今回も愛知県豊川市の豊川稲荷について。
当記事では景雲門と奥の院などについて述べます。
禅堂と三重塔
本殿右側から渡り廊下をくぐって奥の院のほうへ向かうと、途中に禅堂などの伽藍があります。
こちらは禅堂。別名は万燈堂。東向きです。
入母屋、桟瓦葺。
案内版(設置者不明)によると1863年造営。
柱は面取り角柱で、組物は斗と花肘木のような部材が使われています。
軒裏は二軒まばら垂木。
奥の院へは2つの参道が並行して伸びており、東側の参道の脇には三重塔が東面しています。写真右奥に見えるのは禅堂。
三重塔は、三間三重塔婆、銅板葺。
造営年不明。
初重。
柱間は正面側面ともに3間。中央は桟唐戸、左右は連子窓です。
塔は石造の基壇の上に立ち、基壇の外周に欄干を立てることで、初重の縁側の代わりとしています。
柱はいずれも円柱。上端がわずかに絞られています。
軸部は貫と長押で固定され、頭貫と台輪には禅宗様木鼻がついています。
柱上の組物は尾垂木二手先。中備えは、中央の柱間に間斗束があります。
二重および三重。
二重は縁側があり、中央の扉は板戸が使われています。
軒裏はいずれの重も平行の二軒繁垂木。
頂部の宝輪。
露盤のうえにシンプルな受花が乗り、九輪、水煙、宝珠、といった構成です。
景雲門
三重塔から参道を北へ進むと、景雲門があります。
三間一戸、八脚門(?)、入母屋、正面軒唐破風付、左右庇付、銅板葺。
案内版によると1858年造営。当初は奥の院の拝殿でしたが、1930年に現在地に移築されたとのこと。彫刻は“諏訪ノ和四郎”の作らしいです。
おそらく、移築時に大幅な改造を受けたと思われ、当初の姿がどれだけ残っているのか不明。もとは拝殿だったため、門としては奇妙な構造の個所が散見されます。
正面中央の通路部分の柱間。
柱間には虹梁がわたされています。柱から、内の通路部へ向かって唐獅子の木鼻が出て、頭上の虹梁を持ち送りしています。
虹梁の上には台輪が通り、中備えは竜の彫刻。
組物は出組で、持ち出された桁の上の唐破風部分には、唐獅子の彫刻があります。
どちらの彫刻も良い造形だと思いますが、金網がかかっているのが惜しいです。
唐破風の兎毛通は、菊と思しき花の彫刻。
向かって右の柱間。
こちらは飛貫の位置に虹梁がわたされ、中備えは鳳凰の彫刻。
飛貫虹梁の下の持ち送りにも彫刻があります。題材は波に亀。
右手前の隅の柱。
母屋部分の柱は円柱。頭貫木鼻は唐獅子。
柱上の組物は出組。
中備えの蟇股や、桁下の支輪板にも彫刻がありますが、金網でよく見えず。
門の左右両側面には、このような庇がついています。
門として奇妙な形式ですが、拝殿でもこのような形式は風変りです。
庇の部分は、正面1間・側面2間。
庇の柱は角柱。頭貫に木鼻が付いています。
柱上の組物は、大斗と花肘木を組んだもの。
組物の上には、手挟と海老虹梁を兼ねたような独特の部材で軒裏を受けています。
庇の縋破風の先端は、木鼻のような渦と繰型がついています。
門の前方の1間通りは吹き放ち。
母屋柱は礎盤の上に立てられ、下端には飾り金具がついています。
通路部分。
通路の左右にはなぜか床が張られ、欄干が立っています。おそらく拝殿として使われていたときのなごりでしょう。
背面の軒下。
正面とは打って変わって、派手な彫刻や中備えは省略されています。軒唐破風もありません。
門扉は桟唐戸ですが、藁座で吊るのではなく、虹梁に穴をあけて軸を挿しています。
背面全体図。
左右に庇があるため、独特なシルエットです。
景雲門の先には納符堂。
八角円堂、銅板葺。
基壇の上に建ち、縁側はありません。柱間は桟唐戸と火灯窓が使われています。
柱は八角柱が使われ、頭貫には木鼻があります。
組み物は出三斗を変形させたものが使われています。中備えは間斗束で、組物と肘木を共有しています。
奥の院
景雲門をくぐって参道を進むと奥の院があります。こちらは拝殿で、奥の院は南東向き。
拝殿は、入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、桟瓦葺。
正面向拝の唐破風。
兎毛通は鳳凰、桁隠しは雲の彫刻。
虹梁の絵様は、若葉と雲を組合わせたような意匠。
虹梁中備えは竜の彫刻。
竜の上の唐破風の小壁には、雲間を駆ける2体の神獣(おそらく麒麟)が彫られています。
向拝柱は几帳面取り角柱。正面には唐獅子、側面には獏の木鼻。
柱上の組物は出三斗。内側の虹梁上にも組物があり、出三斗を2つ並べて連結した構造です。
組物の上の手挟は、菊の花が彫られています。
向拝と母屋をつなぐ海老虹梁は、豪快な竜の彫刻となっています。こちら(向かって左側)は降り竜。
反対側(向かって右側)。
頭が見えませんが、こちらは昇り竜。
母屋は正面3間。柱間は桟唐戸。
母屋柱は円柱で、正面と側面に唐獅子の木鼻があります。
組物は尾垂木二手先。
柱間には長押が打たれ、長押と頭貫のあいだの欄間には、雲間を飛ぶ天女の彫刻が入っています。
頭貫の上の中備えは蟇股。彫刻がありますが、題材が解りません。
組物で持ち出された桁の下には、雲の彫刻があります。
正面中央の柱間。
欄間には、何らかの故事の彫刻があります。ひょうたんを持った老人がいるので、題材はおそらく「瓢箪から駒」かと思います。
正面左側の欄間。
題材は鶴乗り仙人。
側面は2間。柱間は舞良戸。
軒下の意匠は正面とほぼ同じです。こちらも欄間に彫刻が入っていますが、私の知識では題材が解りませんでした。
縁側は3面にまわされ、背面側には脇障子が立てられています。
側面の入母屋破風。
妻飾りは、虹梁と大瓶束。虹梁は湾曲して中央部が高くなっており、その下に竜の彫刻が配されています。大瓶束の左右には、雲の意匠の笈形が添えられています。
破風板の拝み懸魚は、松に雀の彫刻。
拝殿の後方には、奥の院の本殿があります。
入母屋、銅板葺。
高い土塀に囲われ、詳細は観察できませんでした。
霊狐塚
奥の院の脇を通って境内最奥部へ進むと、霊狐塚があります。
塚の周囲にはおびただしい数の石像がならび、物々しい雰囲気。
大量の狐の石像は当寺の祈願者が奉納していったもので、その数の多さが崇敬の篤さを物語っています。
以上、豊川稲荷でした。
(訪問日2023/03/11)