世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【長野市】玉依比売命神社 ~T字型の拝殿 これがホントの「撞木造り」?!~

今回は長野県のマイナー観光地ということで、長野市の玉依比売命神社(たまよりひめのみこと-)について。

 

玉依比売命神社は真田氏の城下町・松代の西端の山際に鎮座しています。

長野市というと、撞木造(しゅもくづくり)と呼ばれるT字形の棟を持った善光寺が著名です。玉依比売命神社はその影響を受けまくったからなのか、屋根だけでなく母屋までT字を描いているという、独特な拝殿を見ることができます。

 

 

現地情報

・所在地:

 〒381-1221

 長野県長野市松代町443

・アクセス:

 旧松代駅跡から徒歩25分程度

 長野ICから車で10分程度

・駐車場:なし

・営業時間:随時

・入場料:無料

・社務所:あり(要予約)

・滞在時間:10分程度

 

境内

拝殿

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境内に入って鳥居をくぐると、石段と石垣の上に大規模な拝殿があります。

これが表題のT字型の拝殿で、案内板(玉依比売命神社社務所の設置)によると「八棟造り(やつむねづくり)を模した荘厳な建築」とのこと。

 

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正面右側から見上げた図。

真正面からみるとパッと見で妻入の入母屋なのですが、このアングルから見ると、平入の入母屋が後方にくっついている様子が分かります。

 

長野市で「妻入の屋根のうしろに、平入の屋根がくっつく」構造の建物というと、ご存知、善光寺ですね。

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(※善光寺本堂 2019/04/16 建御名方富命彦神別神社より撮影)

妻入と平入が連結しているので、善光寺本堂の屋根の棟(稜線)はT字になっています。そのT字の形状が、鐘を打つときに使う槌(ハンマー)のようなので、善光寺本堂の様式は「撞木造」(しゅもくづくり)と呼ばれています。

しかし、T字になっているのは屋根の棟だけで、さすがに母屋(壁や扉で覆われた空間)と縁側はふつうの長方形です。

 

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一方、この玉依比売命神社の拝殿はどうでしょう。

棟だけでなく、小屋組や、母屋とその周囲の縁側までもがT字を描いています。

T字型の撞木造は善光寺の代名詞のわけですが、この拝殿は善光寺以上に「撞木造」ではないでしょうか...?

 

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正面左側から見た図。

さて、ここまで散々「撞木造」と言ってきましたが、この拝殿は撞木造ではありません。案内板にあるように「八棟造り」と呼ぶのが適当でしょう。

なお、八棟造りという様式には特にこれといった定義らしいものはなく、wikipediaによると棟が8つでなくてもいいとのこと。余談ですが、権現造は八棟造りの一様式のようです。

 

上の写真では、拝殿の後ろにもう1つ切妻の屋根がありますが、これは後述の本殿で、別の建物です。とはいえ、このアングルだとなんとなく八棟造り(というよりは権現造)に見えなくもないです。



本殿

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続いて本殿の話題に移ります。

松代城のお膝元に鎮座しているため、大棟には六文銭が描かれています。建築年代は不明ですが、真田氏が松代を治めたのは江戸初期からなので、それ以降の造営ではないでしょうか。

本殿は銅板葺の三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)なのですが、いろいろと引っかかる点が散見されます。

 

まず気になったのは垂木。神社本殿にしてはまばらな上、二重にもなっていません。

次に柱と壁板。柱は「向拝は角柱、母屋は円柱」が神社建築のセオリーのわけですが、この本殿はいずれも角柱です。そして壁板は水平に張るのがセオリーですが、垂直方向に張られています。

他にも、向拝の柱の上には斗(ます)を使ったやや複雑な組物が使われているのに、母屋の柱の上にはシンプルな舟肘木しか使われていない点も、ちぐはぐな印象を受けます。

 

拝殿の後ろにあるのでこれは本殿で間違いないと思いますが、それにしても型破りな点が多くて、本当に本殿なのかと疑いたくなってしまいます。

 

境内については以上。ほか、県宝の勾玉を使った独特の神事もあるようですが、これについては他サイト様に詳しく書かれているので割愛いたします。

松代の中心地からはちょっと距離があり、城下散策のついでという感じで来るにはやや遠いかもしれないですが、拝殿・本殿ともに一癖も二癖もある造りをしていて、寺社建築好きならば思わず首をひねってしまう興味深い内容になっています。

 

以上、玉依比売命神社でした。

(訪問日2019/08/11)