甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【栄町】大鷲神社

今回は千葉県栄町の大鷲神社(おおわし-)について。

 

大鷲神社は安食地区の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。社伝によると、ヤマトタケルが東征の折に当地に旗を立てた旧跡とのこと。近世より前の沿革は不明。江戸時代初期には春日局の崇敬を受け、子の竹千代(のちの徳川家光)の出世を祈願したとのこと。家光の将軍就任後、将軍家から金色の鷲の像が奉納され、以来、出世の神として広く崇敬されているようです。

現在の境内は江戸後期以降のもので、素木の彫刻で満たされた本殿が町の文化財となっています。また、境内社の魂生神社には、日本一と称する石造の男根像が祀られ、当社は子宝や安産の神としても信仰されているようです。

 

現地情報

所在地 〒270-1516千葉県印旛郡栄町安食3620(地図)
アクセス 安食駅から徒歩10分
成田スマートICまたは下総ICから車で25分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道と拝殿

大鷲神社の境内は西向き。めずらしい方角を向いています。入口は住宅地に面し、境内は小さな丘の上にあります。

入口の鳥居は石造の明神鳥居。扁額はなく、額束になっています。

 

鳥居の先は、参道が二手に分かれています。中央は境内中心部へまっすぐ昇る男坂、右手は魂生神社をまわって遠回りに昇る女坂。

 

境内の中心部へ行くと参道が左手に折れ、境内は南向きになります。拝殿や本殿も南向きです。

拝殿は、入母屋、向拝1間、銅板葺。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。正面と側面には象鼻。柱上の組物は出三斗。

海老虹梁はS字に湾曲した形状で、母屋の虹梁の上の微妙な位置に取り付いています。

 

向拝の虹梁中備えは蟇股。蟇股には、葉のついた菊の紋があります。

 

賽銭箱には、社名にちなんだ鷲の彫刻。

 

母屋柱は角柱、柱上は舟肘木。

軒裏は一重まばら垂木。

 

側面の柱間は、舞良戸と横板壁。

 

破風板の拝みには懸魚。

奥まっていて暗いですが、入母屋破風には木連格子が張られています。

 

本殿

拝殿の後方には、塀に囲われた本殿が鎮座しています。

一間社入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

1831年(天保二年)造営。町指定有形文化財。

祭神は天日鷲神、大国主、スクナビコナ、ヤマトタケル。

 

向拝は1間。軒先には軒唐破風が設けられています。

 

虹梁中備えには竜らしき彫刻がありますが、本殿の前には幣殿が迫っているためよく見えず。

虹梁の木鼻は見返り唐獅子。

組物は、出三斗を左右に2つ並べて連結したもの。

 

組物の上の手挟は、菊の籠彫り。

向拝の側面には縋破風が付き、桁隠しには菊の彫刻が使われています。

 

向拝と母屋をつなぐ海老虹梁は、竜の彫刻。江戸後期らしい作風です。

案内板*1によると、町内ではこの大鷲神社本殿と、近くにある駒形神社本殿の2例しかない意匠らしいです。

 

向拝の軒下には、角材の階段が5段。階段と縁側の欄干の親柱は擬宝珠付き。

階段の下には浜床が張られ、浜床にも欄干が立てられています。

 

母屋の正面は桟唐戸。

側面の羽目板には彫刻が見えます。

縁側は切目縁が4面にまわされ、背面側は脇障子を立ててふさいでいます。

 

左側面(西面)には、琴を演奏する人物の像が彫られています。縁側の脇障子にも、人物像の彫刻があります。

母屋柱は円柱で、S字状の唐草の紋様が入っています。

 

柱上には頭貫と台輪が通り、頭貫には唐獅子の木鼻。

組物は尾垂木三手先。柱間にも詰組が置かれています。組物と詰組のあいだには、竹や鶴などの花鳥の彫刻がありました。

 

縁の下は三手先の腰組で支えられています。腰組のあいだには、波に亀の彫刻。

腰組の下でも、唐獅子の彫刻が斜め方向に出ていて、土台の上の欄間には波の彫刻が入っています。

 

背面。こちらは欄干が跳高欄になっています。

柱間の彫刻の題材は、司馬温の甕割り。中央の人物が司馬温で、水がめに落ちた人(左)を救出しています。

 

右側面(東面)。

柱間は、碁盤に向かい合う人物の像が彫られています。

 

境内社

本殿左手は境内社。

右が御岳神社、左が石上神社。

 

境内社の近くには力石。

まん丸な形状は、甲州名物(?)の丸石神をほうふつとさせます。

 

こちらは本殿裏手にある麗峰神社。

案内板によると山の神のようで、麗峰神社という社名は大鷲神社の宮司によって名付けられたとのこと。

 

鳥居から拝殿までのルートは、男坂と女坂がありますが、女坂の途中にも境内社があります。こちらは魂生神社(こんせい-)。

社殿は、切妻、向拝1間、銅板葺。

 

向拝柱は几帳面取りで、正面と側面には木鼻。柱上の組物は出三斗。

虹梁中備えは蟇股。

 

内部には「魂生大明神」と書かれた石造の男根像が鎮座しています。案内板(設置者不明)によると高さ2.5メートルで、日本一の大きさとのこと。

私の知るところだと、長野県佐久市に「北沢大石棒」*2という縄文時代の石棒がありますが、それよりも大きいです。

 

以上、大鷲神社でした。

(訪問日2022/11/19)

*1:栄町教育委員会による設置

*2:高さ2.23メートル