甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【長野市】風間神社と松岡神社

今回は長野県長野市の風間神社松岡神社について。

 

風間神社

所在地:〒381-0023長野県長野市風間781-1(地図)

 

風間神社(かざま-)は風間地区の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。社伝によると、『日本書紀』に書かれた「水内神」や、『日本三代実録』の860年(貞観二年)の記事にある「飄別神」は当社のことだそうですが、真偽は不明。*1『延喜式』に記載された「風間神社」は当社だと考えられ、式内論社に比定されています。

平安中期には諏訪大社大祝の庶流・矢島忠直が当地を治めて風間氏を名乗り、社名を「諏訪大明神」に改めました。江戸時代には「風間大明神」と称し、1822年(文政五年)に現在の社号に改められました。

 

境内

風間神社の境内は南向き。入口は、住宅地の生活道路に面しています。

右の社号標は「延喜式内 風間神社」。

 

入口には赤い木造両部鳥居。笠木の反りが小さく、ほぼ直線の形状です。

扁額の字は「風間神社」。

 

鳥居の先には拝殿。

入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

 

屋根は正面に破風がつき、棟がT字になっています。善光寺本堂の撞木造と似ていますが、これは入母屋に千鳥破風がついただけのものでしょう。

屋根葺きは、茅葺の上に銅板を葺いたものと思われます。

 

向拝は1間。

しめ縄が吊るされた虹梁は、袖切だけが彫られた無地のもの。

唐破風の中央には、若葉の意匠の懸魚が下がっています。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り。

柱上には皿付きの出三斗が乗り、虹梁の上の出三斗とともに軒桁を受けています。

 

向拝柱と母屋のあいだにも虹梁がわたされています。こちらの虹梁も、袖切だけがついたものです。

虹梁の中央には撥束らしき束が立てられ、斗と実肘木を介して軒桁を受けています。風変わりな構造だと思います。

母屋柱は角柱で、上部に頭貫と台輪が通り、柱上は平三斗が使われています。

 

母屋の左側面(西面)。

母屋は正面3間・側面2間で、前方の2間通りが吹き放ちの外陣となっています。後方の2間通りは内陣のようで、床や縁側がわずかに高く造られています。

 

側面の入母屋破風。

破風板の拝みには蕪懸魚のような懸魚が下がり、左右に雲状の鰭があります。

妻飾りは虹梁と束。こちらの虹梁は、袖切だけでなく眉欠きも彫られています。虹梁の下には撥束が見えます。

 

拝殿内部の外陣部分は天井がなく、小屋組の梁や化粧屋根裏を見ることができます。

小屋組の梁には、棟札と思しき木札がかかげられています。

 

拝殿の後方には、本殿の覆いと思われる社殿があります。

祭神は、伊勢津彦、シナツヒコなど。

切妻、銅板葺。

 

左側面。

柱は角柱で、上部に頭貫と台輪が通っています。柱上の組物は出三斗と平三斗で、中備えは蟇股。

妻飾りは二重虹梁で、その上に笈形付き大瓶束が乗って棟木を受けています。

 

以上、風間神社でした。

 

松岡神社

所在地:〒381-0026長野県長野市松岡1-17-1(地図)

 

松岡神社(まつおか-)は犀川北岸の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。社伝によると1595年(文禄四年)に松岡新田村の鎮守社となり、当時は伊勢宮と呼ばれていたようです。その後、洪水で流失したため、正徳年間(1711~1716)に現在地へ移転しました。明治時代には、現在の社号に改められました。

 

境内

松岡神社の境内は南向き。境内は住宅地の中にあり、西側(向かって左)に県道が通っています。

入口の鳥居は木造神明鳥居。笠木の上には、銅板葺の屋根がついています。

 

参道の先には拝殿。

入母屋、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

 

向拝には多数の彫刻がありますが、金網がかかっていて細部の観察はややむずかしいです。

虹梁は波状の絵様が浮き彫りされ、中備えには竜らしき彫刻があります。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱で、正面には唐獅子、側面には象の木鼻。柱上の組物は連三斗。

 

唐破風の兎毛通の彫刻は、松に鷹。

 

向拝柱と母屋のあいだには虹梁がわたされ、その中央には大瓶束が立てられています。善光寺本堂をはじめ、市内の寺社でしばしば見かける構造です。

ほかにも手挟、象鼻、海老虹梁といった意匠が見えますが、金網にはばまれて鮮明な写真が撮れませんでした。

 

母屋柱は角柱。正面3間・側面2間で、正面および両側面の柱間は吹き放ち。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。

訪問時は秋祭りの準備中だったようで、内部に神輿が置かれていました。

 

母屋柱の上部には頭貫と台輪が通り、頭貫には象鼻がついています。

組物は出三斗。中備えはありません。

 

軒裏は二軒繁垂木。

垂木は放射状に配されており、禅宗様の扇垂木となっています。

 

拝殿の後方には、本殿覆いと思しき社殿があります。

切妻、銅板葺。

 

直線的な切妻屋根で、大棟には千木と鰹木がつき、室外に棟持柱が立てられています。いずれも神明造の意匠で、伊勢神宮の本殿を意識した造りです。

かつては「伊勢宮」「皇大神社」と呼ばれていたらしいため、祭神はアマテラス(伊勢神宮内宮)と思われます。

 

以上、松岡神社でした。

(訪問日2023/10/07)

*1:境内案内板より