今回は愛知県名古屋市の観音寺(かんのんじ)について。
観音寺は中川区の市街地に鎮座する天台宗の寺院です。山号は浄海山。通称は荒子観音(あらこ かんのん)。
創建は寺伝によると729年(天平元年)で、泰澄によって草創されたとのこと。当初は同区高畑町に鎮座していました。創建後の詳細な沿革は不明。桃山時代には前田利家によって本堂が再建されましたが、現存しません。江戸中期には円空が何度か当寺に滞在しており、多数の円空仏を遺しています。明治時代には、隣接する神明社が分離されました。
現在の境内は室町から近現代のものです。重要文化財の多宝塔は室町後期のもので、市内最古の建築です。また、1000体以上におよぶ円空仏をはじめ、数多くの寺宝を所蔵しています。
現地情報
所在地 | 〒454-0861愛知県名古屋市中川区荒子町宮窓138(地図) |
アクセス | 荒子駅または高畑駅から徒歩10分 |
駐車場 | 30台(無料) |
営業時間 | 07:00-17:00 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
山門
観音寺の境内は南向き。正面の入口は住宅地の生活道路に面しています。
山門は、三間一戸、楼門、入母屋、本瓦葺。
1926年造営。
下層。
正面は3間で、左右の柱間に仁王像が安置されています。
柱は円柱が使われ、正面には唐獅子の木鼻があります。
虹梁は、絵様、眉欠き、袖切が彫られたもの。両端の下部には牡丹と思しき花の持ち送りが添えられています。上の中備えは平三斗。
柱上の組物は三手先。
左手前の隅の柱。側面も唐獅子の木鼻がついています。
左右の柱間は、虹梁の中備えに双斗が使われています。
左側面(西面)。
側面は2間で、柱間は横板壁。こちらも虹梁中備えは双斗です。
背面。
左右の柱間は火灯窓が設けられています。
背面中央の柱間。
虹梁中備えは、反対側(正面中央)は平三斗でしたが、こちらは双斗です。
つづいて上層。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
上層の柱は、上端の絞られた円柱が使われています。
中央の柱間は板戸。板戸の上の扁額は山号「浄海山」。
左右の柱間は連子窓が設けられています。
窓の上には長押が打たれ、頭貫と台輪が通っています。頭貫には禅宗様木鼻。
柱上の組物は尾垂木三手先。台輪の上の中備えは蟇股。
左側面。
柱間は2間とも連子窓。中備えは蟇股です。
破風板の拝みの金具には、五三の桐があしらわれています。拝みの下には三花懸魚があり、左右の鰭は菊の花の意匠。
奥の妻面は懸魚の影になっていて見づらいですが、虹梁の上に笈形付き大瓶束が見えます。
背面。
正面と同様に、中央は板戸が設けられています。扉の上の蟇股は、ほかの柱間のものと同じ意匠です。
多宝塔
山門左手、境内南西には多宝塔が鎮座しています。
三間多宝塔、こけら葺。
1536年(天文五年)造営。市内最古の建築で、大工棟梁は同市熱田区の岡部甚四郎という工匠とのこと。*1
国指定重要文化財。
下層南面。
柱間は3間で、中央がやや広く取られています。中央には板戸、左右には盲連子の窓が設けられています。
軸部は長押が多用されています。左右の柱間は、窓の下に腰貫が見えます。
軒裏は平行の二軒繁垂木。下層の意匠はほぼすべて和様で構成されています。
柱は大面取り角柱が使われ、柱上の組物は出組。
中備えは、中央の柱間は蟇股、左右の柱間は間斗束。
蟇股は植物の彫刻が入り、左右の端には若葉のような意匠がついています。
蟇股にこのような写実的な彫刻が入るのは、室町後期以降の作風です。
縁側はくれ縁がまわされています。欄干や階段はありません。
東面。
各所の意匠は南面とほぼ同じで、ほかの面も同様となっています。
上層。
軒裏は放射状の二軒繁垂木。ここは禅宗様の意匠です。
組物は禅宗様の尾垂木三手先。柱は上端の絞られた円柱でした。
母屋と縁側は円形の平面となっており、縁側には擬宝珠付きの欄干が立てられています。縁側の下の亀腹は、縦板でカバーされています。
頂部の相輪。
路盤には格狭間が2つつき、反花の上に九輪と宝珠が乗った構成です。
鐘楼と六角堂
山門右側、境内南東の神明社と隣接する区画には、鐘楼と六角堂があります。こちらは鐘楼の西面。
入母屋、本瓦葺。
柱は円柱。上端が絞られ、台輪と頭貫には禅宗様木鼻。
柱上は出組。台輪の上の中備えも出組です。
柱の下端。柱は礎石の上に据えられています。
飾り金具には輪違の文様が彫られています。
鐘楼の北側には地蔵塚と六角堂。西向きです。
六角堂は、六角円堂、桟瓦葺。
正面。堂内には木像が祀られています。
扉は桟唐戸。軒裏は放射状の二軒繁垂木。
柱は上端が絞られた円柱。軸部は貫と長押で固められ、柱上に台輪が通っています。頭貫に木鼻はありません。
柱上の組物は出組。中備えも出組です。
北側の2面。
柱間は前方(写真右)が火灯窓、後方が縦板壁です。
屋根の頂部。
路盤は六角形平面で、格狭間の意匠がついています。路盤の上は伏鉢で、その上に宝珠が乗っています。
本堂
境内の中心部には本堂が南面しています。本尊は聖観音。
本堂は、入母屋、一重、裳階付、向拝1間 向唐破風、本瓦葺。
向拝の唐破風。
拝みには、猪目懸魚のような兎毛通が下がっています。左右の鰭は若葉の意匠。
棟の鬼板には五三の桐の紋が見えます。
虹梁中備えは透かし蟇股。内側には、格狭間のような火灯状曲線が彫られています。
蟇股の上には無地の梁がわたされ、笈形付き大瓶束が唐破風の棟木を受けています。
向かって左の向拝柱。
向拝柱は上端が絞られた几帳面取り角柱。虹梁の位置に木鼻がつき、柱上は出三斗。
向拝柱と母屋とのあいだには、繋ぎ虹梁がわたされています。中備えは蟇股で、向拝正面のものと同様の造形。
向拝内部には格天井が張られています。
母屋の正面中央。堂内には、本尊を祀る須弥壇と厨子が見えます。
左の木像は「円空上人」。
母屋下層の柱は角柱。
組物は平三斗、中備えは間斗束が使われています。
母屋上層の柱は円柱。頭貫に木鼻があります。
組物は出組。中備えは間斗束です。
破風板の拝みには蕪懸魚。
妻飾りは虹梁と大瓶束となっています。
本堂向かって左手前、多宝塔の裏には護摩堂が東面しています。
寄棟、桟瓦葺。
堂内には多数の仏像が安置されています。
神明社
山門向かって右手には神明社の入口があり、東の区画は神明社の境内となっています。境内は南向き。
観音寺と神明社とのあいだには金網が設けられいるため、両者を行き来するには正面の生活道路か裏手の駐車場を通る必要があります。
入口向かって右の社号標は「神明社」。
参道には石造神明鳥居が立っています。
参道の先には拝殿。
切妻(妻入)、前方は鉄板葺、後方は桟瓦葺。
拝殿に立てられた赤いのぼりには「前田利家生誕の地」とあります。観音寺は前田利家の菩提寺だったとのこと。
柱は角柱、柱上は舟肘木。
中央の柱間には妻虹梁がわたされ、妻飾りは豕扠首。
破風板には懸魚が1つ下がっています。
側面は3間。
屋根は前方のケラバ付近が鉄板葺で、ほかは桟瓦葺です。
拝殿の後方には本殿の覆屋。
入母屋、茅葺。
壁の隙間から内部をのぞき込むと、3棟の本殿が並立しています。
本殿は3棟とも、一間社流造、板葺。見世棚造。
中央の本殿。おそらくこちらが神明社かと思います。
母屋柱は円柱が使われ、向拝柱とのあいだに海老虹梁がかかっています。
大棟には棟覆板がかぶさり、内削ぎの千木が突き出ています。鰹木は5本あります。
裏手の駐車場の区画にも境内社があります。
社殿は、切妻、向拝1間、銅板葺。
母屋には3組の扉が設けられ、向かって左から、日吉大社、弁財天、白山妙理大権現と書かれていました。
以上、観音寺でした。
(訪問日2024/10/26)
*1:境内案内板(名古屋市教育委員会による設置)より