甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【東近江市】布施神社

今回は滋賀県東近江市の布施神社(ふせ-)について。

 

布施神社は近江鉄道沿線の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。社伝によると、979年(天元二年)に尋禅(慈忍阿闍梨)が当地に玉緒山地福寺を開き、その鎮守社として創られたのが当社の始まりとのこと。社殿は、1224年(貞応三年)に同市の布施山に造られたものを、慶長年間(1596-1615)に現在地に移したとのこと。

現在の本殿3棟は鎌倉時代後期の造営と考えられ、神社本殿の中でもかなり古い部類に入ります。いずれも小規模な本殿ですが、国の重要文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒527-0081滋賀県東近江市布施町29(地図)
アクセス 大学前駅から徒歩1分
蒲生スマートICから車で10分
駐車場 3台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

拝殿

布施神社の境内は西向き。入口は幹線道路に面し、境内裏には近江鉄道が通っています。

入口に立つ一の鳥居は石造の明神鳥居。

 

参道右手には手水舎。

切妻、銅板葺。

 

柱は面取り角柱。

妻飾りには板蟇股、破風板の拝みには猪目懸魚。

 

二の鳥居は木造の両部鳥居。

 

拝殿は、入母屋(妻入)、桟瓦葺。

柱間に建具がなく、4面すべてが吹き放ちで、神楽殿のような造り。

 

破風板の拝みには鰭付きの懸魚。

入母屋破風には木連格子が張られています。

 

柱は角柱で、柱上は舟肘木。

軒裏は一重まばら垂木。

 

布施神社本殿 3棟

拝殿の後方には覆屋があります。内部には、日龍社、春日社、十禅師社の計3棟が収められています。

内部の本殿3棟は造営年不明ですが、いずれも鎌倉時代後期の造営と推定されています。「布施神社本殿 3棟」として国指定重要文化財

 

布施神社本殿 日龍社

3棟の本殿のうち、中央に鎮座しているのが日龍社。

一間社流造、こけら葺。

祭神は、ニニギと天児屋根。

 

向拝柱は面取り角柱。鎌倉時代のものにしては面取りが小さいと思います。

組物は連三斗。実肘木がなく、軒桁を直接受けています。

柱の側面には斗栱が出て、連三斗を持ち送りしています。

 

向拝の軒下には角材の階段が5段。階段の下には浜床が張られています。

昇高欄の親柱は擬宝珠付き。

 

母屋柱の正面には板戸が設けられています。

縁側は3面にまわされ、背面側には脇障子がありますが、脇障子の羽目板がなくなっています。

 

母屋柱は円柱。柱上には舟肘木が使われていて、ここは古風な技法です。

母屋柱と向拝柱の間には、まっすぐな梁が渡されています。

 

側面。

破風板の拝みと桁隠しに、蕪懸魚が下がっているのが見えます。

案内板(東近江市教育委員会)によると“妻板より造出しの板蟇股は特に美し”いそうですが、覆屋の骨組みやアングルの関係でほとんど見えず。

 

布施神社本殿 春日社

向かって右側は春日社。前述の日龍社と同じ様式で外観も酷似していますが、ひとまわり小さく造られています。

一間社流造、こけら葺。

祭神はタケミカヅチなどの春日神。

 

向拝柱は角面取り。柱上は連三斗。

階段は5段、昇高欄の親柱は擬宝珠付きで、下に浜床が張られています。

 

母屋柱は円柱、柱上は舟肘木。

破風板には蕪懸魚。

縁側の脇障子の羽目板がない点や、妻飾りがよく見えない点も日龍社と同様です。

 

布施神社本殿 十禅師社

向かって左側は十禅師社。前述の春日社と同様に、日龍社を小さくしたような造り。

一間社流造、こけら葺。

祭神はオオヤマツミなどの山王権現。

 

向拝柱の組物と、階段および浜床。

前述の本殿と同じ造り。

 

軒裏は二軒繁垂木。

日龍社と春日社は一重(一軒)の繁垂木でした。なぜこの社殿だけ二軒なのかは不明。

 

母屋柱は円柱、柱上は舟肘木。

前述の本殿と同様、この本殿も脇障子の羽目板がありません。

 

その他の境内社

3棟の本殿の左側(北)には八幡社。

一間社流造、こけら葺。

見世棚造で、各所の意匠は簡略化されています。

 

境内入口の近くの参道脇には弁天社。

一間社流造、銅板葺。

 

以上、布施神社でした。

(訪問日2022/10/15)