甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【名古屋市】興正寺

今回は愛知県名古屋市の興正寺(こうしょうじ)について。

 

興正寺は昭和区の市街地にある丘陵に鎮座する真言宗の寺院です。山号は八事山。

創建は1686年(貞享三年)。御三家の尾張徳川家からの崇敬を受けて発展しています。

広大な境内には多数の伽藍が建っています。いずれの堂宇も江戸後期以降のものですが、五重塔は東海地方で唯一の現存例として貴重であるため、国重文に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒466-0825愛知県名古屋市昭和区八事本町78(地図)
アクセス 八事駅から徒歩3分
名二環 植田ICまたは名古屋高速 高辻出入り口から車で15分
駐車場 200台(有料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト 八事山 興正寺|名古屋
所要時間 20分程度

 

境内

中門

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興正寺の境内は南西向き。幹線道路に面していて、正面側は駐車場になっています。

境内に入ると、中門とその向こうに見える五重塔が目に入ります。

 

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中門は三間三戸、楼門、入母屋、本瓦葺。

案内板によると中門(ちゅうもん)という名称のようです。

 

なお、境内に山門あるいは総門らしきものはなく、南東の八事駅のある方面に東山門(ひがしやまもん)なるものがあります。

東山門は江戸中期に名古屋城から移築されたものらしいですが、急いでいて見逃してしまったため割愛。

 

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下層。柱は几帳面取り角柱。

間口が3つあり、3つすべてが通路になっています。よって三間三戸。

 

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虹梁中備えは蟇股。

柱上に組物はなく、実肘木とも女梁ともつかない意匠が使われています。

 

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上層。こちらも几帳面取り角柱。

中央の柱間は桟唐戸で、羽目には三葉葵の紋。左右の柱間は盲連子。

縁側は切目縁、欄干は擬宝珠付き。

軒裏は一重まばら垂木。

 

五重塔

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境内の中央には五重塔が鎮座しています。

三間五重塔婆、本瓦葺。

1808年(文化五年)建立。国指定重要文化財。

 

江戸後期の建立で、寺社建築の中ではかなり歴史が浅いです。さらに、五重塔としては小規模な部類に入ります。とはいえ東海地方で唯一現存する木造五重塔であり、少し風変わりな造りをしている(後述)ためか、国重文になっています。

手前にある仏像は釈迦牟尼大仏(通称 平成大仏)という名前とのこと。大仏と呼ぶには若干小さい気がしないでもないかも...

 

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初重。柱はいずれも円柱。

母屋は3間四方ですが、間口と奥行きは3.9メートルしかないようです。

なお、ここでいう「間」は長さの単位(1間≒1.8m)ではなく、柱間の数のことです。

 

中央の柱間は桟唐戸。禅宗様の意匠です。左右の柱間は連子窓。

母屋のまわりに縁側はなく、土間となっています。五重塔や三重塔はすべての重に縁側を設けるのがふつうなので、これはめずらしいです。

 

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組物は尾垂木の出た三手先。

桁下には軒支輪。その下には格子の小天井。

軒裏は二軒繁垂木。

 

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二重。

各所の意匠は初重とほぼ同じですが、こちらは縁側があります。

縁側は切目縁で、欄干は跳高欄。縁の下は巻斗で受けられています。

 

写真上端には三重の縁側が見えますが、欄干は跳高欄ではなく擬宝珠。二重および四重は跳高欄、三重および五重は擬宝珠になっていました。

重ごとに欄干の意匠に変化をつけるというのも風変わりです。

 

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二重から五重を見上げた図。

軒裏はいずれも平行の二軒繁垂木。

三重塔では重ごとに軒裏を平行にしたり扇にしたりすることがありますが、この五重塔の軒裏はすべて平行でした。

 

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境内南側の高台から見た図。

頂上の宝輪はやや短め。母屋が小さいのもあってか、細くてひょろりとしたプロポーション。文化遺産オンラインの解説によると、“塔身が細長くて相輪が短い比例は近世の特色をよく表わす”とのこと。

塔建築として取り立てて出来の良いものではないと思うのですが、初重に土間が採用されている点が独特で、面白い物件だと思います。

 

その他の伽藍

以下は本堂などの伽藍。時間がなくてすべての境内伽藍をまわりきれなかったため、主要で目立つもののみ掲載いたします。

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境内の奥には本堂。

寄棟、向拝1間、本瓦葺。本尊は大日如来。

大棟はしゃちほこが載っていました。いかにも名古屋らしい意匠。

 

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向拝柱は几帳面取り。木鼻は正面側面ともに拳鼻。

ハト除けのトゲが設置されているうえ、金網まで張られてしまっています。金網を張ったならトゲはもう要らないのでは...?

 

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境内南側、参道右手の高台には現代的な多宝塔。こちらは背面側。

案内板によると「圓照堂」という名称で、当寺を開山した天瑞圓照が祀られているようです。

 

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三間多宝塔、本瓦葺。

多宝塔は下層に縁側を設けますが、この圓照堂は土間になっています。

 

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上層。母屋は円形の平面。

軒裏はまばらで、組物の数や手数も少なく、全体的に簡素な造り。

 

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境内北側、参道左側の丘の上には観音堂。

二重、入母屋、本瓦葺。1857年再建。

本尊の聖観音立像は市指定文化財ですが秘仏とのこと。

上層の扁額は「普門」。

 

以上、興正寺でした。

(訪問日2021/02/22)