甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【文京区】湯島天満宮

今回は東京都文京区の湯島天満宮(ゆしま てんまんぐう)について。

 

湯島天満宮は上野公園南西の住宅地に鎮座しています。

創建は、社伝によると雄略天皇の時代(458年頃)とのこと。その後の詳細な沿革は不明ですが、1355年(正平十年)に当地の住人によって天満宮が勧請・合祀されました。これが天満宮としての創建です。江戸時代には幕府の崇敬を受け、学問の神として学者や文人からも崇敬を集めました。明治時代には湯島神社と改称し、2000年に現在の社号となりました。

現在の境内は明治から近現代にかけてのもので、本殿は1995年の再建です。境内入口の表鳥居は江戸初期の鋳造製で、都指定有形文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒113-0034東京都文京区湯島3-30-1(地図)
アクセス 湯島駅から徒歩3分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 湯島天満宮公式サイト
所要時間 15分程度

 

境内

参道

湯島天満宮の境内は南向き。入口は、車道が屈曲する場所に面しています。

 

入口の表鳥居は、銅板でカバーされた明神鳥居。扁額は「天満宮」。

1667年(寛文七年)頃の造営で、都指定有形文化財です。

 

鳥居の柱の根本は火炎状の曲線の装飾がつき、装飾部には卍つなぎの文様が彫られています。その下には、唐獅子の頭の彫金。

柱の基部は、花型の台座と五角形の礎石があります。

鳥居にしては非常に凝った意匠です。

 

上部の貫と島木も、木口に飾り金具がつき、卍つなぎの文様があります。

 

鳥居をくぐると、右手に宝物殿があります。

軒下の中備えには、彩色された蟇股が配されています。

 

参道左手には手水舎。

切妻、銅瓦葺。

 

柱は石材が使われ、几帳面取り角柱です。

柱より上は木材で構成され、柱の正面と側面に唐獅子の木鼻があります。

柱上は皿付きの出三斗。

 

柱間には虹梁がわたされ、その上に台輪が通っています。

台輪の上の中備えは、松竹梅の彫刻。

 

妻面。こちらも中備えは松竹梅。

妻虹梁の上には、笈形付き大瓶束。

 

破風板の拝み懸魚は、鶴の彫刻。

 

拝殿と本殿

参道の先には拝殿・幣殿・本殿が一体化した社殿が鎮座しています。こちらは拝殿部分。

拝殿部分は、入母屋、正面千鳥破風付、向拝3間 軒唐破風付、銅板葺。

 

屋根の正面には、大きな千鳥破風があります。

破風の内側は二重虹梁になっており、蟇股や大瓶束が見えます。

破風板には猪目懸魚が3つ下がっています。

 

向拝の中央部は、虹梁が省略されています。向拝3間というよりは、1間の向拝が左右に並んだように見える構成です。

道明寺天満宮(大阪府藤井寺市)の拝殿向拝も同様の構成をしているほか、北野天満宮(京都市)の拝殿部分の向拝も同様に左右に分かれた構成になっているため、これは天満宮でよくある造りなのかもしれません。

 

向かって左端の向拝柱。

大面取り角柱で、正面と側面に唐獅子の木鼻があります。

柱上の組物は連三斗。

 

虹梁の上の中備えは蟇股。彫刻は牡丹に唐獅子で、桃山風に彩色されています。

 

中央の唐破風部分の軒下。

唐破風の小壁にも彩色された蟇股が置かれています。蟇股の周囲には、松竹梅にウグイスらしき鳥が飛ぶ彫刻。

 

向拝を左側面(西側)から見た図。

組物の上では、彩色された手挟が軒裏を受けています。

縋破風の桁隠しは猪目懸魚。

向拝柱と母屋は、ゆるやかにカーブした海老虹梁でつながれています。

 

母屋部分は円柱で構成され、正面の柱間は5間です。柱間の建具は、中央の1間は桟唐戸、ほかの4間は半蔀。

縁側は切目縁がまわされ、欄干は擬宝珠付き。

 

左側面(西面)。

側面は4間で、こちらは半蔀とガラス窓になっています。

 

側面の軒下の蟇股。白菊と思しき花が彫られています。

 

こちらは右側面(東面)の軒下の蟇股。

題材はヒルガオ(あるいはアサガオ?)など。

蟇股の脚の両端には、青い鰭状の意匠がついています。

 

拝殿西側には、橋のような渡り廊下が設けられていました。

 

拝殿の後方には、低い入母屋の屋根(写真中央)があります。

北野天満宮は拝殿の左右に楽の間という棟がありますが、おそらくそれに相当する部分かと思います。

 

本殿部分は、桁行3間・梁間3間、三間社入母屋、銅板葺。

祭神は菅原道真(天神)とタヂカラオ。

 

柱間は前(写真右)から板戸、連子窓、横板壁。

 

柱は円柱で、長押と頭貫で固定されています。

中備えは蟇股と間斗束で、こちらも桃山風の彩色。

組物は二手先。

 

背面も3間。柱間は、中央が蟇股、左右は間斗束。

頭貫に木鼻はありません。

 

大棟には紡錘形の鰹木が5本と、外削ぎの千木が乗っています。

 

境内社

本殿の裏手には回廊のような社殿があり、2棟の境内社が鎮座しています。

 

2棟のうち、向かって右にあるのは摂社・戸隠神社。

入母屋(妻入)、銅板葺。

 

柱には唐獅子の彫刻、扁額の上には竜の彫刻。

 

側面にも唐獅子の木鼻が出ているほか、中備えに彫刻があります。

 

向かって左は末社・笹塚稲荷。

一間社流造、銅板葺。

 

向かって左の向拝柱。几帳面取り角柱が使われ、側面に禅宗様木鼻がついています。

 

虹梁中備えは蟇股。桃山風の彩色で、花の彫刻がありますが、造形がやや抽象的で古風だと思います。

蟇股の上では、巻斗が軒桁を直接受けています。

 

母屋の両側面には棚が設けられ、ミニチュアの鳥居が大量に奉納されていました。おそらく千本鳥居のかわりでしょう。

 

本殿裏手の回廊にも、彩色された蟇股が多数あります。

上の写真の蟇股は、栗鼠(リス)に葡萄。寺社彫刻ではときどき見かける題材です。

 

こちらは、ボタンの花にとまる蝶を、猫が狙う図。

この題材は初めて見ました。

 

境内北側の出入口には、北門が北面しています。上の写真は北側から見上げた図。

三間一戸、四脚門、切妻、正面背面千鳥破風付、銅板葺。

 

正面の軒下。

柱には唐獅子の木鼻がつき、虹梁中備えには蟇股が2つ並んでいます。

唐破風の小壁には大瓶束。

 

柱はいずれも円柱。

門扉は桟唐戸。

 

背面から見下ろした図。

こちらにも軒唐破風がついています。

 

以上、湯島天満宮でした。

(訪問日2023/06/10)