甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【高岡市】勝興寺 その2 本堂

今回も富山県高岡市の勝興寺について。

 

その1では総門と唐門について述べました。

当記事では、本堂とその周辺について述べます。

 

本堂

唐門の先には、北陸屈指の規模を誇る巨大な本堂が鎮座しています。

入母屋、向拝3間、亜鉛合板葺。間口39.3m、奥行37.4m、棟高23.5m。

1795年(寛政七年)造営。「勝興寺」2棟として、大広間及び式台とともに国宝に指定されています

 

大工棟梁は当地の宮大工・瀧川喜ヱ門。設計は西本願寺の棟梁が行ったようで、造営の際は加賀藩作事方の大工頭・山上善五郎が指導にあたったとのこと。

屋根は、もとはこけら葺の上に鉛板を葺いていて、明治時代に瓦葺に改められたようです。1998~2004年の大修理では、環境に配慮しつつ当初の形態に復すため、屋根葺き材は鉛に似た色合いの亜鉛合板が選ばれました。

 

正面の向拝は3間。

縁側の周囲には柱が立てられ、軒先を支えています。この柱は、おそらく積雪対策だと思われます。

母屋の外陣部分は前面と両側面の1間通りが吹き放ちの庇となっており、軒先からかなり奥まった位置に母屋があるように見えます。

 

向拝の中央の柱間。

向拝柱は几帳面取り。上端がわずかに絞られています。柱上は出三斗。

虹梁は前面に絵様があるほか、中央部に錫杖彫りをアレンジしたような彫刻が入っており、独特な作風。

 

虹梁中央部の詳細。

前面の彫刻は、錫杖型の枠の中に菊が彫られています。

虹梁の下面にも彫刻があり、花や蔓草を図案化したような線彫りです。

虹梁の上の中備えは蟇股。彫刻は竜。

 

虹梁向かって左側。柱の側面には獏の木鼻がついています。

こちらの中備えの彫刻は麒麟。

隅の組物は、連三斗が使われています。

 

左端の向拝柱を、左側面(南側)から見た図。

柱上の組物の肘木には、木鼻のような繰型や線彫りが入っています。

組物の上の手挟には、松に鶴の彫刻。

向拝柱と母屋をつなぐ懸架材はありません。

 

縋破風。

桁隠しは猪目懸魚。波(波に千鳥?)の彫刻がついています。

 

向拝の軒下の階段は、角材を並べた構造。大型の仏堂の階段は、板材を組合わせたものが多いですが、この規模の仏堂で角材のものを使うはめずらしいと思います。

階段には昇高欄がつき、親柱は擬宝珠付き。

 

正面向かって左側。

軒先を支える柱は、縁束をそのまま上へ伸ばすのではなく、縁側の外にべつの柱を立てています。

 

縁側の左手前(南東)の隅。

縁束は几帳面取りで、四角い礎石の上に立てられています。

軒先の柱は角面取りで、禅宗様の礎石の上に立てられています。

 

軒先の柱の上部。柱上には出三斗が置かれ、桁を介して軒先を支ええています。

飛貫や頭貫の位置には禅宗様の象鼻。

 

向拝の左側の軒先。

隅の部分は出三斗が使われていましたが、ほかの部分は平三斗(木鼻付き)で、向拝のすぐとなりの部分(写真右)は連三斗が使われています。

軒を支える桁の先端には、繰型がついています。

 

軒先の柱と母屋の柱は、海老虹梁でつながれています。

 

つづいて母屋の部分。

母屋の外陣部分は前方と両側面の1間通りが吹き放ちで、庇の空間となっています。壁や建具は1間奥まった位置にあり、正面はいずれも桟唐戸です。

 

吹き放ちの空間にも海老虹梁がわたされています。

外周の柱は几帳面取り角柱です。

 

母屋柱は円柱。上端が絞られた粽です。

柱の上には台輪が通り、中備えは蟇股。唐獅子や麒麟など、神獣の彫刻が入っています。

柱上の組物は尾垂木二手先。

 

外陣部分の左側面(南面)。

柱間には長押が打たれ、建具は板戸と桟唐戸が使われています。

奥の内陣部分には建具や壁板があり、進入することはできません。

 

反対側、右側面の庇。

建具などの意匠は左側面と同様です。

 

右側面の庇の奥のほうには、組物(尾垂木二手先)の見本と、勝興寺本堂の軸組と小屋組の模型が置かれていました。

 

堂内の様子。写真左は外陣、右は「矢来」、右奥は内陣。

外陣の天井は、小組格天井。外陣と内陣のあいだの矢来という空間は、金色の縁どりの入った小組格天井です。堂内の案内板によると、内陣は折り上げ小組格天井で、菊の紋があしらわれているとのこと。天井の造りで空間の格のちがいを示しています。

 

内陣を構成する柱や梁には、金箔が貼られています。

内陣の中央部には須弥壇と厨子。本尊は阿弥陀如来。

 

矢来と内陣を隔てる柱の欄間。

柱の上端や、梁、蟇股、組物は、桃山風の極彩色に塗り分けられています。

柱と柱のあいだの欄間彫刻は、植物を題材にしたものと思われます。金ぴかで題材がいまひとつよく解りません。

 

室外の左側面(南面)。

前述のとおり、外陣の周囲のみ縁側があり、後方の内陣部分は壁が張られています。

 

左側面の入母屋破風。

破風板の拝みと桁隠しは三花懸魚。鰭は波の意匠。

妻飾りは二重虹梁で、大虹梁の上には唐獅子と思しき彫刻が配されています。

 

本堂周辺

本堂向かって右手前には手水舎。

寄棟、銅板葺。

造営年不明。文化財指定はとくにないようです。

 

本堂の周辺には、「勝興寺の七不思議」が点在しています。

手水舎のすぐ近くにある大樹は「実ならずの銀杏」。

イチョウにしては風変わりな枝ぶり。たいていのイチョウは、ほうきのような形に枝を張ると思います。

 

実ならずの銀杏の手前、唐門の近くには「天から降った石」。

天から降った、というのがどういう意味なのかは謎。表面を小石でたたくと、中が空洞であるかのように反響します。

 

本堂向かって右には「三葉の松」。

ふつうの松葉は2つですが、この松の木は葉が3つとなっています。

 

本堂左側には「水の涸れない池」。

なお、2023年8月に、猛暑のせいか一時水が枯れてしまったようです。

 

本堂については以上。

その3では、経堂、宝蔵、鼓楼、式台門、大広間および式台などについて述べます。