甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【笛吹市】瑜伽寺

今回は山梨県笛吹市の瑜伽寺(ゆかじ)について。

 

瑜伽寺は八代町地区の住宅地に鎮座する臨済宗向嶽寺派の寺院です。山号は無碍山。

創建は『甲斐国志』によると715年(霊亀元年)。境内からは甲斐国分尼寺のものに似た瓦が出土しており、甲斐国分寺・国分尼寺の開創にかかわった豪族によって、官寺として開かれたと考えられます。創建当初の宗派は不明ですが、1395年頃に向嶽寺(甲州市)の無住道雲によって真言宗から臨済宗に改宗されたようです。

現在の境内伽藍は、本堂(薬師堂)が江戸前期のもののようです。本堂内部には本尊の木造如来形坐像と脇侍の木造十二神将立像が安置され、いずれも平安時代から鎌倉時代の作で、県の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒406-0823山梨県笛吹市八代町永井1543(地図)
アクセス 笛吹八代スマートICから車で5分
駐車場 5台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

本堂(薬師堂)

瑜伽寺の境内は南西向き。入口には冠木門と高麗門を組み合わせた形式の門が建っています。

右の寺号標は「無碍山 瑜伽寺」。

 

門の柱は面取り角柱。

屋根は軒裏に垂木がなく、板軒です。

 

境内の中心部には本堂。

梁間3間・桁行4間、寄棟造(妻入)、向拝1間 切妻造(妻入)、茅葺形鉄板葺。

 

向拝は妻入りの切妻。

破風板の拝みと桁隠しには、雲状の懸魚が下がっています。

 

虹梁は、眉欠、袖切、絵様が彫られたもの。中備えは平三斗。

妻面には黒い板が張られ、笈形付き大瓶束で棟木を受けています。

 

向拝柱は上端が絞られた円柱。ここに円柱をつかうのはめずらしい技法です(通常は角柱を使う)。

柱上の組物は連三斗。柱の側面には木鼻がつき、巻斗を介して組物を受けています。

組物の上に見える桁の木口の部分(写真中央左上)には、黒い笹の葉のような彫刻がつき、木口を隠しています。風変わりな技法だと思います。

 

向拝柱と母屋柱とのあいだには、ゆるやかにカーブした海老虹梁がわたされています。向拝側は、海老虹梁の上に手挟のような部材があります。

向拝内部は棹縁天井が張られています。

軒裏は向拝・母屋ともに二軒まばら垂木。

 

正面の軒下。

母屋柱も円柱が使われ、柱間は貫と長押で固められています。

柱上の組物は出三斗と平三斗。中備えは蓑束。組物と中備えとで、通肘木を共有しています。

 

隅の柱には、頭貫に木鼻がついています。

 

右側面。

前方の2間通りは吹き放ちの外陣で、壁や建具がありません。後方の2間は内陣。

 

背面は3間。柱間は縦板壁。

縁側は切目縁が3面にまわされ、擬宝珠付きの欄干が立てられています。

組物や中備えなどの意匠は正面や側面と同様。

 

屋根は妻入りの寄棟造。

軒裏の四隅には、つっかい棒が立てられています。

 

向拝から堂内を見た図。

外陣は外周の1間通りが化粧屋根裏になっており、中央奥の1間に格天井が張られています。

前後方向には太い虹梁がわたされ、彩色された組物で格天井を受けています。

外陣と内陣の境界は、格子戸を張って仕切っています。

 

中央の格子戸の上には欄間彫刻があります。

中央は竹に虎、左は迦陵頻伽、右は題材がわかりません。

 

内陣中央には須弥壇が設けられ、そのうえに宮殿(厨子)が据えられています。

宮殿の左右には各6体、つごう12体の像が安置されています。これらは12世紀末期、鎌倉初期の造立で、「木造十二神将立像」12躯として県の文化財に指定されています。

 

須弥壇の宮殿は、向唐破風造。

極彩色の組物や蟇股、鳳凰の妻飾り、菊の花の懸魚などが使われ、桃山風の派手な作風です。

宮殿の内部には騎乗の姿の仏像が安置されています。

 

本堂向かって左手前には収蔵庫があり、本尊の木造如来形坐像(薬師如来)はここに保管されているようです。

木造如来形坐像は平安前期の造立と考えられ、こちらも県指定文化財です。

 

本堂の後方には門と本坊があります。

門は、薬医門、切妻造、桟瓦葺。

本坊は、寄棟造、鉄板葺。

 

天神社

瑜伽寺の東側には、天神社が隣接しています。瑜伽寺との関連性は不明ですが、あわせて紹介。

左の社号標は「天神社」。石造明神鳥居の扁額も「天神社」です。

 

二の鳥居は木造両部鳥居。扁額はありません。

 

参道左手には神楽殿。

入母屋造、銅板葺。

柱は面取り角柱、柱上は大斗と舟肘木。貫の上の中備えは間斗束。

 

参道の先には拝殿があります。

入母屋造、茅葺形鉄板葺、向拝1間 入母屋造(妻入)、桟瓦葺。

 

向拝柱は角柱。組物や木鼻などの意匠はありません。

母屋は前方の1間通りが吹き放ちになっていて、縁側が設けられています。

 

拝殿の後方には透塀に囲われた本殿が鎮座しています。案内板によると祭神は天神、八幡神、トヨウケ。

本殿は、一間社流造、銅板葺。

 

向拝柱は角柱で、柱上は連三斗。

母屋柱は円柱。頭貫に木鼻がつき、柱上は出組。

向拝の組物の上から海老虹梁が出て、母屋の組物の位置に取りついています。

 

頭貫の上の中備えは板蟇股。菊水の彫刻があります。

妻飾りは大瓶束。

 

背面。

大棟には千木と鰹木。

破風板は直線的な形状で、軒裏は一重の繁垂木。神明造を思わせる軒まわりです。

 

以上、瑜伽寺でした。

(訪問日2024/12/28)