甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【東近江市】引接寺と日吉神社(今崎町)

今回は滋賀県東近江市今崎町(いまさきちょう)の引接寺日吉神社について。

 

引接寺(今崎町)

所在地:〒527-0016滋賀県東近江市今崎町293(地図)

 

引接寺(いんじょうじ)は近江鉄道沿線の住宅地に鎮座する天台宗の寺院です。山号は安養山。

同市上山町にある来迎山引接寺とは別の寺院です。

創建は寺伝によると1324年(正中元年)。1747年(延享四年)に中興され、現在に至るとのこと。現在の本堂は江戸後期のもので、多数の彫刻が配された造りです。また、当寺の所蔵する木造地蔵菩薩立像は市の文化財となっています。

 

境内

引接寺の境内は西向き。旧脇街道の御代参街道に面しています。

入口の山門は、一間一戸、薬医門、切妻、本瓦葺。

 

柱は角柱。

前方に腕木(男梁)を伸ばし、軒桁を受けています。

 

男梁の先端には唐草状の繰型が彫られています。

男梁の下には女梁が出て、花肘木のような部材でつながっています。

 

妻飾りは笈形付き大瓶束。

内部に天井はなく、化粧屋根裏。

 

山門向かって左にある鐘楼は、切妻、桟瓦葺。

柱は角柱。柱間の中備えや妻飾りには、シンプルな角柱の束が入れられています。

 

山門の先には本堂が鎮座しています。

桁行5間・梁間不明、入母屋、向拝1間、本瓦葺。

1823年(文政六年)造営。

本尊は阿弥陀如来。

 

向拝は1間。母屋の中央3間ぶんの幅がとられていて、広々とした印象。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。

向拝柱の内側に力神の彫刻が添えられ、上の虹梁を持ち送りしています。ここに力神を配置するのは風変わり。このような例は初めて見ました。

 

向拝柱の正面には唐獅子、側面には獏の彫刻。金網がかかっていて見づらいのが惜しいです。

柱上の組物は出三斗。

 

海老虹梁はゆるやかにカーブした形状。向拝側、母屋側ともに、雲状の彫刻の持ち送りが添えられています。

向拝の組物の上では、籠彫りされた手挟が軒裏を受けています。

 

向拝の縋破風。

桁隠しの懸魚は、鳳凰の彫刻。

 

虹梁中備えには波に竜の彫刻。

 

母屋前面は5間。

中央の3間は桟唐戸が使われ、柱間が狭いです。左右両端の各1間は蔀で、柱間が広いです。

 

正面中央の桟唐戸。

戸の羽目板には、法輪や雲が浮き彫りされています。

 

母屋柱は円柱。上端が丸く絞られています。

飛貫虹梁には松の木の彫刻。その上の中備えは蟇股。

柱の上部には、頭貫と台輪が通っています。柱上の組物は出組。

扁額は院号「九品院」。

 

台輪の上の中備えは蟇股。

蟇股の彫刻の題材は、鶴乗り仙人(王子喬)など。

 

向かって右端の柱間。蔀を釣るための金具が下がっています。

飛貫の上の中備えは、蟇股と間斗束。どちらもクラブ型にくり抜かれていて、装飾的な意匠です。

台輪の上の中備えは詰組。

 

隅の柱には頭貫木鼻がついています。正面側面ともに唐獅子。

 

以上、引接寺(今崎町)でした。

 

日吉神社(今崎町)

所在地:〒527-0016滋賀県東近江市今崎町296(地図)

 

日吉神社(ひよし-)は安養山引接寺に隣接して鎮座しています。

創建は社伝によると延暦年間(782-806)。比叡山延暦寺の寺領に開かれた得珍山引接寺(同市今堀町の近辺?)の鎮守として、日吉神社が勧請されたのがはじまりとされます。室町末期には織田信長の侵攻を受けて、永禄年間(1558-1570)に現在地へと移転しました。現在の社殿は近現代の再建と思われます。

 

境内

日吉神社の境内は西向き。後述の社殿は南向きです。

引接寺の北に隣接していて、入口は御代参街道に面しています。

一の鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「日吉神社」。

 

参道左手には薬師堂。

薬師堂の手前には、宝篋印塔や五輪塔などの石造塔が並べられています。

 

二の鳥居は銅板でカバーされた明神鳥居。

右の社号標は「村社日吉神社」。

 

参道を進むと、拝殿の側面に行き当たります。

 

拝殿は、入母屋、桟瓦葺。

階段が設けられているため、こちら側(南面)が正面のようです。

柱は角柱、柱上は舟肘木。柱間に建具がなく、全方向が吹き放ち。

 

本殿の手前には中門が設けられています。

一間一戸、四脚門、向唐破風、銅板葺。

 

正面の唐破風の拝みには、鳳凰の彫刻。

 

台輪の上の中備えと、唐破風の妻飾りには竜と思しき彫刻があります。

 

柱は角柱。

唐獅子と獏の木鼻があったり、内部にも彫刻があったりするようですが、これ以上近づけないため詳細は観察できず。

 

本殿は、正面3間・梁間2間、三間社入母屋、向拝1間、銅板葺。

造営年不明。祭神はオオヤマツミなどの山王権現。

 

向拝は1間。海老虹梁はありません。

向拝柱の側面には、獏らしき木鼻が見えます。

 

母屋柱はいずれも円柱。

前方の1間通りは、床の低い前室(外陣)になっています。前室の柱間の建具は、桟唐戸の意匠の引き戸。

 

頭貫には唐獅子の木鼻。

組物は出組。中備えの蟇股には、何らかの人物像が彫られています。

 

背面は3間。こちらは中備えがありません。

軒裏は二軒繁垂木。

 

本殿向かって左手には佐助稲荷社。

覆屋の内部に2棟の本殿があり、向かって右が佐助稲荷社。左は天満宮。

 

以上、日吉神社(今崎町)でした。

(訪問日2022/10/15)