甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲府市】一蓮寺と信立寺

今回は山梨県甲府市の一蓮寺信立寺について。

 

一蓮寺

所在地:〒400-0865山梨県甲府市太田町5-16(地図)

 

一蓮寺(いちれんじ)は甲府の中心市街に鎮座する時宗の寺院です。山号は稲久山。

『甲斐国志』によると、平安末期から鎌倉初期に、一条小山にあった一条忠頼の居館(現在の甲府城跡)に開かれた寺院が当寺の前身とのこと。1312年(正和元年)に時宗に改宗し、一蓮寺が創建されました。

桃山時代には一条小山に甲府城が築城され、それにともない、文禄年間(1592-1596)に浅野長政の命で現在地へ移転しました。江戸時代には甲斐国の中心的な時宗寺院として隆盛しましたが、明治時代には鎮守社の稲積神社が分離され、往時の境内は現在の遊亀公園となっています。1945年の甲府空襲では本堂などの主要な伽藍を焼失し、現在の伽藍は戦後の再建です。

 

境内

一蓮寺の境内は南向き。入口には冠木門のような門が立っています。

稲積神社や遊亀公園とは反対側の、境内西側に正面の入口があります。

 

右手前の寺号標は「一條道場 稻久山 一蓮寺」。

寺号標には書かれていませんが、当寺は時宗の寺院です。時宗は鎌倉時代からの伝統を持つ宗派ですが、所属寺院の件数はあまり多くなく、めずらしいと思います。

 

冠木門は後方に控え柱が立ち、屋根がかけられています。高麗門のような構造です。

 

冠木門をくぐって先へ進むと参道が左(北)へ曲がり、突当たりの位置に鐘楼があります。

入母屋、桟瓦葺。

 

柱は角柱が使われています。柱上には大斗が置かれ、木鼻のついた虹梁がわたされています。

飛貫虹梁の中備えは透かし蟇股。

 

境内の中心部には本堂が南面しています。禅宗様建築のような2層のシルエットが印象的。

本堂は、入母屋、一重、裳階付、向拝1間 向唐破風、瓦棒銅板葺。

 

向かって左手前にある石碑は「山梨県議会発祥の地」。

廃藩置県で甲斐国に山梨県が設置されたのち、最初の県議会が一蓮寺の本堂で行われました。当時の県令(県知事)は藤村紫朗で、彼の政策によって旧睦沢学校をはじめとする特徴的な擬洋風建築が数多く造られました。なお、当時の一蓮寺本堂は太平洋戦争で焼失しています。

 

向拝部分。

破風板には飾り金具が付き、拝みに兎毛通が下がっています。

向拝柱は几帳面取り角柱で、虹梁中備えは透かし蟇股。唐破風の小壁には笈形付き大瓶束があります。

 

母屋柱は角柱。柱上の組物は出組。

柱間は長押や貫で連結され、連子窓と火灯窓が設けられています。

 

上層の柱は円柱。上端が絞られています。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は、下層と同様に出組です。

禅宗様建築の軒裏は、上層だけを扇垂木にすることが多いですが、この本堂は上層も下層も平行の二軒まばら垂木となっています。

大棟には武田菱や桐の紋が見えます。

 

破風板の拝みには三花懸魚。

破風の少し奥まった場所に木連格子が張られています。

 

以上、一蓮寺でした。

 

信立寺

所在地:〒400-0866山梨県甲府市若松町6-8(地図)

 

信立寺(しんりゅうじ)は甲府の中心市街地に鎮座する日蓮宗の寺院です。山号は広教山。

創建は1522年(大永二年)で、武田信虎によって開かれました。当初は躑躅ヶ崎館の城下の穴山小路に面した場所に鎮座しており、寺号は新立寺(または真立寺)と表記したようです。武田氏滅亡後は現在の寺号に改め、甲府城の築城にともない現在地へ移転しました。江戸時代には寺内町が形成され、近接する一蓮寺とともに隆盛しました。現在の境内伽藍は、1945年の甲府空襲ののちに再建されたものです。

 

境内

信立寺の境内は東向き。正面の入口は市内の幹線道路に面しています。

入口の山門は、一間一戸、薬医門、切妻、銅板葺。

 

内部向かって右側。写真右が正面側です。

柱は面取り角柱。主柱(写真右)の前後には繰型のついた腕木が出て、巻斗と肘木を介して妻虹梁を受けています。

妻虹梁の上では、大瓶束が棟木を受けています。

 

背面。

控柱の側面には木鼻がつき、柱上は大斗と花肘木のような部材を組んだものが使われています。

虹梁は若葉状の絵様が彫られています。中備えは蟇股のような部材が2つ置かれ、梁と軒桁の交点を支えています。

 

山門の先には本堂。近くにある一蓮寺の本堂とよく似た、禅宗様建築のような造りです。

入母屋、一重、裳階付、軒唐破風付、瓦棒銅板葺。

 

正面の庇の唐破風の部分。

庇の下には面取り角柱が立てられ、柱間は頭貫でつながれています。中央の唐破風の部分は頭貫が省略され、そのかわりに唐破風の小壁に虹梁と蟇股が使われています。

 

庇の柱の上には斗と舟肘木が置かれ、軒桁を受けています。

 

母屋の正面中央。扁額は寺号「信立寺」。

柱間の建具は板戸で、板戸の内に桟唐戸が設けられています。

 

左側面(南面)。

側面の柱間には連子窓があります。

縁側は前面のみで、側面にはまわされていません。

下層の軒裏は、吹き寄せの垂木が柱上だけに配されています。

 

上層。軒裏は平行の二軒まばら垂木。

柱は円柱で、柱間は長押で固定しています。

柱上の組物は出組。

 

本堂の背面(西側)にはこのような建物がつながっています。

おそらく本尊や位牌などを安置した堂かと思います。

 

以上、信立寺でした。

(訪問日2024/03/16)