今回は奈良県桜井市脇本(わきもと)の春日神社(かすが-)について。
春日神社は市東部の国道165号沿線の集落に鎮座しています。
創建は不明。社名から推察するに、春日大社から勧請されたものと思われます。沿革についても不明で、現在の本殿が江戸初期のもののため、遅くともその頃には確立されていたようです。
境内は大きなものではないですが、江戸初期の本殿は県指定文化財となっているだけでなく、三間社春日造というめずらしい様式で造られています。
現地情報
所在地 | 〒633-0018奈良県桜井市脇本355(地図) |
アクセス | 大和朝倉駅から徒歩15分 橿原北ICから車で20分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
拝殿
境内は国道から少し距離を置いた場所にあり、入口は集落の中を通る細道に面しています。なかなか趣のある道だと思います。
春日神社の境内は南向き。
鳥居は石造の明神鳥居。社号標は「春日神社」。
拝殿は切妻、向拝1間・入母屋(妻入)、桟瓦葺。
向拝部分。
軒下に目立った意匠はなく、軒裏は一重まばら垂木。
母屋正面は蔀で、中央が菱組の吹寄せ格子、左右が通常の格子。すぐ近くにある白山神社(黒崎)の拝殿も同様の意匠でした。
屋根瓦と大棟鬼板には下り藤。春日大社の紋です。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。
本殿
拝殿の裏には板塀に囲われた本殿が鎮座しています。
本殿は梁間3間・桁行2間、三間社春日造、向拝1間、檜皮葺。
棟木の銘より1603年(慶長八年)の建立とのこと(桜井市教育委員会の案内板より)。県指定文化財。
祭神はタケミカヅチ、天児屋根命などの春日神と思われます。
正面の向拝は1間。
虹梁中備えには蟇股と組物(平三斗)が並びます。退色してしまっていますが極彩色に塗り分けられていた形跡があり、安土桃山期の作風に見えます。
蟇股の彫刻については、近くで見ることができないため題材がよく解らず。遠目で見ても安土桃山期にしてはかなり良い造形のように感じたので、近くでじっくり見られないのが惜しいです。
母屋正面は柱が省略されて1間になっています。
こちらの頭貫の上にも蟇股などがあり、日が当たりにくいおかげか鮮やかな彩色が比較的良い状態で残っています。
写真では壁の影になってしまいましたが、母屋内部には3組の扉が設けられています。
このように3組の扉を設けた本殿を三間社というのですが、たいていの春日造は扉が1組だけの一間社春日造であり、この本殿のような三間社春日造(さんけんしゃ かすがづくり)は数が少なくめずらしいです。
左側面(西面)から見た向拝。
ゆるやかにカーブした海老虹梁が向拝と母屋をつないでいます。向拝側は組物の上から出ていて、母屋側は頭貫の位置に取りついています。軒裏すれすれを通っているからか、手挟はありません。
縋破風の破風板には、猪目に開口された桁隠しが下がっています。
軒裏は二軒繁垂木。軒裏の納まりを見ると、隅木を使っていない純粋な春日造であることが判ります。
右側面(東面)。柱間は2間。
壁面は白い壁板で、何か絵が描かれていたような痕跡があります。さすがに絵の題材は判りません。
母屋柱は円柱で、柱上は出三斗と平三斗。中備えはありません。
縁側はおそらくくれ縁。3面にまわされています。欄干は跳高欄。背面側は脇障子が立てられています。
母屋柱は礎石の上に立てられており、床下も円柱に成形されています。
屋根は檜皮葺。
破風板の拝みには猪目懸魚が下がっています。
大棟には2本の鰹木と、外削ぎの千木。
以上、春日神社(脇本)でした。
(訪問日2021/10/14)