今回は長野県大町市美麻(みあさ)の富士淺間神社(ふじ せんげん-)について。
富士淺間神社は大町市美麻の山間に鎮座しています。
浅間神社(せんげん-/あさま-)は富士信仰の神社なので、諏訪信仰の根強い長野県ではあまり見かけず、ちょっと珍しいです。
本殿は標準的な規模の流造で、さほど古いものではないですが、各所に白木の彫刻が配置されていて、見ごたえのある内容となっています。
現地情報
所在地 | 〒399-9101長野県大町市美麻2708(地図) |
アクセス | 北大町駅から徒歩1.5時間 安曇野ICまたは更埴ICから車で50分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
拝殿と楽殿
境内の入口は石材で造られた両部鳥居。扁額の字は「富士淺間神社」。
すぐ向こうには拝殿があります。
鳥居の左手には楽殿(神楽殿)があります。
案内板*1によると“富士浅間神社楽殿”といい、“江戸時代中期(280年前)に眞面久兵エ*2が氏子の奉納により建立したもの”とのこと。いつから数えて280年前なのか不明ですが、案内板に昭和五十三年(1978年)設置とあったので、造営年はだいたい西暦1700年くらいでしょうか。
楽殿は鉄板葺の寄棟(妻入)で、正面側は梁間に柱がなく吹き放ち。背面および左右側面には壁が張られています。
正面側から内部に光が入るようにするためなのか、この部分だけ軒先が短くなっており、そのせいで白い破風が独特の形状(Uの字を逆さにした感じ)になっているのが印象的。
拝殿は虹梁のほかこれといった意匠のない鉄板葺の切妻(妻入)。
扁額の字は退色して判読不能でした。
拝殿の後ろには意外に長い通路があり、後方の本殿へと繋がっています。
本殿には覆い屋がかけられています。
本殿
本殿は覆い屋の金網に囲われていますが、鑑賞に支障はありません。
写真は左側面。バランス的に母屋がすらりと縦に長い印象を受けます。
本殿は鉄板葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。案内板によると1815年(文化十五年)に棟梁・立川豊八によって造営されたことが棟札から判っているとのこと。
立川豊八は立川流の宮大工。ちなみに兄の浅川豊八は大隅流の宮大工で、細野神社(松川村)の本殿を造営しています。
案内板では本殿の造りについて以下のように書いています。
再建と思われるが1間社流れ造り、薄銅板葺でよく均斉がとれ、しっとりした落ちつきを見せている。また彫物による装飾が多く手の込んだ造りが特徴となっている。
右側面から見た向拝の軒下。
左のほうの角柱は几帳面取がなされています。角柱の情報で垂木を受けている手挟(たばさみ)には菊の籠彫(かごほり)が施されており、この部分は非常に立川流らしい作風です。
しかし向拝の虹梁には中央や両端にこれといった彫刻がありません。この部分は立川流らしからぬ寂しさ。
右側面の妻壁。
母屋の虹梁は組物で持出しされており、その下には花(スイレン?)と水の彫刻が目を惹きます。虹梁の上にはちょっと角ばった大瓶束(たいへいづか)が棟を受けています。この大瓶束は下のほうがすぼまった形状をしていて、文字どおり花瓶を彷彿とさせます。
写真右下のほうで見切れている脇障子には、鶴と思しき鳥が彫刻されていました。
左側面。
正面の扉は桟唐戸(さんからど)。扉の上方にも彫刻がありましたが、題材は特定できず。
縁側は壁面と平行に床板を張ったくれ縁。欄干には擬宝珠(ぎぼし)が乗っています。こちら側の脇障子は彫刻があるはずの板が欠落しており、痛ましい外観。
床下を観察してみたところ、母屋の柱は「床上は円柱だが床下は八角柱」という定番の手抜きがなされていました。
以上、富士淺間神社でした。
(訪問日2019/11/02)