甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【立山町】雄山神社(中宮祈願殿)

今回は富山県立山町の雄山神社(おやま-)中宮祈願殿(ちゅうぐうきがんでん)について。

 

雄山神社は立山の山中に鎮座する越中国一宮です。里宮(前立社壇)と山宮(峰本社)の中間に位置する中宮祈願殿は、芦峅寺地区の住宅地に鎮座しています。

雄山神社の創建や沿革については前立社壇の記事にて既述のため割愛。中宮祈願殿は明治の神仏分離令まで芦峅寺(あしくらじ)または中宮寺とも呼ばれ、峰本社への参拝の拠点として隆盛しました。

現在の境内は近現代に整備されたものと思われます。境内の一画に鎮座する若宮社殿は桃山時代の建築で、町の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒930-1406富山県中新川郡立山町芦峅寺2(地図)
アクセス 有峰口駅から徒歩30分
立山ICから車で25分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 雄山神社TOP
所要時間 15分程度

 

境内

手水舎

雄山神社中宮祈願殿の境内は南東向き。入口は町の幹線道路に面しています。

入口には石造明神鳥居が立っています。扁額はありません。

 

参道右手には手水舎。

切妻、桟瓦葺。

 

柱はいずれも面取り角柱。主柱の脇には細い控柱が2本ずつ添えられ、大小あわせて12本の柱が使われています。

主柱の頭貫の位置には木鼻がついています。

柱上の組物は舟肘木で、ひとつの舟肘木を主柱と控柱とで支えています。

 

頭貫の上の中備えは蟇股。内側には雲状の彫刻があります。

妻虹梁は眉欠きと絵様が彫られたもの。妻飾りは豕扠首。

 

破風板の拝みには蕪懸魚。

軒桁の木口は金具でカバーされています。

 

平側の中備え。妻側のものと同じ蟇股です。

軒裏は一重まばら垂木で、化粧屋根裏。

 

境内社

参道右手には2棟の手水舎が西面しています。

左は治國神社(宝童社)、右は神明宮。

神明宮は、桁行3間・梁間1間、三間社流造、向拝3間、銅板葺。見世棚造。

 

神明社の正面の軒下。

向かって左は「■神社」(■部判読できず)で、麻続祖神なる神が祀られているとのこと。中央と右は「天照皇大神宮」と「豊受大神宮」で、伊勢の内宮・外宮の分霊です。

 

向拝柱は面取り角柱。隅の柱には、側面に木鼻がついています。

柱上の組物は大斗と舟肘木を組んだもの。前方には角ばった木鼻が出ています。

 

階段や縁側はなく、向拝の空間には床が張られています(見世棚造)。

母屋柱は円柱。母屋側面は1間で、柱間は横板壁。

 

向拝柱と母屋柱とのあいだには、繋ぎ虹梁がわたされています。繋ぎ虹梁は眉欠きと袖切が彫られたもの。

母屋柱の上の組物も大斗と舟肘木。母屋の軸部は貫と長押で固められ、中備えの意匠はありません。

妻虹梁は無地の材が使われ、妻飾りは豕扠首。

 

破風板の拝みには懸魚。矢印型の穴が開けられています。

桁隠しはありません。

 

背面は3間。こちらも中備えはありません。

柱間は横板壁。背面の床下は、格子が張られています。

 

左側の治國神社(宝童社)は、一間社流造、桟瓦葺。見世棚造。

祭神は新川姫神。当初は常願寺川の水防の神だったらしいですが、現在は子育ての神とされているとのこと。

 

向拝柱は面取り角柱。柱上は出三斗。

水引虹梁は使われていません。

 

母屋柱も面取り角柱が使われています。母屋正面には虹梁がわたされ、中備えは蟇股。

向拝柱と母屋柱のあいだには海老虹梁。

 

母屋は組物が使われていません。梁の上には角柱の束が立てられています。

破風板の拝みには猪目懸魚。

 

祈願殿

参道を進むと、参道右手に祈願殿があります。明治初期まで大講堂と呼ばれていたとのこと。

入母屋、向拝1間、桟瓦葺。

 

虹梁は眉欠きだけが彫られたもの。中備えは束が立てられています。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。柱上は大斗と実肘木。

向拝柱と母屋とのあいだには海老虹梁がわたされています。母屋側は、柱間に束を立てて海老虹梁を受けています。

 

母屋柱は角柱。柱上は舟肘木。

軒裏は一重まばら垂木。

 

祈願殿の後方には、本殿をおさめた覆屋らしき社殿があります。

 

立山大宮

祈願殿の前を通って境内の奥へ進むと、立山大宮が南面しています。祭神は立山権現(イザナキ)、本地仏は阿弥陀如来とのこと。

一間社流造、銅板葺。見世棚造。

 

向拝は1間。見世棚となっています。

母屋側面は2間。母屋柱・向拝柱ともに角柱が使われています。

 

母屋正面には桟唐戸が設けられています。

扉の上の扁額は「立山大宮」。

 

柱上には舟肘木が使われています。

妻虹梁の上には角柱の束。

破風板の拝みには梅鉢懸魚。

 

立山若宮と剱嶽社

祈願殿の南側の岩の上には若宮社殿があります。

桁行1間・梁間2間、一間社流造、銅板葺。

1185年造営という説もあるようですが、棟札の銘より1588年(天正十六年)造営と考えられます。町指定有形文化財。

老朽化と積雪の対策のため、母屋の周囲は支柱と壁に囲われていて、社殿本体を見ることはできません。

 

若宮社殿の近くには釼嶽社。

1956年に剱岳山頂に造営されたもので、2009年の新社殿造営ともない現在地に移築されました。

一間社流造?、板葺。覆屋は切妻、銅板葺。

 

釼嶽社の本体部分の屋根は板葺きで、その上に垂木のような部材が乗っています。

 

向拝柱は角柱で、舟肘木で軒桁を受けています。

貫の上の中備えは蟇股。独特な形状です。

 

土台部分は井桁に組まれ、覆屋の土台と一体化しています。

 

祈願殿の南には瑞垣に囲われた標柱があります。

「立山開山御廟」とあり、立山および雄山神社を開山したと伝わる佐伯有頼(さえき の ありより、676頃-759?)を祀った廟所のようです。

 

以上、雄山神社(中宮祈願殿)でした。

(訪問日2024/11/03)