甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【宇治市】萬福寺 その1 総門、三門

今回は京都府宇治市の萬福寺(まんぷくじ)について。

 

萬福寺(万福寺)は市北部の住宅地に鎮座する黄檗宗の大本山です。山号は黄檗山。

創建は1661年(寛文元年)。開基は4代将軍徳川家綱、開山は明の禅僧・隠元隆琦。伽藍は明末期の技法を取り入れた大陸風の独特な建築様式で造られ、幕府や大名家の支援を受けて1679年頃に完成しました。明治時代には陸軍によって境内の一部が接収され、多くの子院が廃院となっています。

現在の境内伽藍は江戸前期の創建当初のものがほぼ完全な状態で残っており、16棟の伽藍が重要文化財に指定されています。本堂に相当する大雄宝殿などの3棟は、2024年に国宝に指定されました。また、鉄眼版一切経版木など多数の寺宝を所蔵しているほか、境内全体が府指定の史跡となっています。

 

当記事ではアクセス情報および総門と三門について述べます。

天王殿、大雄宝殿については「その2」を

法堂については「その3」を

開山堂については「その4」をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒611-0011京都府宇治市五ケ庄三番割34(地図)
アクセス 黄檗駅から徒歩5分
宇治東ICから車で10分
駐車場 50台(600円)
営業時間 09:00-16:30
入場料 500円
寺務所 あり
公式サイト 萬福寺
所要時間 1時間程度

 

境内

総門

萬福寺の境内は西向き。入口は住宅地の道路に面した場所にあります。左の寺号標は「黄檗宗大本山萬福寺」。

 

総門は、桁行3間・梁間2間、三間一戸、牌楼門、本瓦葺。

1688年(元禄六年)造営。「萬福寺」20棟*1として国指定重要文化財*2

 

扉筋の間口は3間あり、中央の1間が通路となっています(三間一戸)。

前方には控柱が立てられ、貫で主柱(扉筋の柱)とつながっています。柱の基部には四角い礎盤。

 

門の中央部は棟が高くなっており、内部に「第一義」と書かれた扁額があります。

 

中央部の棟の柱。柱は控柱・主柱ともに面取り角柱が使われています。

控柱には、軒桁との接続部に拳鼻がついています。主柱は、柱上の巻斗と実肘木を介して棟木を受けています。

 

向かって右から見た図(南面)。

背面側にも控柱が立てられ、ほぼ前後対称の構造となっています。

 

破風板の拝みには、蕪懸魚に近い形状の懸魚が下がっています。

大棟には鬼瓦とマカラ(鯱)が乗っています。

 

背面。

こちらは扁額がなく、上層の白い壁面に円いくぼみが設けられています。壁面の上には梁がわたされ、蓑束とも蟇股ともつかない部材で棟木を受けています。

門扉は板戸。長い藁座のような材で、戸の軸を吊っています。

 

天真院

参道を進むと、三門の手前に塔頭の天真院が北面しています。

進入できるのは表門までで、表門より先は非公開の区画となっています。

 

天真院表門は、桁行3間・梁間2間、三間一戸、牌楼門、本瓦葺。

先述の萬福寺総門をひとまわり小さくした造りです。

1694年造営。府指定有形文化財。

 

手前の控柱のあいだには、虹梁がわたされています。虹梁の上には柱が立てられ、中央の高い棟の軒桁を受けています。

内部に掲げられた扁額は「天真院」。

 

内部。写真右が正面方向です。

柱はいずれも面取り角柱で、前後方向は貫でつながれています。頭貫の上にはΓ字型の部材があり、主柱の上部に取りついています。

 

表門の奥には客殿と思しき堂が見えます。

客殿および経蔵は、表門と同様に府指定有形文化財のようです。

 

三門

境内の中心部へ進むと、拝観受付を兼ねた三門が西面しています。これより先は有料の区画となります

 

三門は、三間三戸、二重、楼門、入母屋、本瓦葺。左右山廊附属、桁行2間・梁間1間、切妻、本瓦葺。

1680年(延宝六年)造営。「萬福寺」20棟として国重文

 

下層は正面3間。3間すべてが通路となっています(三間三戸)。

右の標柱は「不許葷酒入山門」。禅寺によく見られる戒めの文言です。

 

正面中央の柱間。

柱はいずれも円柱で、上端が絞られています。

柱間は飛貫と頭貫でつながれ、柱上に台輪が通っています。

 

向かって左の柱間。

柱上の組物は二手先。柱間にも詰組が並んでいます。

下層の軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

隅の柱には、正面と側面に禅宗様の拳鼻がついています。

台輪に木鼻はありません。

 

柱の基部は、このような丸みを帯びた形状の礎盤が使われています。

基壇の床は四半敷きの石畳。

 

左側面(北面)。

側面は2間。前方の1間には腰貫が通り、貫の下は縦板壁、上は白壁です。後方の1間は壁がなく吹き放ち。

 

内部。中央の扁額は寺号「萬福寺」。

内部の柱上や中備えには出組が配され、鏡天井が張られています。

 

後方の1間通り。こちらも鏡天井です。

門扉は板戸で、長い藁座のようなもので軸を吊っています。

 

上層。扁額は山号「黄檗山」。

上層の軒裏は放射状(扇垂木)の二軒繁垂木。

下層を平行垂木とし、上層を扇垂木とするのは、禅宗様建築でよく見られる技法です。

 

上層も柱は円柱が使われ、上端が丸く絞られています。

柱上の組物は尾垂木三手先。柱間にも詰組が配されています。

 

左側面。

山廊や欄干の影になって見づらいですが、側面は2間あります。

頭貫と台輪には、禅宗様木鼻が確認できます。

欄干の親柱には禅宗様の逆蓮のような意匠が見えますが、角ばった形状をしています。

 

破風板の拝みには三花懸魚。左右には若葉状の鰭がついています。

 

上層背面。

大棟の中央には宝珠。宝珠は宝形屋根の頂部に置くことがほとんどですが、当寺の伽藍ではこのように大棟中央に配置する例が散見されます。

宝珠は円盤状の露盤の上に据えられ、擬宝珠のような形状をした宝珠に火炎の意匠がついています。

 

門の両側面には、上層へ昇るための階段と山廊があります。こちらは向かって左側のもの。

山廊の柱は角柱。柱間は貫でつながれ、腰貫の下に縦板壁が張られています。

 

柱上には巻斗が置かれ、通肘木で棟木を受けています。柱と通肘木とのあいだには、花肘木のような材が添えられています。

 

内側の妻面(南面)。

妻面には妻虹梁がわたされ、中央に大瓶束を立てて棟木を受けています。

 

総門、三門については以上。

その2では、国宝の天王殿と大雄宝殿について述べます。

*1:もとは16棟で重要文化財となっていたが、大雄宝殿などの3棟が2024年に国宝指定のため除外され、「萬福寺松陰堂」7棟が統合されたため、重要文化財(国宝でない棟)は20棟となった

*2:附:棟札1枚