甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【伊賀市】高倉神社

今回は三重県伊賀市の高倉神社(たかくら-)について。

 

高倉神社は市北部の山際に鎮座しています。

創建は社伝によると第11代・垂仁天皇の時代で、神武天皇の東征に従軍した神を当地に祀ったのがはじまりとされます。史料上の初出は『日本三代実録』で、861年(貞観三年)の記事に当社と推定される記述があるようです。その後の沿革は不明。安土桃山時代には、伊賀国守護の仁木長政によって現在の本殿が造営されました。

境内は3段の構成になっており、上段に3棟の本殿が鎮座しています。本殿は先述のとおり安土桃山時代のもので、桃山風のきらびやかな作風の建築となっており、国の重要文化財に指定されています。また、運送業や倉庫業の神として、現在も信仰を集めています。

 

現地情報

所在地 〒518-0025三重県伊賀市西高倉1050-2(地図)
アクセス 伊賀上野駅から徒歩60分
上野ICから車で15分
駐車場 3台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

参道と手水舎

高倉神社の境内は東向き。

境内南側の入口には鳥居と社号標があります。社号標は「不老長寿 高倉神社」。

鳥居は石造明神鳥居。扁額は判読できませんでした。

 

境内に入ると、参道左手に手水舎があります。

切妻、桟瓦葺。

 

柱は角柱で、虹梁の位置に木鼻がついています。

柱上の組物は、大斗と肘木を組んだもの。

 

妻面。

虹梁の上には大瓶束。その上の梁には束を立て、棟木を受けています。

破風板の拝みには蕪懸魚。左右の鰭は若葉の意匠。桁隠しも若葉の意匠です。

 

正面の虹梁中備えは蟇股。中央には菊の紋が彫られています。

蟇股の上には平三斗が置かれ、実肘木を介して桁を受けています。

 

拝殿

参道の先には拝殿が東面しています。

入母屋、正面軒唐破風付、銅板葺。

縁側はなく、内部は土間になっています。

 

正面の唐破風。

破風板の兎毛通は、中央に菊の紋が配され、その周囲には菊の葉が精緻な造形で彫られています。

 

唐破風の軒下には、板蟇股や大瓶束が使われています。

 

外周の柱は角柱。柱上は舟肘木。

虹梁の位置には木鼻がついています。

 

内部は、中央付近に4本の柱が立てられ、内陣のような空間が設けられています。

 

内陣を構成する柱は円柱。円柱の柱間の欄間には、目の細かい連子が張られています。

内部はいずれも格天井。

扁額は判読できず。

 

拝殿の裏には幣殿と思しき棟が伸び、その先に3棟の本殿が並立しています。

 

八幡社本殿

拝殿後方、境内上段には3棟の本殿が並んでいます。まずは向かって右端の境内社・八幡社から紹介。

八幡社本殿は、一間社流造、檜皮葺。

1574年(天正二年)造営。「高倉神社」3棟として国指定重要文化財*1

 

正面。向拝は1間。

紅白を中心とした彩色で、桁や組物などの部材は桃山風の極彩色で塗り分けられ、きらびやかな作風です。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。

柱上の組物は連三斗。柱の側面には木鼻がつき、皿付きの巻斗を介して組物を持送りしています。

虹梁中備えは蟇股。実肘木はなく、巻斗で桁を直接受けています。はらわたの彫刻は唐獅子。

 

向拝を向かって右側から見た図。

向拝柱の上では手挟が軒裏を受けています。

破風板の桁隠しには猪目懸魚。

 

母屋の正面には黒い格子が張られています。

母屋柱は円柱で、軸部は長押と頭貫で固定されています。頭貫には木鼻があります。

柱上の組物は連三斗。正面の格子の上の中備えは蟇股で、つがいの鳩が彫られています。

 

右側面。柱間は白い横板壁。

縁側は3面にまわされ、背面側は脇障子を立てています。

側面は、頭貫の上の中備えに間斗束を使い、実肘木を介して妻虹梁を受けています。

 

妻飾りは大瓶束。束の左右の壁には、牡丹が描かれています。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

背面。

こちらも中備えは間斗束です。

 

高倉神社本殿

つづいて、中央に鎮座する高倉神社本殿。

高倉神社本殿は、一間社流造、檜皮葺。

八幡社本殿と同様に1574年の造営で、「高倉神社」3棟として国重文

 

正面の向拝は1間。

向拝柱は面取り角柱で、柱上は舟肘木。

角度がついていてほとんど見えないですが、虹梁中備えは蟇股で、はらわたに鳥と思しき彫刻が入っています。

写真左の母屋正面には、八幡社本殿と同様に黒い格子が使われています。格子の上の蟇股には、鶴の彫刻が見えます。

 

正面の階段は8段。階段の下には浜床のようなものがあって、狛犬が置かれていますが、おそらくここは後補かと思います。

階段には昇高欄がつき、欄干の親柱は擬宝珠付き。

 

左側面を後方から見た図。

母屋柱は円柱で、柱上は連三斗。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚が下がっています。

 

頭貫には菊や唐草が描かれ、木鼻がついています。

側面の中備えは間斗束。斗の上に、虹梁が乗るような構造になっています。

束の左右の壁面には、青と白の花が描かれています。

妻飾りは大瓶束。束の左右には、藤の花が描かれています。

 

春日社本殿

3棟の本殿のうち、向かって左端にあるのが春日社。文字どおり春日造となっており、先述の2棟とは屋根の造りが異なります。

春日社本殿は、一間社隅木入り春日造、檜皮葺。

高倉神社補本殿、八幡社本殿と同じく、1574年の造営で、「高倉神社」3棟として国重文

 

向拝柱は面取り角柱。側面には木鼻がつき、柱上は連三斗。

虹梁は中央部に唐草と牡丹が描かれています。中備えは蟇股で、虎の彫刻が入っています。

 

向拝を左側から見た図。

柱上では、手挟が軒裏を受けています。

縋破風の桁隠しは猪目懸魚。

 

左側面の全体図。

大棟には鰹木が3本乗っています。

縋破風の付け根には隅木が伸び、軒裏は入母屋に似た構成となっています。よって、この本殿は純粋な春日造ではなく、隅木入り春日造です。

縁側は3面にまわされ、背面側は脇障子を立てています。

 

母屋柱は円柱。軸部は長押と頭貫で固定され、頭貫に木鼻がついています。

柱上の組物は、正面側は出三斗、背面側は連三斗。

頭貫の上の中備えは、正面は蟇股、側面は間斗束です。間斗束の左右の壁面には、雲が描かれています。

 

背面。

入母屋ではないため、背面には軒がまわされていません。

 

背面も、中備えに間斗束があります。ただし、こちらは束の左右の壁面に絵がありません。

妻虹梁は無地のものが使われ、その上の妻飾りは豕扠首となっています。正面や側面とくらべると、装飾が控えめな印象。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚が下がっています。

 

以上、高倉神社でした。

(訪問日2023/08/11)

*1:附:棟札6枚