今回は東京都世田谷区の浄真寺(じょうしんじ)について。
浄真寺(浄眞寺)は九品仏地区の住宅地に鎮座する浄土宗の寺院です。山号は九品山。通称は九品仏(くほんぶつ)。
創建は1678年(延宝六年)で、珂碩という僧が、奥沢城(小田原征伐ののち廃城)の跡地に寺を開いたのがはじまりです。江戸中期には三仏堂が造られ、江戸後期には仁王門が造られています。
現在の境内伽藍は三仏堂(3棟)と仁王門の計4棟が区の文化財となっています。三仏堂の内部には浄土教の思想を表現した9体の阿弥陀如来像が安置され、都指定文化財となっています。九品仏の地名は、当寺の9体の阿弥陀如来像に由来します。
現地情報
| 所在地 | 〒158-0083東京都世田谷区奥沢7-41-3(地図) |
| アクセス | 九品仏駅から徒歩1分 |
| 駐車場 | なし |
| 営業時間 | 06:00-16:30 |
| 入場料 | 無料 |
| 寺務所 | あり |
| 公式サイト | 九品仏浄真寺 |
| 所要時間 | 30分程度 |
境内
総門と開山堂

九品仏駅から浄真寺へ向かうと、境内の南側に松並木の参道が伸びています。

参道の先には総門が南面しています。
一間一戸、高麗門、切妻造、銅板葺。左右袖塀付。

主柱は糸面取り角柱。女梁と男梁で桁を持ち出し、軒裏を受けています。
主柱のあいだには貫が通り、「般舟場」の扁額が掲げられています。

妻面。
破風板の拝みには蕪懸魚。
後方へ伸びる低い屋根(写真左下)は、垂木がなく板軒です。

総門をくぐると、左手に閻魔堂が東面しています。
寄棟造、銅板葺。

境内の東側には東門が東面しています。
高麗門、切妻造、銅板葺。


参道に沿って境内西へ進むと、仁王門の手前に開山堂が南面しています。こちらは開山堂の門。
一間一戸、薬医門、切妻造、銅板葺。
繰型や懸魚といった装飾的な意匠がまったくなく、簡素な造り。

門をくぐると左手に手水舎があります。
切妻造、銅板葺。

柱は几帳面取り角柱で、頭貫の位置には拳鼻があります。
柱上は出三斗。

柱間には虹梁(頭貫)が通り、その上は台輪通っています。中備えは蟇股。
妻飾りは笈形付き大瓶束。
破風板の拝みには三花懸魚。

開山堂は、RC造、宝形造、銅板葺。
向かって右の標柱は「珂碩上人 開山堂」。
仁王門

参道に戻って境内西へ進むと、参道上に仁王門が東面しています。
三間一戸、楼門、入母屋造、銅板葺。
棟札より1793年(寛政五年)上棟。区指定文化財。

下層。
正面は3間で、中央の通路の柱間は少し広く取られています。左右の柱間には仁王像が安置されています。

正面中央の柱間。
柱はいずれも円柱。正面に唐獅子の木鼻がついています。柱上の組物は三手先。
頭貫の位置には虹梁がわたされ、中備えは中央に組物が置かれ、その左右に蟇股が配されています。

向かって右側。
こちらは虹梁ではなく無地の頭貫がわたされています。中備えは蟇股で、菊の花が彫られています。

右手前の隅の柱。
正面には唐獅子、側面には象の木鼻があります。

右側面(北面)。
側面は2間で、柱間は横板壁。
基壇は四半敷の石畳となっています。

内部の通路上にも虹梁がわたされ、踏み天井が張られています。
虹梁の上の欄間彫刻は竜虎。

下層背面。
各所の構造や意匠は正面とほぼ同じ。

上層。扁額は「紫雲楼」で、この仁王門の別名のようです。
軒裏は平行の二軒繁垂木。

中央の柱間は2つ折れの桟唐戸で、禅宗様の意匠が使われています。
桟唐戸の上には、長押が左右の柱間より高い位置に打たれています。

左右の柱間には連子窓が設けられています。
柱上の組物は尾垂木三手先。中備えは間斗束。
縁側の欄干は、隅の親柱に禅宗様の逆蓮がついています。

上層も側面2間。
柱間は連子窓で、中備えは間斗束。

仁王門の左奥(南西)には鐘楼。
入母屋造、瓦棒銅板葺。

柱は円柱。
飛貫は波の意匠が浮き彫りになり、頭貫の木鼻がついています。中備えには猪の彫刻。
頭貫は山型の文様が彫られ、頭貫と台輪にも木鼻がついています。
柱上の組物は三手先。中備えは蟇股。
本堂

仁王門をくぐって進むと参道がコの字型に折れ曲がり、本堂が現れます。本堂は西面し、後述の三仏堂(上品堂)と向かい合っています。
本堂は、桁行5間・梁間5間、寄棟造、背面1間通り庇付、向拝1間、銅板葺。

向かって右の向拝柱。
向拝柱は大面取り角柱で、上端がわずかに絞られています。側面には象の木鼻。
柱上は皿付きの出三斗。

虹梁は絵様が陰刻され、眉欠きの下面に錫杖彫りがあります。両端の袖切の下には、繰型のついた持ち送りが添えられています。

母屋の柱間には桟唐戸や連子窓が使われています。

母屋柱は上端が絞られた円柱。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。
組物は出三斗と平三斗が使われています。

右側面(南面)。
柱間は桟唐戸と連子窓。

背面の1間通りは庇が設けられていて、後方の柱(写真右)は角柱が使われています。
庇の屋根は片流れではなく招き屋根になっていて、破風板の拝みに切懸魚が下がっています。
三仏堂(九品仏)

境内西側の区画には、3棟の堂が横並びに東面しています。
中央は上品堂、向かって右は中品堂、左は下品堂で、いずれの堂も同じ造りをしています。
三仏堂は3棟いずれも、寄棟造、銅板葺。
棟札より1698年(元禄十一年)上棟。区指定文化財。

中央に鎮座するのが上品堂(じょうぼんどう)。
堂内には上品上生、上品中生、上品下生の3体の阿弥陀如来が安置されています。

側柱は角柱が使われ、柱上は舟肘木。軒裏は一重まばら垂木。
めだった意匠はなく、簡素な外観です。

向かって右(北側)が中品堂(ちゅうぼんどう)。
堂内の阿弥陀如来は中品上生、中品中生、中品下生の3体。

内部は正面3間・側面3間の空間が母屋のようで、円柱で構成されています。その外周1間通りに庇がまわされています。

母屋部分の小屋組は、切妻屋根の構造になっています。
切妻屋根の外周に庇をまわすと入母屋のような構造になると思うのですが、この堂の外観は寄棟で、風変わりな構造をしています。

向かって左(南)が下品堂(げぼんどう)。
堂内の阿弥陀如来は下品上生、下品中生、下品下生。
3つの堂に安置された計9体の阿弥陀如来は、「木造阿弥陀如来坐像」9躯として都指定文化財となっています。
以上、浄真寺でした。
(訪問日2025/02/28)