甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【江南市】曼陀羅寺 前編(総門、地蔵堂)

今回は愛知県江南市の曼陀羅寺(まんだらじ)について。

 

曼陀羅寺は市北部の住宅地に鎮座する浄土宗西山派の寺院です。山号は日輪山。

創建は1329年(元徳元年)。後醍醐天皇の勅命によって開かれたと伝わり、勅願寺として隆盛しました。当初は円福寺と称していましたが、1462年(寛正三年)に現在の寺号に改められました。室町後期以降は織田氏をはじめとする歴代の領主から崇敬を受けました。

現在の境内は広大な領域に多数の子院が存続しており、往時の隆盛を偲ばせます。伽藍は書院が桃山時代、本堂(正堂)が江戸前期のもので、国の重要文化財に指定されています。地蔵堂は県指定、曼陀羅堂は市指定の文化財です。境内の一部は曼陀羅寺公園となっており、藤の名所として知られます。

 

当記事ではアクセス情報および総門、地蔵堂とその周辺の塔頭について述べます。

本堂、曼陀羅堂や境内北側の塔頭については後編をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒483-8336愛知県江南市前飛保町寺町202(地図)
アクセス 江南駅から徒歩30分
一宮木曽川ICから車で15分
駐車場 周辺に有料駐車場多数あり
営業時間 境内および曼陀羅寺公園は随時
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト 日輪山曼陀羅寺
所要時間 40分程度

 

境内

南門と総門

曼陀羅寺の境内は南東向き。入口は県道に面しています。

訪問時は「こうなん藤まつり」の期間中で縁日が開かれており、花見客でにぎわっていました。

境内入口の南門は、高麗門、切妻、本瓦葺。

 

南門の背面。

柱は角柱が使われています。柱から腕木を出して軒桁を支える簡素な構造です。

目立った装飾はありませんが、破風板の拝みには懸魚が下がっています。

 

南門の先には総門(中門)があり、境内中心部へとつづいています。

総門は、四脚門、切妻、檜皮葺。

造営年不明。私の推測になりますが、明治以降のものかと思います。

 

向かって右の控柱。

控柱は面取り角柱が使われています。面取りの幅が広めで、やや古風な技法。柱上の組物は出三斗。

柱の内側(写真左)には虹梁がかかり、虹梁の下側を挿肘木の斗栱で持ち送りしています。柱の正面と側面外側には木鼻。

 

向かって右の側面。

主柱は円柱が使われ、柱の上から冠木が突き出ています。冠木と頭貫の上には双斗のような組物が使われています。

妻虹梁の上には笈形付き大瓶束。笈形の上の組物の肘木部分は、大仏様木鼻のような形状になっています。

破風板の拝みと桁隠しには蕪懸魚。

 

正面の虹梁の中備えは蟇股。

内部の通路上には冠木がわたされ、こちらも中備えに蟇股が使われています。蟇股の彫刻は若葉で、やや抽象的で古風な趣のする造形です。

蟇股の上には桁が通り、板の天井が張られています。

 

寛立院と常照院

総門の左手前には、塔頭の寛立院があります。

寛立院本堂は寄棟、桟瓦葺。

 

寛立院の門は薬医門形式で、虹梁や中備え、木鼻や妻飾りに多数の彫刻が配されています。いずれも精緻な造形で、力作だと思います。

全体図は撮り忘れてしまったため割愛。

 

総門の先には、参道右手にも塔頭があります。こちらは常照院。

入口の門は、薬医門、切妻、桟瓦葺。

 

正面の軒下。

左右の柱の上には冠木がわたされ、中備えにも組物が配されています。組物は二手先。

軒裏は平行の二軒繁垂木。広角で撮影したため扇垂木のような写りになってしまいましたが、実物は平行垂木です。

 

背面の軒下。

こちらは虹梁がわたされ、中備えに一手先の組物が置かれています。こちらの虹梁は正面の冠木よりもやや高い位置にわたされているためか、組物の手数が減っています(正面の組物は二手先)。

柱の側面と背面には木鼻。

内部には格天井が張られています。

 

右側面の妻面。写真左が正面方向です。

柱と頭貫の上に出組が乗り、妻虹梁が持ち出されています。妻虹梁の上には笈形付き大瓶束。大瓶束は角ばった形状、左右の笈形は波の彫刻となっています。

見切れてしまいましたが、破風板の拝みには蕪懸魚が下がっています。

 

地蔵堂

総門をくぐって境内の中心部へ進むと、参道右手に地蔵堂があります。南西向きです。

桁行3間・梁間3間、寄棟、檜皮葺。

江戸前期の造営と推定されます。1668年(寛文八年)修理。*1県指定有形文化財。

もとは当寺の曼陀羅堂として造られ、現在の曼陀羅堂(江戸後期の造営)の位置にあったようです。当寺最古の建造物とのこと。

 

正面は3間。

柱間は、中央が格子戸、左右各1間が舞良戸。

柱は円柱が使われ、軸部は長押と貫で固定されています。

 

正面中央の軒下。

柱は上端が絞られ、粽となっています。柱上の組物は、木鼻のついた平三斗。

台輪の上の中備えは蟇股。植物を題材にした彫刻が入っています。

 

正面向かって右側。

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

隅の柱の組物は、出組となっています。

 

右側面および背面。

縁側は正面と左右側面の3面に、切目縁が張られています。欄干はありません。

側面も3間で、前方の2間は舞良戸、後方の1間はしっくい塗りの白壁となっています。

背面は3間。3間とも白壁です。

 

背面の軒下。

柱上の組物は、正面と同様に平三斗と出三斗です。中備えは省略されています。

軒裏は平行の二軒まばら垂木。

 

地蔵堂の向かいにも塔頭があります。こちらは光明院。

光明院本堂は、入母屋、向拝1間、桟瓦葺。

 

総門、地蔵堂については以上。

後編では本堂、曼陀羅堂などについて述べます。

*1:案内板(江南市教育委員会の設置)より