甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【長野市】頤気神社(松代)

今回は長野県長野市松代(まつしろ)の頤気神社(いけ-)について。

 

頤気神社は長野ICのすぐ近くに鎮座しており、延喜式神名帳にも記載がある古社です。

本殿は至って普通の建築様式になっているのですが、境内には善光寺に影響を受けたと思われる撞木造りの境内社があり、ちょっと個性的な境内になっています。

 

現地情報

所在地 〒381-1215長野県長野市松代町西寺尾字柳島1006(地図)
アクセス 長野ICから車で3分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

 

境内

参道

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境内の入口。

鳥居は前後に柱(稚児柱)がついた両部鳥居で、南向き。扁額には「頤氣神社」。扁額の上には唐破風の庇があります。

 

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そしてこちらが、表題の善光寺リスペクト(?)な境内社

正面側は入母屋(妻入)なのですが、背面側は切妻(平入)になっており、上空から見下ろしたら大棟がT字に見えるようになっています。これは善光寺本堂と同じ「撞木造り」(しゅもくづくり)という様式です。

こんな面倒な形の屋根をわざわざ2つも作るのは、同市内にある善光寺を意識しているとしか思えません。

 

拝殿

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境内を進むと、拝殿があります。白い垂れ幕に描かれた紋は諏訪梶。

拝殿は鉄板葺の入母屋で、正面5間・側面3間。正面に向拝1間。

拝殿の前に立っているのは、御柱あるいは“御神柱”。諏訪地域でよく見る御柱よりも、だいぶ短く、里曳きしやすそうです。

 

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拝殿の向拝の軒下。

垂木は2重になっており、彫刻もあります。しかし肝心の蟇股(かえるまた)の、龍と思しき彫刻の右半分が破損しており、痛々しい状態です。手の込んだ彫刻のだけに、破損が惜しまれます。

 

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なお、拝殿は正面と左右が吹き放ちになっており、壁が張られているのは背面だけ。そして背面には切妻(妻入)の小屋(?)がついていて、写真左の本殿へと続いています。

 

本殿

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本殿は銅板葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。正面1間・側面1間、向拝1間という至って標準的な造りです。

虹梁(こうりょう)や梁の周辺、脇障子に彫刻が配置されています。特に脇障子(縁側の終端に立てる板)の彫刻は立体的な造形で、中国の故事と思われる人物像が彫られていました。

案内板などはないので具体的な年代は不明ですが、この本殿はおそらく江戸中期あたりの造営でしょう。

 

祭神については、拝殿の御柱や垂れ幕の諏訪梶から、タケミナカタ(諏訪大社の祭神)とみて間違いないでしょう。

 

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向拝部分のアップ。

虹梁の中央の蟇股は題材不明。虹梁の左右の木鼻は象。

ほか、向拝の柱は角柱、母屋の柱は円柱が使われていることがこの写真から確認できます。

 

境内については以上。

本殿が竹やぶに囲まれていてこれ以上近づけなかったり、拝殿の彫刻が破損していたりと、やや残念な点が散見されます。とはいえ、式内社のだけあって境内はそれなりに広く、多数ある境内社のおかげもあってか、なんとも言いがたい独特の雰囲気になっていると思います。

 

以上、頤気神社でした。

(訪問日2019/08/11)