甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【高岡市】勝興寺 その1 総門、唐門

今回は富山県高岡市の勝興寺(しょうこうじ)について。

 

勝興寺は伏木地区の高台に鎮座する浄土真宗本願寺派の寺院です。山号は雲龍山。

勝興寺の前身は、1471年(文明三年)に蓮如が開いた土山御坊(南砺市土山)で、1494年に同市高窪に移転したのち、佐渡にあった勝興寺の後継として現在の寺号を名乗りました。1519年には安養寺村(小矢部市末友)に移転しました。

室町後期は瑞泉寺(南砺市)とともに一向宗の拠点となり、1581年に石黒成綱の焼き討ちを受けます。その後、1584年(天正十二年)に佐々成政から寺領を寄進され、現在地に移転しました。桃山時代以降は前田氏の庇護を受け、江戸前期に境内が整備されました。

現在の境内は江戸前期に加賀蕃前田家によって整備されたもので、周囲には堀が残されていて城跡のなごりをとどめます。伽藍は江戸前期から後期にかけてのもので、巨大な本堂と大広間の2棟が国宝に指定*1、唐門などの10棟が重要文化財に指定されています。ほか、境内には七不思議と呼ばれる事物があり、蓮如にまつわる寺宝も公開されています。

 

当記事では、アクセス情報および総門、唐門について述べます。

本堂とその周辺については「その2」を、

経堂、大広間及び式台などについては「その3」をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒933-0112富山県高岡市伏木古国府17-1(地図)
アクセス 伏木駅から徒歩5分
小杉ICから車で30分
駐車場 40台(無料)
営業時間 09:00-16:00(※夏季は16:30まで)
入場料 500円
寺務所 あり
公式サイト 雲龍山 勝興寺
所要時間 90分程度

 

境内

総門

勝興寺の境内は東向き。浄土系寺院は、西方浄土を拝むために伽藍を東向きにすることが多いです。

入口の総門は、一間一戸、高麗門、切妻、本瓦葺。左右両脇築地塀付属。

1840年(天保十一年)造営。鬼瓦には1864年(元治元年)の銘があるとのこと。「勝興寺」10棟として国指定重要文化財

 

高麗門にしては大規模で、Wikipediaによると重要文化財の高麗門では最大級らしいです。

大棟には一対の鯱(シャチ)が乗っています。境内は海から1キロメートルほど離れていますが、潮風のせいか屋根瓦が赤茶色に変色しています。

 

向かって右の主柱。

柱は糸面取り角柱。面取りの幅がとても小さく、江戸後期の技法です。

柱の側面(写真右)には、大きな拳鼻がついています。

 

主柱のあいだには、大きな虹梁がわたされています。虹梁は眉と袖切がつき、若葉の絵様が深く掘られています。

虹梁中備えは、笈形付き大瓶束が2つ。大瓶束の前後には、大小2本の腕木(梁)が突き出し、桁を受けています。腕木の先端には、禅宗様の繰型。

 

屋根の切妻破風。

破風板には蕪懸魚が下がっています。左右に添えられた鰭は、菊の花の意匠。

鬼板には、加賀藩前田氏の家紋の梅鉢が描かれています。

 

背面から見た図。

後方には控柱が立てられ、低い切妻屋根を支えています。

 

控柱も面取り角柱。控柱の左右に腕木を伸ばし、屋根の軒桁を支えています。

背面の破風にも、鰭付きの蕪懸魚が下がっています。

 

総門の先には堀があり、堀の向こうに鼓楼が見えます。

鼓楼については、その3にて述べます。

 

唐門

総門の先には水堀があり、唐門の手前に拝観受付があります。以降の境内伽藍は、有料の区画となります。

石橋で水堀をわたった先には、唐門が鎮座しています。

一間一戸、四脚門、切妻、正面背面軒唐破風付、檜皮葺。

1769年(明和六年)造営。「勝興寺」10棟として国指定重要文化財(国重文)*2

 

屋根は檜皮葺。北陸地方では、檜皮葺き屋根は少ないようです。

当初は京都市の興正寺に勅使門として建立されたもので、1893年に北前船で当地まで運ばれ移築されました。建立時の棟札や絵図、移築時の銘札などが残されており、建立以降の経緯がはっきりと判っているようです。移築後は銅板葺でしたが、2014年頃の修理で、移築前の様式である桧皮葺に復されました。

 

正面の軒唐破風。

破風板や垂木はきらびやかな金具で飾られ、兎毛通には鳳凰の彫刻が下がっています。

 

正面の虹梁の上には出三斗。出三斗の肘木部分には、禅宗様木鼻のような繰型がついています。

唐破風の小壁には、笈形付き大瓶束。束は角柱で、左右の笈形は波の彫刻。

 

向かって左手前の控柱。几帳面取り角柱が使われ、上端が絞られています。

柱の正面と側面には、木鼻が2つついています。

柱上は、皿付きの出三斗。

 

向かって左(南面)の妻面。

側面(妻面)から腕木が突き出し、両脇の塀の棟に覆いかぶさるように伸びています。

妻虹梁の上には笈形付き大瓶束。こちらの笈形は標準的な形状ですが、笈形と垂木のあいだの空間は、精緻な彫刻で埋められています。

破風板の拝みと桁隠しには、鰭付きの三花懸魚。

 

内部の通路部分。

冠木の上の扁額は、山号「雲龍山」。

冠木の下の欄間には竜の彫刻。

 

扁額の左右には組物があり、組物の基部は蟇股になっています。蟇股の正面側は、鳳凰の彫刻になっていました。

 

通路部分を背面側から見た図。

こちらの欄間にも竜の彫刻があります。

冠木の上の蟇股には梅の彫刻。

 

内部から、向かって右(北)を見た図。

写真中央の主柱は円柱。手前(写真右)の控柱は角柱。柱の基部には禅宗様の礎石があります。

主柱と控柱のあいだには長押が打たれ、長押の上の欄間には、若葉を題材にした透かし彫りが入っています。

 

門扉は桟唐戸。

上部の羽目は透かし彫りの花狭間で、中央部に菊の彫刻が配されています。

 

背面全体図。

ほぼ前後対称の構造で、こちらも軒に唐破風があります。

 

その2では、本堂とその周辺について述べます。

*1:2022/12/12付で国宝指定

*2:附:棟札、旧獅子口