甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【垂井町】真禅院

今回は岐阜県垂井町の真禅院(しんぜんいん)について。

 

真禅院は町の南西の山際に鎮座する天台宗の寺院です。山号は朝倉山。

創建は不明。社伝によると、739年(天平十一年)に行基が開いた宮処寺(ぐうしょじ)が前身で、勅命を受けた最澄によって南宮大社の神宮寺とされたとのこと。

確立された時期は不明ですが、かつては南宮大社の境内南側に鎮座していたようです。1600年(慶長五年)の関ケ原の戦いで境内伽藍をすべて焼失し、徳川家光による南宮大社の再建にともない、当寺の伽藍も再建されました。1868年(明治元年)には、神仏分離令を受けて南宮大社から独立し、朝倉山真禅院と称しています。伽藍は、当地の住人の協力により現在地へ移築されました。

現在の境内は明治時代からのものですが、主要な伽藍は江戸初期に造られたもの。本堂に相当する本地堂と、三重塔が国重文に指定され、両者とも極彩色の美麗な造りになっています。

 

現地情報

所在地 〒503-2124岐阜県不破郡垂井町宮代2006(地図)
アクセス 垂井駅から徒歩30分
関ケ原ICから車で10分
駐車場 20台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト 朝倉山真禅院
所要時間 20分程度

 

境内

本地堂

真禅院の境内は東向き。南宮大社の西側500メートルほどの位置にあります。

 

石段の先には瓦屋根のついた冠木門。

 

門をくぐると、本堂に相当する本地堂が鎮座しています。

梁間3間・桁行4間、入母屋(妻入)、銅板葺。

1642年(寛永十九年)再建国指定重要文化財

当初は南宮大社の社殿のひとつとして造られたもので、1871年(明治四年)に現在地へ移築されました。2015年から3年にわたる修理が行われ、美麗な彩色が維持されています。

本尊は無量寿如来(阿弥陀如来)。南宮大社の祭神と同一視されていたもの(本地仏)で、これは神仏習合の典型例といえます。

 

建築様式は入母屋(妻入)。

前後にやや長い平面となっています。

 

正面は3間。

柱間は、中央が2つ折れの黒い桟唐戸、左右は緑色の連子窓。

建具の上には長押が打ちつけられています。

 

正面中央の柱間。

長押は六角形のパターンで極彩色に塗り分けられています。

柱は円柱で、上部は緑色に塗られています。

頭貫の上の中備えは蟇股。彫刻の題材は松。蟇股の巻斗の上は通し肘木になっていて、左右の組物と共有しています。

組物は木鼻のついた出組。桁下には緑色の軒支輪。

 

向かって左。

蟇股の彫刻は、松に鷹。

 

左側面(南面)。

前方2間の建具は、黒い舞良戸。

組物や、頭貫の上の蟇股などは正面と同様。

 

後方の2間は横板壁になっています。

 

左側面前方の蟇股の彫刻は、波に鴨。

ほか、鴛鴦(オシドリ)を題材にした蟇股もありました。

 

正面の入母屋破風。

破風板の拝みと桁隠しは猪目懸魚。拝み懸魚には三葉葵、破風板には三つ巴の紋。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

 

大瓶束の結綿は鬼の顔の意匠で、獅噛のようになっています。

 

観音堂と梵鐘

本地堂の右隣には観音堂。

入母屋、向拝1間、桟瓦葺。

本尊は十一面観音。

 

向拝柱は几帳面取り。柱上は連三斗。

虹梁中備えは蟇股。木鼻は拳鼻。

母屋前面は蔀戸になっています。

 

観音堂の向かいには鐘楼。

切妻、桟瓦葺。

本地堂とともに1642年に再建されたもの。県指定有形文化財。

内部に吊るされている梵鐘は奈良時代のものと推定され、国指定重要文化財

 

柱は円柱。上端が絞られています。

虹梁木鼻は拳鼻。虹梁の下部は、木鼻と斗栱で持ち送りされています。

柱上は出三斗。

 

虹梁中備えは大きな蟇股。

妻飾りは大瓶束。

破風板の拝みと桁隠しは猪目懸魚。

 

三重塔

境内の北端には三重塔が鎮座しています。

三間三重塔婆、本瓦葺。全高25.38メートル。

本地堂と同様に、1642年再建国指定重要文化財

 

三重塔は経年のため退色が進んでいます。

柱間は正面側面ともに3間。中央は板戸、左右は緑の連子窓。

 

縁側は切目縁。欄干は擬宝珠付き。

塔の初重の縁側に欄干を設けるのはちょっとめずらしいと思います。

 

軸部の固定は長押が多用されています。長押は輪違の文様をベースにしたパターンで塗り分けられています。

頭貫木鼻はなく、和様の意匠で構成されています。

組物は尾垂木三手先。

中備えの蟇股は、松竹梅などが題材となっています。

 

二重と三重。

欄干は跳高欄。中備えの蟇股は省略され、中央の柱間のみ間斗束が立てられています。

 

見上げた図。

いずれの重も、軒裏は二軒繁垂木。

 

その他の伽藍

境内の南側にもいくつか伽藍があります。

こちらは本地堂の南に並立する護摩堂。

寄棟、桟瓦葺。

 

不動堂のとなりには釈迦堂。

寄棟、向拝1間、桟瓦葺。

 

境内南端には薬師堂。

寄棟、桟瓦葺。

 

以上、真禅院でした。

(訪問日2022/06/25)