今回は長野県長野市の玉依比売命神社(たまよりひめのみこと-)について。
玉依比売命神社は真田氏の城下町・松代の西端の山際に鎮座しています。
長野市というと、撞木造(しゅもくづくり)と呼ばれるT字形の棟を持った善光寺が著名です。玉依比売命神社はその影響を受けまくったからなのか、屋根だけでなく母屋までT字を描いているという、独特な拝殿を見ることができます。
現地情報
所在地 | 〒381-1221長野県長野市松代町443(地図) |
アクセス | 長野ICから車で10分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
拝殿
境内に入って鳥居をくぐると、石段と石垣の上に大規模な拝殿があります。
これが表題のT字型の拝殿で、案内板(玉依比売命神社社務所の設置)によると「八棟造り(やつむねづくり)を模した荘厳な建築」とのこと。
正面右側から見上げた図。
真正面からみるとぱっと見で妻入の入母屋なのですが、このアングルから見ると、平入の入母屋が後方にくっついている様子が分かります。
長野市で「妻入の屋根のうしろに、平入の屋根がくっつく」構造の建物というと、ご存知、善光寺。
(善光寺本堂を南西方向の上空から俯瞰した図*1 撮影年不明)
妻入と平入が連結しているので、善光寺本堂の屋根の棟(稜線)はT字になっています。そのT字の形状が、鐘を打つときに使う槌(ハンマー)のようなので、善光寺本堂の様式は「撞木造」(しゅもくづくり)と呼ばれています。
しかし、T字になっているのは屋根の棟だけで、さすがに母屋(壁や扉で覆われた空間)と縁側はふつうの長方形です。
一方、この玉依比売命神社の拝殿はどうでしょう。
棟だけでなく、小屋組や、母屋とその周囲の縁側までもがT字を描いています。
T字型の撞木造は善光寺の代名詞のわけですが、この拝殿は善光寺以上に「撞木造」ではないでしょうか...?
正面左側から見た図。
さて、ここまで散々「撞木造」と言ってきましたが、この拝殿は撞木造ではありません。案内板にあるように「八棟造り」とでも呼ぶのが適当でしょう。
なお、八棟造りという様式には特にこれといった定義らしいものはなく、wikipediaによると棟が8つでなくてもいいとのこと。権現造は八棟造りの一様式のようです。
上の写真では、拝殿の後ろにもう1つ切妻の屋根がありますが、これは後述の本殿で、別の建物です。とはいえ、このアングルだとなんとなく八棟造り(というよりは権現造)に見えなくもないです。
本殿
つづいて本殿。
松代城のお膝元に鎮座しているため、大棟には六文銭が描かれています。建築年代は不明ですが、真田氏が松代を治めたのは江戸初期からなので、それ以降の造営ではないでしょうか。
本殿は銅板葺の三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)なのですが、いろいろと引っかかる点が散見されます。
まず気になったのは垂木。神社本殿にしてはまばらな上、二重にもなっていません。
次に柱と壁板。柱は「向拝は角柱、母屋は円柱」が神社建築のセオリーのわけですが、この本殿はいずれも角柱です。そして壁板は水平に張るのがセオリーですが、垂直方向に張られています。
他にも、向拝の柱の上には斗(ます)を使ったやや複雑な組物が使われているのに、母屋の柱の上にはシンプルな舟肘木しか使われていない点も、ちぐはぐな印象を受けます。
拝殿の後ろにあるのでこれは本殿で間違いないと思いますが、それにしても型破りな点が多くて、本当に本殿なのかと疑いたくなってしまいます。
境内については以上。
ほか、県宝の勾玉を使った独特の神事もあるようですが、これについては割愛。
以上、玉依比売命神社でした。
(訪問日2019/08/11)
*1:小林計一郎 著『善光寺史研究』2000年 信濃毎日新聞社 より引用