社建築好きにとって垂涎モノの物件といえます。

 

 

現地情報

所在地 〒400-0851山梨県甲府市住吉1-13-10(地図)
アクセス

甲斐住吉駅から徒歩15分

甲府昭和ICから車で15分

駐車場 20台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 甲斐国住吉神社
所要時間 10分程度

 

境内

境内入口と随神門

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住吉神社の境内入口は南向きで、県道113号線に面しています。

扁額の字は「正一位住吉神社」。奥には二の鳥居が立っています。

 

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境内を進むと楼門になった随神門があります。

随神門は銅板葺の入母屋(平入)で、2階建て。正面は1間、内部と背面は3間、側面2間。柱はいずれも円柱。

 

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1階部分。

正面は梁間に柱がなく、間口は1間、正面と左右に壁がなく吹き放ち。そして内部と背面は4本の柱で構成されていて、柱間が3間あります。

この柱の使いかたは、同市内にある穴切大神社の楼門と酷似しています。

 

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左前方から見た図。虹梁の木鼻には唐獅子の彫刻が取り付けられています。

彫刻の造形は、立川流のものと比べてしまうとどうしても見劣りしてしまいますが、木目の質感をうまく活かした仕上がりになっていると思います。

 

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随神門の内部。

湾曲した海老虹梁が母屋(左)と虹梁(右)をつないでいます。写真左上には繊細な造形でくり抜かれた蟇股が配置されています。

 

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背面。

こちら側の木鼻は象が彫刻されています。その上では大きく張り出した組物が2階の縁側を支えています。

 

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左前方から2階を見上げた図。扁額は「正一位住吉社」

屋根裏の垂木は放射状に並べられており、これは扇垂木(おうぎだるき)。扇垂木は禅宗様の寺院建築で使われるもので、神社建築で採用される例は少ないです。

垂木を受ける丸桁(がぎょう)は出三斗(でみつど)というタイプの組物で持出しされています。

 

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拝殿の裏、参道の左手には手水舎があります。

管理者が常駐しているだけあって非常によく手入れが行き届いています。

 

天神稲荷社

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参道の右側には、境内社の天神稲荷社があります。

虹梁の上にはでかでかと龍の彫刻が、両端の木鼻には唐獅子が配置されています。

 

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側面から見た図。

正面に階段のない“見世棚造”(みせだなづくり)という様式なのですが、賽銭箱の置かれている棚板が非常に低い位置にあるのが特徴的。

そしてこんな変な造りをしているにもかかわらず、母屋の柱は床下まで円柱に成形されており、なんとも奇妙です。

 

拝殿と神楽殿

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神楽殿は銅板葺の入母屋。千鳥破風付き。向拝はありません。

垂れ幕や鬼板には波のような紋が描かれており、住吉大社(大阪市)の紋である花菱(はなびし)とは異なります。花菱は武田菱とよく似た構成をしていますが、それを使っていない理由が私には解りません。山梨県は何につけても信玄を引き合いに出したがるはずなのですが...

 

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拝殿の左手にある駐車場の一角には、拝殿の大棟や千鳥破風に置かれていたという鬼瓦が置かれています。

ふだん、屋根の鬼瓦は遠目に眺めることしかできないですが、こうやって間近でみると意外に大きく、流麗な造形をしていることがよくわかります。

 

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また、拝殿の左にはシンプルな神楽殿もあります。

銅板葺の入母屋で、内部に天井がないため外部からでも小屋組を観察できます。

神楽殿は全方向に壁がなく吹き放ち。山梨県内の神楽殿は壁のないものが多いです。

 

四間社の本殿

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拝殿の裏手にまわり込むと、本殿があります。

写真は本殿を右前方から見た図。屋根は銅瓦葺の入母屋ですが、建築様式については後述します。

 

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右側面から見た図。

屋根裏の垂木は二重になっていますが、こちらは前述の随神門とちがって平行垂木になっています。

頭貫(かしらぬき)の上では金色の蟇股(かえるまた)が2つ輝いています。その上で垂木を受けている丸桁は出三斗の組物で持出しされています。

前方(写真左側)は板で塞がれており、外からは向拝を観察できません。母屋側面は3本の丸柱で構成されており、柱間は2間。

 

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そしてこちらが背面。

工事用の足場と骨組みがちょっと邪魔ですが、神社建築好きな人がこの図を見たら思わず唸ってしまうはず。何がすごいのかというと、丸柱が5本並んでいる、つまり母屋の柱間が4間あることです。

これは四間社(よんけんしゃ)という非常に珍しいタイプの本殿です。

 

神社の本殿は柱間の数(間口)によって一間社・二間社・三間社...といったふうに規模を表現するのですが、ほとんど(9割以上)が一間社か三間社です。基本的に、神社の間口は奇数です。

いっぽうで間口が偶数の本殿は少数ながらあるものの、そのほぼ全てが二間社で、それ以外はきわめて例外的な存在になります。よって四間社は「例外中の例外」とでも言うべき激レア物件になります。

 

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(※甲斐国住吉神社 境内のご案内より引用)

できれば正面も見たかったので駄目元で住吉神社のホームページを見てみたところ、正面に扉が4枚ならんでいる写真を発見できました。正面が確認できたので、この本殿は四間社でまちがいありません。祭神もちょうど4柱とのことです。

総本社の住吉大社は4神が4つの本殿にそれぞれ祀られているので、こちらの住吉神社では四間社の本殿に4神を祀ったのでしょう。そう考えれば、忌み数になることもある「四」があえて採用されている理由にも納得が行きます。

 

つまるところ、この本殿は銅板葺の四間社入母屋(よんけんしゃ いりもや)、平入、正面向拝、といった建築様式になります。

 

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本殿背面の床下を左側後方から見た図。

この本殿は江戸期のものと思われますが、母屋の円柱は床下も横着せずしっかりと円柱に成形されています。とはいえ、壁で隠されたところは手抜きされていそうな感じがします。

縁側を支える柱は角柱、縁側の床板は壁面と直交する切目縁(きれめえん)という張りかたでした。

 

社殿の解説は以上。

長々と語ったように、四間社の本殿は非常に貴重で、神社好きならば必見の激レア物件です。また、楼門はふつうに見栄えのする内容なので神社建築について知識がない人でもそれなりに楽しめるでしょう。

とはいえ「四間社は希少」という事実は、他の神社をいくつも見ていないと理解できないと思うので、お世辞にも万人向けとは言えない内容かもしれません。

 

以上、住吉神社でした。

(訪問日2019/11/09)