今回は静岡県袋井市の可睡斎(かすいさい)について。
可睡斎は市東部の山間に鎮座している曹洞宗の寺院です。山号は萬松山、寺号は可睡斎。
同市の油山寺、尊永寺(法多山)とともに遠州三山のひとつに数えられます。
創建は室町前期の1401年(応永八年)に、禅僧・恕仲天誾(じょちゅう てんぎん)によって開かれました。11代住職・仙隣等膳(せんりん とうぜん)は今川氏の傘下だった頃の徳川家康と親交があり、のちに浜松城主となった家康の目の前で居眠りをしたことから「可睡斎」という風変わりな寺号がつけられています。
境内伽藍は江戸中期以降のもので、多数の伽藍が点在し、東司などが登録文化財となっています。また、境内の奥には秋葉総本殿が鎮座していて、火防の神としても信仰されています。
現地情報
所在地 | 〒437-0061静岡県袋井市久能2915-1(地図) |
アクセス | 袋井駅から徒歩50分 袋井ICから車で10分 |
駐車場 | 20台(無料) |
営業時間 | 08:00-17:00 |
入場料 | 無料(堂内の拝観は500円) |
寺務所 | あり |
公式サイト | 秋葉総本殿 可睡斎 公式ホームページ |
所要時間 | 1時間程度 |
境内
総門
可睡斎の境内は南向き。
前述のとおり「徳川家康公深きゆかりの禅寺」で、可睡斎という独特の寺号は住職が徳川家康の目の前で居眠りしたことに由来します。寺号が「〇〇寺」という形式でない寺院はかなりめずらしいです。
のぼりは「秋葉総本殿三尺坊大権現」。
総門は一間一戸、高麗門、切妻、本瓦葺。
扁額は山号「萬松山」。
柱は角面取り。C面の幅は非常に小さいです。
木鼻の繰型には、牡丹と思しき花が彫られています。精巧な造形。
背面から見た図。
後方に低い切妻の屋根が伸び、高麗門という様式になっています。
山門
境内の中心部の入口には山門。
三間一戸、切妻、本瓦葺。
中央の屋根が高くなった形式の門で、しばしば見かける形式なのですがどう呼称したらいいのかよく解りません...
設計は建築家・建築史家の伊東忠太(1867-1954)。彼の設計図をもとに、平成期に完成したものとのこと。
中央の柱間。扁額は山号「萬松山」。
柱は上端が絞られ(粽)、欄間には波状の連子(弓欄間)が張られています。粽、弓欄間ともに禅宗様の意匠。
柱上の組物は出三斗。
向かって左の柱間。仁王像が安置されています。
軸部は長押と頭貫で固定されており、頭貫に木鼻はありません。
柱上の組物は大斗と肘木を組んだもの。中央の柱間とくらべ、少し簡略化されています。
軒裏は二軒まばら垂木。
内部。
天井はなく、化粧屋根裏。
妻壁には大瓶束が立てられています。
通路中央の梁。
梁間には間斗束が立てられ、その両脇には唐獅子の彫刻が配置されています。
輪蔵堂
山門をくぐると左手に輪蔵堂があります。
八角円堂、桟瓦葺。
内部には輪蔵(回転式の書架)があり、堂内に入ってまわすことができます。
輪蔵は八角形。
柱上の組物は三手先。軒裏は板軒になっており、金色にメッキされた彫刻がついています。題材は波と雲。
輪蔵の下部は腰組で受けています。
軸を受ける礎盤には花弁の意匠が彫られています。
本堂
境内中央には本堂。
入母屋、向拝1間・向唐破風、桟瓦葺。
本尊は聖観音。
向拝。
唐破風の破風板の飾り金具には、三つ葉葵の紋があしらわれています。中央から下がる兎毛通は鶴の彫刻。
向拝柱は几帳面取り。
木鼻は正面が唐獅子、側面が象。
虹梁中備えは竜の彫刻。江戸後期あたりの作風でしょうか。
唐破風の妻壁には笈形付き大瓶束。笈形が板状のため、大きな板蟇股のようにも見えます。
向拝柱と母屋はまっすぐな梁(つなぎ虹梁)でつながれ、向拝の内部は格天井が張られています。
つなぎ虹梁の中備えは板蟇股。
母屋に掲げられた扁額は「護国殿」。
母屋正面には引き戸の桟唐戸がつかわれています。
桟唐戸の上部の羽目板には、菊(牡丹?)の彫刻があります。
秋葉総本殿
境内の最奥部には秋葉総本殿が鎮座しています。
入母屋、向拝1間・軒唐破風付、銅板葺。
祭神は三尺坊大権現。信濃国戸隠村(現 長野市戸隠)の出身で、修行を積んで遠江国の天狗の総帥にまで上り詰めたらしいです。火防の神として信仰されています。
もとは浜松市の秋葉神社に祀られていたようですが、明治期の廃仏毀釈で当地に遷座しています。
破風板の兎毛通は、結綿の意匠。
金色の扁額は「秋葉総本殿」。
向拝柱は角面取りで、上端が絞られています。木鼻は側面に見返り唐獅子の彫刻。
組物は、連三斗と出三斗が長い肘木を共有したもの。
虹梁には唐草が浮き彫りになっています。
向拝の軒下。こちらは向かって右側を内から見た図。
海老虹梁には豪快な造形で昇り竜が彫られています。
手挟は「松に鷹」。こちらも負けず劣らず豪快です。
竜の鱗はむろんのこと、鷹の羽の毛の筋まで造形されています。
向かって左側。
こちらは降り竜で、鷹のポーズも異なります。
反対側と同様に豪快かつ精緻な造形で、私の撮った写真ではこの造形の迫力がいまひとつ伝わらないのが惜しいです。
母屋正面は二つ折れの桟唐戸。上部の羽目板には花菱の紋のような意匠。
母屋柱は円柱。上端が絞られています。頭貫に木鼻はありません。
組物は出組。持ち出された桁の下には、彫刻の入った板支輪が使われています。
主要な伽藍については以上。
拝観料(500円)を払うことで本堂や秋葉総本殿の内部に入ることができ、登録文化財の東司(トイレ)なども見ることができます。意外に内部が広くて見応えがあり、東司はトイレとは思えないほど荘厳な空間で、一見の価値のある内容です。
訪問時はひな祭りの期間中だったようで、30段の雛人形が展示されていました。大半の観光客はこちらが目当てだったと思われます。
以上、可睡斎でした。
(訪問日2021/03/20)