今回は三重県名張市の杉谷神社と積田神社について。
杉谷神社
所在地:〒518-0733三重県名張市大屋戸62(地図)
杉谷神社(すぎたに-)は市北部の丘陵に鎮座しています。
創建は社伝によると永延年間(987-989)。当地を領した大江氏の氏神として祀られたのがはじまり。平安後期には、鳥羽天皇によって天神が合祀され、それ以降、名張郡の惣社になったようです。安土桃山時代には天正伊賀の乱で社殿を焼失し、江戸初期に現在の本殿が再建されています。
境内
杉谷神社の境内は南向き。
入口には石造の明神鳥居。扁額はありません。
名張市街から杉谷神社へ行く途中の道沿いにも鳥居がありましたが、写真を撮り忘れていたため割愛。
参道右手には手水舎。
切妻、桟瓦葺。
柱は角面取り。木鼻は大仏様木鼻ともなんとも言えない独特な形状のものが使われています。
柱上は舟肘木、妻飾りは角柱の束。
軒裏は一重まばら垂木、破風板の拝みには猪目懸魚。
拝殿は切妻、向拝1間・向唐破風、銅板葺。
向拝の虹梁の上には台輪が通り、中備えは板蟇股。梅鉢の紋が描かれています。
唐破風の小壁には笈形付き大瓶束。
向拝側面。
母屋と向拝はまっすぐな梁でつながれています。中備えは角柱の束。
向拝の内部は格天井が張られています。
向拝柱は面取り角柱。木鼻は正面と側面に象鼻。
柱上の組物は出三斗。
拝殿の後方には本殿が鎮座していますが、塀や社殿の配置のせいで、本殿の軒下が絶妙に隠れて見えません。
本殿は三間社入母屋、正面千鳥破風付、向拝3間・軒唐破風付、銅板葺。
1612年(慶長十七年)再建。市指定有形文化財。
主祭神は天之穂日命。社殿や垂れ幕に梅鉢が描かれていることから、天神(菅原道真)も主祭神に相当するあつかいのようです。
以上、杉谷神社でした。
積田神社(南都春日大社奥宮)
所在地:〒518-0441三重県名張市夏見2162(地図)
積田神社(せきた-)は市東部の名張川南岸に鎮座しています。別名は南都春日大社奥宮、積田(つむた)の宮。
創建は不明。社殿によると奈良時代の創建で、鹿島神宮の祭神を春日大社に勧請する途中、当地に立ち寄ったことに由来するようです。
境内
積田神社の境内は西向き。境内と参道は名張川と並行するように伸びています。
入口には両部鳥居のような形式の門があり、その先に石造の明神鳥居があります。鳥居の扁額は「積田神社」。
参道左手の手水舎は切妻、桟瓦葺。
虹梁には象鼻。雲状の意匠で透かし彫りされています。
柱上に組物はなく、そのかわりなのか、柱と桁のあいだに繰型のついた持ち送りが設けられています。
妻飾りは板蟇股。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。
中備えや内部の梁の中備えにも蟇股が置かれています。
軒裏は一重の吹寄せ垂木。
拝殿は入母屋、向拝1間・向唐破風(あるいは軒唐破風付?)、銅板葺。
向拝柱は几帳面取り。細い材が使われていて、心なし頼りない印象。
柱上には出三斗。虹梁木鼻は象鼻。
虹梁中備えは板蟇股。春日大社の紋である下り藤が彫られています。
板蟇股の上、唐破風の妻飾りには大瓶束。
母屋柱も角柱。柱上は舟肘木。
正面中央の中備えにはくり抜かれた蟇股が配され、その上に大瓶束があります。
向拝の唐破風。
鬼瓦は鳥衾が3本つき、左右には若葉の意匠。中央には下り藤の紋。
破風板の拝みにも下り藤。拝みから下がる懸魚は、雲とも唐草ともつかない独特な意匠。
拝殿の後方には本殿。
一間社入母屋(妻入)、銅板葺。
背面を観察できなかったため、建築様式が入母屋(妻入)なのか春日造なのかはっきりしませんが、屋根の後方の形状からして入母屋に見えます。よって「一間社入母屋(妻入)」としました。
造営年不明。
祭神はタケミカヅチ、天児屋根などの春日神。
本殿は美麗に彩色されています。彩色のパターンが同市の名居神社本殿に似ているように見えるため、この本殿も江戸中期以降のものではないかと思います。
なお、訪問時は工事の途中だったようで、本殿の細部意匠を観察することはできませんでした。
以上、積田神社でした。
(訪問日2022/02/23)