甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【鎌倉市】本覚寺

今回は神奈川県鎌倉市の本覚寺(ほんがくじ)について。

 

本覚寺は鎌倉の中心市街に鎮座する日蓮宗の本山です。山号は妙厳山。

前身となった夷堂は、鎌倉幕府が開かれるときに裏鬼門の鎮護として建立されたといわれます。当初の夷堂は天台宗寺院の伽藍だったようですが、日蓮が当地を拠点として布教活動を行ったことから、日蓮宗に改められました。本覚寺が開かれたのは1436年(永享八年)で、開山は日出、開基は第4代鎌倉公方・足利持氏。その後、当寺の第2世・日朝によって、久遠寺(山梨県身延町)から日蓮の遺骨が分骨されています。

現在の境内伽藍はほとんどが近現代に造られたもの。境内には、当寺の創建の由来となった夷堂が独特なデザインで再建されているほか、日蓮の分骨を祀った分骨堂があります。

 

現地情報

所在地 〒248-0006神奈川県鎌倉市小町1-12-12(地図)
アクセス 鎌倉駅から徒歩5分
朝比奈ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

楼門

本覚寺の境内は東向き。幹線道路の若宮大路に背を向けて鎮座し、正面側は閑静な住宅地に面しています。

境内入口には楼門(仁王門)。

一間一戸、楼門、入母屋、桟瓦葺。

造営年不明。江戸時代の造営で、1855年(安政二年)に三浦半島の寺院から移築されたものらしいです。国登録有形文化財。

 

下層。正面は3間。

柱は円柱。細い材が使われています。

左右の柱間の内部には、仁王像が安置されています。

 

中央の通路部分の柱間。

組物は出三斗、中備えは蟇股と間斗束。組物と中備えは通し肘木を共有しています。

 

頭貫には拳鼻がついています。

 

上層。

柱間は、桟唐戸と連子窓が使われています。

 

連子窓の上には長押が打たれています。頭貫には象鼻。

組物は出組。中備えは間斗束。

 

背面。

 

山門向かって左(南)には、名称不明の門があります。

 

冠木門と高麗門を組み合わせたような奇妙な構造をしていますが、すぐ近くにある妙本寺常栄寺(ぼたもち寺)でも同様の門を見かけたため、当地ではめずらしくない構造様式なのかもしれません。

 

境内の南を流れる川には、このような橋が架かっています。

この橋は夷堂橋といい、当寺にある夷堂が名前の由来で、石碑*1によると「鎌倉十橋」に数えられるとのこと。

 

夷堂

山門をくぐると、右手に夷堂(えびすどう)が南西向きに鎮座しています。

母屋部分は八角形の平面。屋根は銅板葺の宝形。

1981年の再建。

 

あえて正面に隅棟を配した構造や、むくりのついた釣鐘状の屋根が印象的。隅棟の末端を切り落として千鳥破風のような構造にすることで、とがった部分のない柔和なシルエットになっています。

仏堂にしては前衛的で、一度見たら忘れられないインパクトのある建築だと思います。

 

境内の外(東側)から見た図。

頂部に法輪が立っているため、外からでも仏堂だとわかります。

 

手水舎と玄関

参道右手には手水舎。

切妻、銅板葺。

昭和初期の造営。国登録有形文化財。

 

柱は几帳面取り角柱。唐獅子と獏の木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗。

虹梁は菊の絵様が彫られ、下端には波の意匠の持ち送りが添えられています。

 

虹梁と台輪の上の中備えは、竜の彫刻。

 

妻面(東面)。

こちらは中備えに鳳凰の彫刻が入っています。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板の拝みには懸魚。懸魚は風化で造形がつぶれてしまい、題材がわかりません。

 

参道左手、手水舎のはす向かいには玄関と客殿が北面しています。

1930年(昭和五年)の造営。国登録有形文化財。

当寺の昭和時代の伽藍は、後述の本堂の造営にたずさわった堀田太吉という人物が棟梁をつとめたようです。

 

玄関部分の軒下には、竜や唐獅子の彫刻が配されています。

 

本堂

境内の中心部には本堂が鎮座しています。

桁行7間・梁間7間、入母屋、向拝3間 軒唐破風付、桟瓦葺。

1923年(大正十二年)再建。国登録有形文化財*2

棟梁は10代目伊藤平左衛門。尾張の工匠の名跡です。

本尊は釈迦三尊。

 

向拝柱は面取り角柱。上端が絞られています。

柱上の組物は、皿付きの出三斗。

虹梁中備えは蟇股。

唐破風の小壁にも蟇股が配されています。

 

向拝の唐破風。

兎毛通には猪目懸魚が下がっています。

 

隅の向拝柱。

正面には唐獅子、側面には象の木鼻。

柱上の組物は連三斗。象の頭に巻斗が乗って、組物を持ち送りしています。

 

向拝と母屋のあいだには、カーブした海老虹梁が渡されています。母屋側は、頭貫の位置に取り付いています。

 

母屋の前面。

柱間は7間あり、建具はいずれも2つ折りの桟唐戸が使われています。

 

母屋柱は円柱。上端が絞られています(粽柱)。

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

組物は出組。中備えは蟇股。桁下には軒支輪。

 

軒裏は平行の二軒繁垂木。

地垂木の付け根に添えられた持ち送りは、雲と竜が彫られています。

 

側面も7間あり、柱間は桟唐戸としっくい塗りの壁となっています。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。

 

西面の入母屋破風。

妻飾りは二重虹梁で蟇股や大瓶束が見えますが、しっくいで白く塗りつぶされています。

屋根内部の小屋組にはトラス構造が採用されているそうで、外観と強度はそのままに軽量化に成功しているとのこと。

 

 

鐘楼と分骨堂

本堂向かって右手(北)には鐘楼。

入母屋、桟瓦葺。

1931年(昭和六年)造営。国登録有形文化財。

内部に吊るされた梵鐘には1410年(応永十七年)の銘があるとのこと。

 

飛貫と虹梁のあいだの欄間には、竜虎の彫刻。

台輪の上の中備えは、組物と蟇股。

 

柱は上端が絞られた円柱。唐獅子の木鼻がついています。

柱上の組物は出組。

 

入母屋破風には、鰭付きの蕪懸魚が下がっています。

見づらいですが、妻飾りは虹梁と大瓶束。

 

本堂の右隣(北)には分骨堂が並立しています。

桁行1間・梁間1間、一重、裳階付、宝形、桟瓦葺。

1930年造営。国登録有形文化財。

堂内には、日蓮宗総本山の久遠寺から分骨された日蓮の遺骨が祀られているとのこと。

下層の柱は角柱で、柱間は桟唐戸や火灯窓が使われています。

 

桟唐戸の上には蟇股。日蓮宗の紋「井桁に橘」が彫られています。

柱上の組物は、大斗と肘木を組んだもの。

 

上層。

軒裏は、上層下層ともに一重まばら垂木。

台輪と頭貫に禅宗様木鼻がつき、柱上は出三斗。中備えは平三斗。

 

境内の北側の出入口には、高麗門が北面しています。

一間一戸、高麗門、切妻、桟瓦葺。

 

主柱は円柱で、側面に象鼻。

梁の上から腕木を伸ばして桁を渡し、軒裏を受けています。

 

薬医門なので、後方に低い屋根が伸びています。

後方の控柱は角柱。

破風板の拝みには蕪懸魚が下がっています。

 

以上、本覚寺でした。

(訪問日2022/09/28)

*1:鎌倉町青年団による設置。

*2:2022年10月31日登録