今回は滋賀県甲賀市の大鳥神社(おおとり-)について。
大鳥神社は市南部の集落に鎮座しています。
創建は882年(元慶六年)。伊賀国阿拝郡河合郷(三重県伊賀市馬場)にあった神社を大原中(甲賀市大原中)に勧請したのがはじまりとのこと。その後、年代不明ですが現在地へ移転となったようです。平安時代には神宮寺が併設され、神仏習合の霊場として隆盛しました。鎌倉時代から室町時代は六角氏の崇敬を受けました。江戸時代には桂昌院によって社領の寄進を受け、幕末まで存続しました。幕末までは河合社、大原祇園社、牛頭天王社などと呼ばれていましたが、明治初期の神仏分離令で神宮寺が廃寺となり、大原と鳥居野の頭文字をとって現在の社号に改められました。
現在の社殿のほとんどは大正時代の再建で、楼門などの7棟が国の登録有形文化財となっています。本殿と太鼓橋は江戸時代のもので、市の文化財に指定されています。ほか、「大原の祇園行事」が県の無形民俗文化財、境内全体が市の名勝に指定されています。
当記事ではアクセス情報と楼門などについて述べます。
現地情報
| 所在地 | 〒520-3403滋賀県甲賀市甲賀町鳥居野782(地図) |
| アクセス | 甲賀駅から徒歩25分 甲賀土山ICから車で10分 |
| 駐車場 | 10台(無料) |
| 営業時間 | 随時 |
| 入場料 | 無料 |
| 社務所 | あり(要予約) |
| 公式サイト | 滋賀県甲賀市 大鳥神社 |
| 所要時間 | 20分程度 |
境内
鳥居と参道

大鳥神社の境内は南向き。入口は県道に面しています。
向かって右の社号標は「大鳥神社」。
社名から、大鳥大社(大阪府堺市)の分社のようにも思えますが、当社は大鳥大社とはとくに関係のない神社です。当社の社名は所在地である大原荘と小字の鳥居野の頭文字を合成したものであり、祭神も大鳥大社とは異なります。

一の鳥居。
石造明神鳥居。扁額は「大鳥神社」。


参道を進むと石造の太鼓橋がかかっています。
江戸時代の造営のようです。「大鳥神社石造反橋」として市指定有形文化財。
通行は不可となっていて、向かって右にある橋をわたって迂回することで先へ進めます。

二の鳥居は木造両部鳥居。
扁額は「大鳥神社」。

二の鳥居をくぐると、境内の中心部の区画に到達します。
鳥居の左手には手水舎。
入母屋造、銅板葺。

柱は糸面取り角柱で、柱上は舟肘木。
頭貫の上の中備えは蟇股。上の肘木と一体化した造形です。

妻面。
屋根はむくりがついた形状をしています。
入母屋破風には木連格子。

境内西側には社務所。
入母屋造、桟瓦葺、向拝1間、向唐破風、銅板葺。
1919年(大正八年)再建。国登録有形文化財。

頭貫の上の欄間には板が張られ、花のような意匠が透かし彫りされています。
唐破風の虹梁の上には透かし蟇股。こちらも花のような彫刻が入っています。

向拝柱は大面取り角柱。側面には若葉の意匠の木鼻。
柱上の組物は出三斗。
楼門

拝殿や本殿の周囲は、楼門と透塀で囲われています。
楼門は、三間一戸、楼門、切妻造、檜皮葺。
1919年再建。国登録有形文化財。

下層は正面3間。
正面の柱筋には壁や建具がありません。側面の柱間と、扉筋の左右の柱間にだけ壁が張られています。

正面中央の柱間。
柱はいずれも円柱。柱間は頭貫でつながれ、中備えの蟇股には花と唐草を図案化したような彫刻が入っています。


向かって左側。こちらは中備えに間斗束が使われています。
頭貫の位置には木鼻がついています。
柱上の組物は三手先。

左側面(西面)。
側面は2間で、柱間は白壁と連子窓。
中備えは間斗束です。

内部は格天井が張られています。
扉筋の通路上の頭貫の上にも、蟇股が配されています。

上層も正面3間。
中央の柱間には板戸が設けられ、頭貫の上の中備えは蟇股。下層のものと同様に、花のような彫刻が入っています。

向かって左側。
左右の柱間には連子窓が設けられています。下層と同様に、中備えは間斗束です。
柱は円柱で、長押と頭貫で軸部を固めています。頭貫には若葉の意匠の木鼻。
柱上の組物は出組(一手先)。下層よりも上層のほうが組物の手先(持ち出し)が少ないのは、めずらしい技法だと思います。組物と中備えは、通肘木を介して軒桁を受けています。

左側面。
上層も側面は3間で、柱間に連子窓があります。頭貫の上の中備えはありません。
妻飾りは二重虹梁となっていますが、短い虹梁を2つならべ、その上に虹梁をわたした構造になっています。虹梁はつごう3つ使われており、いずれの虹梁も蟇股が置かれています。
中央の柱の組物の上からは、桁が突き出ています。
切妻造の楼門*1という点や、下層と上層の組物の構造のちがい、妻飾りの構造や突き出した桁など、八坂神社西楼門(京都市)と似た箇所が多いです。

背面全体図。
各所の意匠は正面と同様です。

楼門の左右には透塀がつながっています。こちらは向かって左(西側)のもの。
切妻造、銅板葺。
柱は角柱。柱間は長押が打たれ、連子窓が設けられています。
楼門などについては以上。
*1:たいていの楼門は入母屋造で、切妻造のものはめずらしい