甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲賀市】櫟野寺

今回は滋賀県甲賀市の櫟野寺(らくやじ)について。

 

櫟野寺は市南部の里山に鎮座しする天台宗の寺院です。山号は福生山。

草創は寺伝によると792年(延暦十一年)で、最澄が当地に十一面観音を祀ったのがはじまりらしいです。その後、坂上田村麻呂が蝦夷征伐の折にこの十一面観音を拝み、806年(大同元年)に田村麻呂の寄進で伽藍が造営されたことで、寺院として確立されたようです。以降は延暦寺の末寺や甲賀地域の筆頭寺院として隆盛しています。明治初期には廃寺となった河合寺(大鳥神社の神宮寺)の仏像や寺宝を受け入れています。1968年に旧本堂を焼失し、のちに現在の本堂が再建されました。

現在の境内伽藍の大部分は戦後の再建と思われます。本尊の木造十一面観音坐像は、常時の拝観は不可ですが3メートル超の大仏で国の重要文化財に指定されています。ほか、木造薬師如来坐像をはじめ、重要文化財の仏像を数多く所蔵しています。

 

現地情報

所在地 〒520-3412滋賀県甲賀市甲賀町櫟野1377(地図)
アクセス 油日駅から徒歩40分
甲賀土山ICから車で10分
駐車場 50台(無料)
営業時間 09:00-16:00
入場料 境内は無料、堂内拝観は500円
寺務所 あり(要予約)
公式サイト 福生山 櫟野寺
所要時間 15分程度

 

境内

仁王門

櫟野寺の境内は南西向き。境内入口は川沿いの生活道路に面しています。

右手前の寺号標は「櫟野寺」。右奥は「國寶本尊十一面観音尊像」。

 

仁王門は、三間一戸、八脚門、入母屋造、桟瓦葺。

中央の柱間は広く取られ、左右の柱間には仁王像が安置されています。案内板などには書かれていませんが、左右の仁王像は市指定文化財の「木造金剛力士像」(鎌倉時代の造立)と思われます。

 

正面中央の柱間。

頭貫の上の中備えは板蟇股。菊の紋が見えます。

内部の通路上にわたされた冠木には、「南無観世音菩薩」の扁額が掲げられています。

 

向かって左の柱間。こちらは中備えがありません。

柱はいずれも面取り角柱。頭貫には木鼻がついています。柱上の組物は出三斗。

 

向かって左の側面。

側面は2間。柱間は横板壁。中央の柱の上の組物は平三斗です。

 

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

妻飾りは懸魚の影になって見づらいですが、蓑束らしき意匠が使われています。

 

鐘楼と手水舎

仁王門をくぐると、参道左手に鐘楼があります。

切妻造、桟瓦葺。

 

柱は角柱。柱間に頭貫を通し、柱上に梁と桁をわたして軒裏を受けています。

目立つ装飾は破風板の蕪懸魚くらいで、質素な外観です。

 

仁王門の右手には手水舎。

切妻造、桟瓦葺。

 

柱は面取り角柱。柱上は舟肘木。頭貫に中備えはありません。

妻飾りは板蟇股。破風板の拝みと桁隠しには懸魚があります。

 

本堂

境内の中心部にはRC造の本堂が鎮座しています。旧本堂は1968年に焼失していて、その後に再建されたものです。

RC造、宝形造、本瓦葺。

本尊の木造十一面観音坐像は平安時代後期の造立で、国指定重要文化財(旧国宝)。坐像でありながら高さ3メートル超の大仏とのこと。常時の公開はしておらず、もとは33年に1度だけしか見られない秘仏でしたが、現在は公開日が年に数度あるようです。

 

正面の柱間は3間。柱間は貫でつながれていますが、中備えはありません。

柱は太い角柱が使われ、軒桁を直接受けています。

前方の1間通りは壁や建具がなく、吹き放ちとなっています。

 

屋根の頂部には露盤と宝珠。

露盤は格狭間を左右に2つならべた意匠。その上に伏鉢と宝珠が乗っています。

 

本堂の手前には名称不明の鎮守社。

一間社流造、銅板葺。

 

門(東門?)

境内の東側には名称不明の門が設けられています。

こちらは本堂側から見た図(西面)。この門をくぐると境内の外に出られますが、反対側(東面)には軒唐破風がついていないため、おそらく本堂側の西面が正面かと思います。

三間一戸、八脚門、切妻造、正面軒唐破風付、鉄板葺。

 

正面中央の柱間。

虹梁中備えは竜の彫刻。

唐破風の小壁にも虹梁がわたされ、妻飾りに笈形付き大瓶束が配されています。笈形の彫刻は菊らしき花が彫られています。

 

正面向かって左。

柱はいずれも几帳面取り角柱で、隅の柱には連三斗が使われています。柱の側面には獏の木鼻。

虹梁中備えはこちらも竜です。

 

向かって左の側面。

側面には縦板壁が張られ、その上は吹き放ちとなっています。

 

内部の通路部分。

天井には何かしらの構造や意匠があったと思われますが、板を張ってふさいでいます。

 

背面。

こちらは虹梁や彫刻、軒先の唐破風などの意匠がありません。

 

以上、櫟野寺でした。

(訪問日2025/01/18)