今回は滋賀県甲賀市の油日神社(あぶらひ-)について。
油日神社は市南部の集落に鎮座しています。
創建は不明。伝承によると第31代用明天皇または第40代天武天皇の時代の創建、あるいは聖徳太子による創建とされ、諸説あります。史料上の初出は『日本三大実録』の878年(元慶元年)の記事で、「油日神」と記述されています。平安前期には確立されていたようですが、『延喜式』に当社の記載はありません。
平安時代以降、天皇家の崇敬がつづきましたが、室町以降は当地の豪族から篤く崇敬され、現在の社殿が造営されています。江戸時代以降も甲賀の総社として広く崇敬を集めました。明治時代には神仏分離令を受け、別当の油日寺が「神宮寺」として独立しています。
現在の主要な社殿は室町後期から江戸前期のもので、境内全体が国指定史跡です。本殿は滋賀県に特有の前室付き流造、楼門は東西に回廊がつながる大規模なもので、計5棟が国の重要文化財に指定されています。また、江戸時代の梵鐘が市の文化財となっているほか、神仏習合の時代の社宝を多数所蔵しています。
当記事ではアクセス情報および楼門、廻廊について述べます。
現地情報
| 所在地 | 〒520-3413滋賀県甲賀市甲賀町油日1042(地図) |
| アクセス | 油日駅から徒歩30分 甲賀土山ICから車で20分 |
| 駐車場 | 30台(無料) |
| 営業時間 | 随時 |
| 入場料 | 無料 |
| 社務所 | あり |
| 公式サイト | 油日神社公式ホームページ |
| 所要時間 | 30分程度 |
境内
参道と手水舎

油日神社の境内は南西向き。入口は里山の集落に面しています。
入口には木造明神鳥居。扁額は「油日神社」。
右の社号標は「縣社油日神社」。

参道左手(西)の駐車場の区画には手水舎。
切妻造、銅板葺。

柱は角柱。虹梁の位置に木鼻があります。
柱上は舟肘木。

組物の上には無地の妻虹梁がわたされ、板蟇股で棟木を受けています。
破風板の拝みには独特な形状の懸魚が下がっています。
楼門

参道を進むと楼門と廻廊があります。中央が楼門、向かって左が右廻廊、右が左廻廊です。
楼門は、三間一戸、楼門、入母屋造、檜皮葺。
1566年(永禄九年)造営。「油日神社楼門及び廻廊」3棟として国指定重要文化財*1。

下層。
正面3間で、中央の柱間は広く取られています。

柱はいずれも円柱。柱上の組物は三手先。
柱の上部には細い頭貫が通り、中央の柱間は中備えに蟇股が配されています。

頭貫の上の蟇股には竜の彫刻。
その上の蟇股は渦状の若葉の彫刻です。

向かって左の柱間。
こちらの中備えは、蟇股ではなく間斗束。


右廻廊の内部から楼門下層の左側面(西面)を見た図。
側面は2間で、柱間は横板壁。
頭貫に木鼻がついているのが確認できます。
飛貫には右廻廊の妻飾りの大瓶束が乗っていて、楼門と廻廊が一体化しているのがわかります。

内部。格天井が張られています。
通路部の柱間には冠木がわたされ、中備えは間斗束。門扉は板戸です。

上層。
下層と同様に正面3間で、中央の柱間が広いです。
軒裏は平行の二軒繁垂木。

中央の柱間。欄干の影になって見づらいですが、柱間に板戸があります。
上層の組物は、和様の尾垂木三手先。実肘木を介して軒桁を受け、桁下には軒支輪が使われています。

頭貫の上の中備えは3間とも間斗束ですが、中央の柱間は間斗束の左右に彫刻(笈形?)があります。彫刻の題材は蓮と思われます。
笈形付き大瓶束はよく見かけますが、「笈形付き間斗束」はめずらしいと思います。

向かって左。
見づらいですがこちらも柱間は板戸で、頭貫に木鼻があります。
中備えは通常の間斗束。

右側面(東面)。
側面は2間で、柱間に連子窓らしき意匠が見えます。

破風板の拝みと桁隠しには、猪目懸魚が3つ下がっています。
奥の妻飾りは豕扠首。

背面。写真右は拝殿。
左右の回廊はL字型に伸び、拝殿の前の広場を囲っています。


背面も、正面と同様の蟇股や笈形付き間斗束があります。

下層背面には食用油の一斗缶。
社名に油の字があるためか、製油業者から奉納を受けているようです。
左右廻廊

楼門向かって左には右廻廊。神座(本殿)から見て右側のため、こちらが「右廻廊」となります。
桁行折れ曲がり11間・梁間1間、切妻造、檜皮葺。
L字型の平面構成をしており、正面(南面)は桁行4間、側面の外側(西面)は桁行7間で、折れ曲り延長はつごう11間となっています。
右廻廊、左廻廊ともに1566年造営。楼門とあわせて「油日神社楼門及び廻廊」3棟として国指定重要文化財です。

正面向かって右側。
柱は円柱。柱間は飛貫でつながれ、柱上は舟肘木。
右端の柱は楼門下層と共有していて、柱に舟肘木を挿して軒桁を受けています。

隅の柱。
飛貫の上の欄間には小壁が張られ、中備えはありません。
軒裏は一重のまばら垂木。

左側面。
腰貫の下には縦板の腰壁が張られています。
折れ曲がり部分の柱間(写真右端)は、ほかの柱間より広く取られています。

内側から見た図(北面と東面)。
内側には腰貫と腰壁がありません。内部には低い床が張られています。

右側面(東面)。
最後方の柱間(写真右端)は床板が張られず、土間床となっています。

背面(北面)の妻面。
無地の妻虹梁の上に撥束を立て、棟木を受けています。
破風板の拝みには梅鉢懸魚。


楼門向かって右は左廻廊。
桁行折れ曲がり10間・梁間1間、切妻造、檜皮葺。
こちらはL字を左右逆にした平面構成で、正面は桁行4間、側面の外側は6間で、折れ曲り10間。右廻廊を左右反転したような造りですが、この左廻廊は側面が1間少なくなっています。

側面の内側(西面)。
左廻廊は最後方(写真左端)の柱間まで床が張られています。
ほか、細部の意匠は右廻廊と同じです。

内部には虹梁がわたされています。虹梁は眉欠きだけ彫られたもの。
虹梁の上には板蟇股が置かれ、棟木を受けています。

折れ曲がり部分の内部。
斜め方向に虹梁がわたされ、棟木の直交する部分を板蟇股で受けています。
楼門、廻廊については以上。
*1:附:棟札3枚