今回は愛知県春日井市の密蔵院(みつぞういん)について。
密蔵院は庄内川東岸の住宅地に鎮座する天台宗の寺院です。山号は医王山(醫王山)、寺号は薬師寺。
創建は1328年(嘉暦三年)で、願興寺(岐阜県御嵩町)の僧侶・慈妙によって開かれました。創建以来、尾張地域の中心的な天台宗寺院として栄え、七堂伽藍をそなえる大寺院だったようです。室町末期には織田信長が比叡山と敵対した影響で衰退しましたが、江戸時代に再興され、名古屋東照宮の別当寺となりました。1891年の濃尾地震では主要な伽藍が倒壊する被害を受けています。
現在の境内伽藍は江戸時代以降に整備されたものと思われます。多宝塔は室町時代のもので、細部は禅宗様の意匠が採用されており、国の重要文化財に指定されています。ほか、伽藍6棟が市指定の文化財です。
現地情報
所在地 | 〒486-0822愛知県春日井市熊野町3133(地図) |
アクセス | 春日井駅または神領駅から徒歩30分 春日井ICから車で15分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | なし |
公式サイト | 密蔵院 |
所要時間 | 15分程度 |
境内
総門と観音堂
密蔵院の境内は南向き。入口は住宅地の生活道路に面しています。
右の寺号標は「天台宗医王山薬師寺密蔵院」。
総門は、高麗門、切妻、桟瓦葺。
「密蔵院建造物」6棟として市指定有形文化財。
背面。
柱はいずれも角柱。木鼻や懸魚などの意匠はありません。
参道左手には観音堂。
桁行3間・梁間3間、寄棟、桟瓦葺。
こちらも総門と同様に市指定文化財です。
正面中央の柱間。
柱はいずれも面取り角柱。面幅が広く、江戸前期あたりの技法に見えます。
柱上は舟肘木。中備えはありません。
側面は3間で、前方の1間通りは吹き放ちの外陣になっています。後方の2間通りは横板壁が張られています。
縁側はありません。
外陣の部分は棹縁天井が張られています。
母屋の正面は3間。中央は腰壁の上に格子が張られ、左右は引き戸が入っています。
多宝塔
境内中心部の参道左側(西側)には多宝塔が鎮座しています。
三間多宝塔、こけら葺。
室町後期の造営。国指定重要文化財*1。
東面の軒下。
下層は3間四方。柱間は、中央が桟唐戸、左右は腰貫の上下に縦板壁が張られています。
縁側は切目縁が4面にまわされています。欄干の親柱には禅宗様の逆蓮。
柱は上端が絞られた円柱。柱の上部には頭貫と台輪が通り、禅宗様木鼻がついています。
柱上の組物は出組。中備えはありません。
南面と西面。
こちらは中央に桟唐戸ではなく板戸が使われています。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
上層。
上層基部の亀腹は縦板で覆われています。
縁側と母屋は円形の平面。縁側には逆蓮のついた欄干が立てられています。縁の下には平三斗。
軒裏は下層と同様に平行の二軒繁垂木です。
母屋柱は上端が絞られた円柱。貫と台輪でつながれています。柱間には桟唐戸があります。
柱上の組物は禅宗様の四手先。軒の隅へ伸びる組物は、母屋柱と肘木のあいだに雲状の持ち送り材が添えられています。
頂部の宝輪。
露盤の上に伏鉢と反花が乗り、九輪の上に相輪と宝珠といった構成。先端の宝珠には火炎の意匠がついています。
開山堂と本堂
多宝塔の北側には鐘楼と開山堂(写真左端)があります。
鐘楼は切妻、銅板葺。
開山堂は東向き。
桁行3間・梁間3間、宝形、桟瓦葺。
市指定有形文化財。
右側面(北面)。
補強用の材が入っていて分かりづらいですが、前方の1間通りは吹き放ちの外陣で、柱間に格子戸が入っています。
柱は角柱。軸部は長押で固定されています。柱上は舟肘木。木鼻や中備えはありません。
鐘楼の北側には本堂の門。
薬医門、切妻、桟瓦葺。
境内の北には庫裏があります。
切妻(妻入)、桟瓦葺。
妻飾りは二重虹梁。大瓶束や蟇股が使われています。
破風板の拝みには片喰の紋がついています。拝みに蕪懸魚が下がっていますが、両端が欠けています。懸魚の左右の鰭は雲の意匠。
元三大師堂と山王社
境内東側の区画には元三大師堂が西面しています。
桁行3間・梁間3間、寄棟、桟瓦葺。
こちらも市指定有形文化財です。
柱は円柱。
柱間は頭貫でつながれ、頭貫に木鼻がついています。柱と頭貫の上には軒桁が直接乗っています。
軒裏は一重まばら垂木。
左側面(北面)。
柱間は縦板壁。縁側は正面と両側面に切目縁がまわされています。
境内北西の区画には山王社が南面しています。
桁行正面1間・背面3間・梁間1間、三間社流造、向拝1間、桟瓦葺。
市指定有形文化財。
向拝は1間。向拝柱は奥の母屋の幅いっぱいに設けられ、礎石の上に据えられています。
母屋の手前には角材の階段が7段。こちらは母屋の中央の1間ぶんの幅だけ設けられています。
奥の母屋は正面3間で、柱間には格子戸。
虹梁中備えは蟇股。中央部は火灯曲線状に繰りぬかれ、上部には実肘木のような意匠があります。
向拝柱は几帳面取り角柱。側面には木鼻がついています。
柱上の組物は連三斗。軒桁を直接受けています。
向拝の組物の上には手挟があります。海老虹梁などの懸架材はありません。
破風板の桁隠しは蕪懸魚。
母屋側面は1間で、柱間は横板壁。正面の格子戸は柱筋より少し奥まった場所にあります。
縁側はくれ縁が3面にまわされています。欄干は擬宝珠付き。
母屋柱は円柱で、舟肘木で軒桁を受けています。
妻飾りは大瓶束。束の下側の左右には、肘木のような部材が添えられています。
屋根は桟瓦葺。
破風板には猪目懸魚が下がっています。
背面は3間。補強のためなのか、筋交いなどの材が添えられています。
母屋柱の床下は八角柱に成形されています。
以上、密蔵院でした。
(訪問日2024/10/26)
*1:附:棟札5枚