今回は滋賀県野洲市小篠原(こしのはら)の稲荷神社(いなり-)について。
稲荷神社は国道8号沿いの住宅地に鎮座しています。
創建は不明。社伝によれば948年(天暦二年)、伏見稲荷大社から福林寺という寺院に勧請されたのが始まりとのこと。福林寺は衰亡しましたが、稲荷神社は当地の氏神として存続しています。
現在の境内は江戸初期の寛永年間に遷座・整備されたもののようで、本殿はそれ以降の造営と思われます。境内社の古宮神社本殿は室町時代の造営のため、国重文に指定されています。
現地情報
所在地 | 〒520-2331滋賀県野洲市小篠原768-1(地図) |
アクセス | 野洲駅から徒歩15分 栗東ICまたは竜王ICから車で20分 |
駐車場 | 20台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
参道
稲荷神社の境内は西向き。めずらしい方角を向いています。入口は国道8号線に面しています。
鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「稲荷神社」。
参道左手には手水舎。
切妻、桟瓦葺。
水引虹梁の上の中備えには蟇股。古風な「人」の字型のもの。
拝殿は入母屋(妻入)、桟瓦葺。扁額は「稲荷神社」。
縁側に立てたつっかい棒で軒裏を支えています。
本殿
拝殿の後方には中門と塀に囲われた本殿が3棟鎮座しています。
中門は一間一戸、切妻、桟瓦葺。
かなり新しいもののようですが、木鼻の繰型の造形が凝っています。水引虹梁の唐草もよく見たかったのですが、こちらはしめ縄や紙垂がかかっていて見えず。
中央に鎮座する稲荷神社本殿。
一間社流造、檜皮葺。
造営年は不明。彫刻の意匠・作風から、江戸中期以降のものと思われます。
祭神はウカノミタマ。
向拝柱は几帳面取り。上端が絞られています。
暗くて見づらいですが、虹梁中備えには戯れる兎の彫刻。
側面の木鼻は象あるいは獏。遠くからではどちらなのか判別できず。
柱上の組物は連三斗。木鼻によって巻斗を介して持ち送りされています。
正面の扉の下部や左右の羽目にも彫刻。題材は兎。
縁側には狐の木像が置かれています。
破風板には蕪懸魚が下がっています。
妻壁は、左右の境内社の影になってしまうためほとんど観察できず。
稲荷神社本殿の右隣(南側)には境内社。名称は不明。
一間社流造、檜皮葺。
造営年不明。造りや意匠は稲荷神社本殿を小型化・簡略化したものといった感じで、こちらも江戸中期以降のものではないでしょうか。
写真左奥の稲荷神社本殿は縁側の床下が縁束であるのに対し、こちらの境内社は腰組が使われており、浮遊感のあるシルエット。
古宮神社本殿
稲荷神社本殿の左隣(北側)には古宮神社(ふるみや-)本殿。
一間社流造、こけら葺。
案内板(滋賀県教育委員会)によると、木鼻や蟇股の意匠から室町時代の造営と考えられているとのこと。国指定重要文化財。
近くにあった福林寺の境内社の十二所神社を、1914年(大正三年)に移築したもの。
向拝柱は角面取り。室町期のものとのことなので、面取りの幅が大きめ。
虹梁は無地の材が使われ、中備えには蟇股。
柱の側面に出た木鼻(拳鼻)は、やや横長なシルエット。うっすらと繰型の痕跡が残っています。
組物は連三斗。実肘木を介さず、軒桁を直接受けています。
母屋の前には角材の階段が5段。階段の下は浜床。
昇高欄の親柱は擬宝珠付き。縁側の欄干は跳高欄。
側面。
向拝柱と母屋をつなぐ梁は、向拝側は組物の上、母屋側は頭貫の高さに取りついています。
縁側の背面側には脇障子が立てられています。脇障子の下の蹴込板には線状の彫刻がありますが、欄干の影になってよく見えず。
母屋柱は円柱で、頭貫木鼻には向拝のものと同様の横長な拳鼻が使われています。
柱上の組物は連三斗。中備えはありません。
妻虹梁は無地の材で、妻飾りは豕扠首。
縁側はくれ縁が3面にまわされ、床下は縁束。
母屋柱は床下も円柱に成形されています。
破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。
屋根は大きく折れ曲がり、分厚い箕甲を形成しています。
大棟鬼板には鬼瓦。
以上、稲荷神社(小篠原)でした。
(訪問日2021/03/12)