甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【北杜市】津金学校

今回は山梨県北杜市の津金学校(つがねがっこう)について。

 

津金学校は須玉町の下津金集落にある旧校舎です。

竣工は1875年。県令・藤村紫朗による近代化政策の一環として県内各地に造られた擬洋風校舎(藤村式建築)のひとつです。1912年の台風で損傷を受けましたが、1985年(昭和60年)まで小学校校舎として使われました。閉校後、1990年の改築で竣工当初の姿に復原され、現在は博物館・喫茶店として一般公開されています。

 

現地情報

所在地 〒407-0322山梨県北杜市須玉町下津金2963(地図)
アクセス 須玉ICまたは長坂ICから車で15分
駐車場 50台(無料)
営業時間 09:00-17:00(水曜休館)
入場料 200円
公式サイト 津金学校
所要時間 30分程度

 

境内

外観

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津金学校の全体図。南向きに建てられています。

祝日に訪問したためか、敷地内では蚤の市や演奏会が開催されていて雑多な雰囲気でした。

 

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木造2階建、寄棟、桟瓦葺。車寄せ1間・向唐破風、中央屋上に塔屋付き。

竣工は1875年(明治8年)。県指定文化財。

 

日本人の大工が西洋の建築様式をまねて造った擬洋風建築(ぎようふうけんちく)のひとつ。

明治初期の山梨県令・藤村紫朗(ふじむら しろう)は近代化政策として洋風の建築を推奨し、その結果、県内にはよく似た外観の擬洋風建築が100棟以上も造られたため、この独特の擬洋風建築は藤村式建築と呼ばれます。日本の近代建築の歴史を知るうえで貴重な資料であるため国指定重要文化財になっている例もあり、旧山梨県東山梨郡役所(愛知県犬山市、博物館明治村へ移築)や旧睦沢学校校舎(甲府市、甲府駅へ移築)が代表的です。

現存する藤村式建築は今や数件しかなく、この旧津金学校校舎も数少ない現存例のひとつとして価値があります。

 

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正面中央の入口にはポーチ(車寄せ)が設けられています。

青い両開きの扉の上には「津金学校」の扁額。

 

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ポーチの2階部分。庇の屋根は寺社建築風の唐破風になっています。

ここは長野県松本市の旧開智学校(擬洋風建築ですが藤村式建築ではありません)と似ています。

 

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軒の出は浅く、軒裏はしっくいで固めて垂木が見えないように処理されています。

壁面はしっくい塗り。両開きの窓の下はガラス窓になっています。2階の前面にはベランダが設けられており、ここは旧睦沢学校校舎に似ています。

 

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2階ベランダの天井。

天井板は菱組の透かし打ちが使われていて、ここは洋風の技法です。

 

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側面。

角の部分には直方体の隅石が互いちがいに積まれ、柱が見えないようになっています。おそらくこの隅石は装飾用の擬石で、強度には寄与していないと思います。

 

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背面。

藤村式建築は正方形に近い平面が特徴のひとつとされますが、この校舎は奥行と較べて横幅が広く、長方形の平面になっています。

1階の西側の部屋は軽食・喫茶スペースになっていて厨房があるため、換気扇が設けられています。訪問時、内部はカレーの香りが漂っていました。

 

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屋上中央の塔屋(太鼓楼)。内部は文字どおり太鼓が吊るされ、当時は時報として使われたとのこと。

塔屋の屋根は角錐状の宝形になっており、屋根の上には風見鶏。母屋は正方形の平面で、4面すべてに窓が設けられ、窓の下には裳階(もこし)のような庇がついています。

 

1912年、明治から大正に改元された直後の8月に来た台風で校舎が損傷し、翌1913年(大正二年)3月の修復工事でこの塔屋は撤去されたようですが、1990年(平成二年)の改築で復元されています。

 

内部

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内部の見学は有料(200円)。軽食・喫茶のみの利用は入場無料。

いつの時代かはよく判りませんが、昔の学校の教室が保存されています。

展示資料は、この手の資料館でよくある古写真や帳簿、昔の民具・教材や子供の遊び道具が中心です。とくに目新しいものはなかったので割愛。

 

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こちらは北杜市内の旧家の土蔵などで見られる鏝絵。解体された土蔵から寄贈されたものとのこと。

寿の字、沢瀉の家紋、波に鶴など、家によって意匠はさまざま。

 

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内部の小屋組を見ることもできます。暗い写真になってしまいましたが、写真は2階の天井裏。

外観の装飾部材は洋風の意匠になっていますが、やはり小屋組のような構造部材は梁・桁や束を使った日本の在来の技法が採用されています。

2階の天井には天井板などは使われておらず、格子状の部材に障子紙を貼っただけのようです。そのため2階の電灯の光が天井裏にも差しています。

 

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こちらは校舎の屋上に立つ塔屋の内部。

内部は化粧屋根裏で、宝形の屋根形状にあわせて内部も角錐状になっています。

屋根裏の頂部は、桁の交差部に立てられた束で支えられています。

 

以上、津金学校でした。

(訪問日2021/11/03)