甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【立山町】雄山神社(前立社壇)

今回は富山県立山町の雄山神社(おやま-)について。

 

雄山神社は立山の山中に鎮座する越中国一宮です。里宮にあたる前立社壇(まえだてしゃだん)は常願寺川沿岸の集落に鎮座しています。

創建は不明。社伝によると、701年(大宝元年)に開かれた説と、703年(大宝三年)に開かれた説があるようです。史料上の初出は『日本三代実録』(901年成立)で、863年(貞観五年)の記事に記述があります。『延喜式』にも記載されており、小社に列しています。鎌倉時代には源頼朝によって前立社壇の社殿が造営されたようです。その後は、1492年(明応元年)に10代将軍・足利義稙が、1583年(天正十一年)に佐々成政が前立社壇を改修しました。江戸時代は加賀藩前田家の庇護を受けたとのこと。修験道や神仏習合の要素が濃い神社で、古くは雄山権現、立山権現と呼ばれたようですが、明治時代には「雄山神社」として県社に列しました。

境内は広大な立山連峰の各所に点在し、参拝者の便をはかるため、山のふもとに前立社壇(里宮)があります。国重文の前立社壇本殿は室町時代の造営で、五間社流造というめずらしい規模様式で造られています。

 

現地情報

所在地 〒930-1368富山県中新川郡立山町岩峅寺1(地図)
アクセス 岩峅寺駅から徒歩10分
流杉スマートICから車で15分
駐車場 20台(無料)
営業時間 06:00-18:00
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 雄山神社
所要時間 15分程度

 

境内

東神門と表神門

雄山神社前立社壇の境内は南西向き。

こちらは境内南側の鳥居。石造明神鳥居が南東向きに立っています。扁額は「雄山神社」。

 

鳥居の先には東神門があります。

一間一戸、四脚門、切妻、銅板葺。

 

正面向かって左の控柱。

控柱は面取り角柱。柱上は舟肘木。正面と側面には、平板な形状の木鼻がついています。

 

控柱のあいだには、絵様も眉欠きもない無地の梁がわたされています。

梁の上の中備えは板蟇股。

 

主柱は円柱で、棟木の近くまで柱が通っています。

 

拝殿の手前を通って境内北側へ行くと、こちらにも神門があります。北側の神門は表神門という名前がついているようで、北西向きです。

三間一戸、八脚門、切妻、銅板葺。

 

向かって左の柱間。左右の柱間は、中央よりも狭くなっています。

手前の控柱は面取り角柱。頭貫には、渦状の木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗。

 

正面中央の梁の中備えは蟇股。蟇股の内側には、波状の彫刻が入っています。

 

内部。

内側の主柱は円柱が使われ、棟木の真下まで柱が通っています。

主柱と主柱のあいだには、菱組の欄間。

主柱上端には、笈形が添えられています。笈形は若葉の意匠。

 

拝殿

境内の中心部には拝殿が南西向きに鎮座しています。

切妻、銅板葺。

 

柱は円柱で、柱上は舟肘木。中備えはありません。

建具は板戸が使われています。

 

右側面。

扉や窓の上には、菱組の欄間が入っています。

妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みに蕪懸魚が下がっています。

 

拝殿向かって左側には、名称不明の社殿(神饌所?)がつながっています。

切妻(妻入)、銅板葺。

各所の意匠は拝殿とほぼ同じで、舟肘木、豕扠首などが使われています。

 

社殿の軒下には、表神門と神饌所に使われていた鬼板が展示されていました。

 

拝殿右側には、3棟の境内社が並立しています。

向かって左から、八幡宮、刀尾社(たちおしゃ)、稲荷社。

いずれも一間社流造、銅板葺。

 

本殿

拝殿の後方には、透塀に囲われた本殿が鎮座しています。

桁行5間・梁間3間、五間社流造、向拝1間、こけら葺。

室町時代後期の造営と推定されています国指定重要文化財

 

母屋部分は正面5間。五間社流造(ごけんしゃ ながれづくり)というめずらしい建築様式です*1

母屋の側面は3間。そのうち後方の2間が内陣部分で、前方の1間通りは外陣に相当する前室となっています。このような前室付きの本殿は滋賀県近辺に多く分布していますが、北陸地方でも少数ながら散見されます。

母屋の正面が5間あるのに対して向拝は1間で、その1間部分だけ庇を伸ばして、正面の階段を覆っています。

縁側は切目縁が正面と両側面の計3面にまわされ、側面は縁側が途中で途切れています。欄干はありません。床下は、礎石の上に立てられた縁束で支えられています。

 

向拝は1間。海老虹梁などの懸架材はありません。

向拝柱は大面取り角柱。写真では分かりづらいですが、面取りの幅が大きく、室町時代あたりの技法です。

柱上の組物は連三斗。前後方向の持ち出しがなく、そのかわりに木鼻がついています。

軒裏を受ける手挟は、若葉のような意匠。

 

母屋の前面は5間。中央3間は半蔀、左右両端の各1間は横板壁。

柱の上部には長押が打たれていて、頭貫木鼻は使われていません。純粋な和様の建築です。

 

正面向かって右端の軒下。

中備えは蟇股。植物を題材にしたと思しき彫刻が入っています。

柱上の組物は出三斗と連三斗。隅の柱上は連三斗が使われ、頭貫木鼻の位置から出た斗栱が持送りになっています。

 

母屋側面の、内陣部分。

こちらも組物は出三斗と連三斗で、中備えに蟇股があります。組物や中備えは、1本の通肘木を共有して虹梁を受けています。

妻飾りは豕扠首。斜めの材の肩の部分に巻斗が乗り、桁を受けています。

破風板の拝みには猪目懸魚。桁隠しの懸魚はありません。

 

以上、雄山神社(前立社壇)でした。

(訪問日2023/05/05)

*1:流造は、正面1間の一間社流造と、正面3間の三間社流造がほとんどで、それ以外はきわめて数が少ない