今回は長野県佐久市の駒形神社(こまがた-)について。
駒形神社は市南部の高台の住宅地に鎮座しています。
創建は不明。境内案内板によると“牧に関連した神社と推定されている”とのこと。本殿は標準的な一間社流造ですが室町中期の造営と考えられており、貴重な室町期の建築として国重文に指定されています。
現地情報
| 所在地 | 〒385-0025長野県佐久市塚原1750(地図) |
| アクセス | 佐久平駅または中佐都駅から徒歩40分 佐久中佐都ICから車で5分 |
| 駐車場 | なし |
| 営業時間 | 随時 |
| 入場料 | 無料 |
| 社務所 | なし |
| 公式サイト | なし |
| 所要時間 | 15分程度 |
境内
参道と拝殿

駒形神社の入口は南向き。後述の拝殿と本殿は東向きです。
正面から看板に従って境内に入ると、城跡の掘割のような地形を通って参拝することになります。

鳥居は木造の両部鳥居。稚児柱に小さい屋根がついています。扁額は「駒形神社」。

拝殿は切妻(妻入)、銅板葺。後方の平入の屋根は本殿覆い屋。
W字型のしめ縄が独特。

拝殿内部はとくに何もないようで、格子戸を通して本殿の正面が見えます。
本殿

拝殿の後方には覆い屋に収められた本殿が鎮座しています。
一間社流造、とち葺。
“再建は文明十八年(1486)と伝えられているが形式手法からみてもその頃の建物と考えられている”とのこと(境内案内板より)。国指定重要文化財。
祭神は案内板によると“騎乗の男女二神像”なるもの。Wikipediaなどのウェブ上の情報では保食神と書かれています。

室町中期の社殿のため装飾的な意匠は多くなく、素朴かつ高潔な外観。
向拝柱は角面取り。C面が広く取られています。

水引虹梁は弓なりにカーブして中央が高くなった形状。佐久地域の神社本殿ではたまに見かける意匠です。
中備えは蟇股(題材不明)。スペースが狭いからなのか、斗や肘木を介さずに軒桁を受けています。
向拝柱の木鼻は象鼻に近い拳鼻。
柱上の組物は出三斗で、木鼻の上に載った斗で持ち送りされています。

向拝柱と母屋柱をつなぐ懸架材は、海老虹梁。繊細な曲面形状になっており、この本殿のなかでもとくに印象的な部材だと思います。
海老虹梁の向拝側は桁と同じ高さ、母屋側は頭貫木鼻の上から出ています。軒裏すれすれを通っているからか、手挟がありません。

向拝の下には角材の階段が6段。
縁側の欄干だけでなく、階段の欄干(昇高欄)との接続部も跳高欄になっています。

母屋柱は円柱。壁面は壁板が横方向に張られています。
当然ですが脇障子に彫刻はありません。

縁側は切目縁が3面にまわされています。欄干は跳高欄。縁の下は縁束で支えられています。
母屋柱の床下は、円柱の成形を八角柱で止めていました。これは室町期から出現する技法。

軸部は長押と貫で固定されています。頭貫木鼻は拳鼻。
柱上の組物は連三斗で、こちらも木鼻と斗で持ち送りされています。
妻飾りは大瓶束。
背面も観察したかったのですが、そちらは覆い屋の壁が隙間なくふさがれていたため観察できず。

破風板の拝みには蕪懸魚。桁隠しはありません。
桁の断面を見ると凸の字を上下逆さにしたような形状で、組物の斗とかみ合うようになっています。あまり見かけない、風変わりな技法だと思います。

よく見えないですが屋根はとち葺(栩葺)。
とち葺はこけら葺の一種で、こけらよりも厚い板で葺く手法です。案内板によるともとはこけら葺だったようですが、修理でとち葺になったとのこと。
大棟は箱棟で、鬼板には赤い鬼面がついています。

軒裏の垂木は二軒繁垂木。
軒先の垂木は先端に向かって細くなっています。
室町期の神社本殿は清楚な趣のものが多いですが、この本殿は素朴さと繊細さも兼ね備えていると思います。佐久地域の古建築のなかでも抜きん出た秀作ではないでしょうか。保存状態もきわめて良好で、眼福の物件です。
以上、駒形神社でした。
(訪問日2020/12/27)