甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【川越市】仙波東照宮

今回は埼玉県川越市の仙波東照宮(せんば とうしょうぐう)について。

 

仙波東照宮は川越市街に鎮座しています。

創建は1617年(元和三年)。久能山東照宮に葬られた徳川家康(東照権現)を日光東照宮へ改葬する際、天海が喜多院で法要を行い、当地に東照宮を祭祀したのが当社のはじまりです。1638年の川越大火で社殿を焼失しますが、1640年(寛永十七年)に徳川家光の命で再建され、以降は歴代の将軍や藩主から篤く崇敬されました。

境内は喜多院の南側に隣接し、社殿はいずれも1640年の再建時のものです。社殿5棟と鳥居1基が国の重要文化財に指定され、とくに本殿は極彩色の彫刻で彩られたきらびやかな建築となっています。

 

現地情報

所在地 〒350-0036埼玉県川越市小仙波町1-21-1(地図)
アクセス 本川越駅または川越駅から徒歩15分
川越ICから車で15分
駐車場 なし(喜多院に有料駐車場多数あり)
営業時間 境内は随時、本殿などの拝観は日曜日と祝日の09:00-16:00
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト 仙波東照宮
所要時間 15分程度

 

境内

随身門

仙波東照宮の境内は東向き。入口は住宅地の生活道路に面しています。

境内は喜多院の敷地の南側の一画にあり、公道に出ずとも喜多院とのあいだを行き来できます。

 

随身門は、三間一戸、八脚門、切妻、とち葺形銅板葺。

江戸中期の造営。「東照宮」5棟1基として国指定重要文化財

 

正面中央の柱間。

柱は円柱。柱間は頭貫でつながれ、中備えは撥束。

 

向かって左。

柱間は飛貫と頭貫でつながれています。木鼻はなく、中備えの意匠もありません。

柱上の組物は出三斗。

 

左側面(南面)。

こちらは中央の柱に木鼻付きの平三斗が使われています。

妻飾りは大ぶりな蟇股。組物を介して棟木を受けています。

角度がついていて見づらいですが、破風板の拝みと桁隠しに猪目懸魚が下がっています。

 

内部は格天井が張られています。

通路上の頭貫も、中備えは撥束が置かれています。

 

背面。

正面と同様の意匠で、ほぼ前後対称の構造です。

門扉は板戸が使われています。

 

楼門をくぐると、参道に鳥居がかかっています。

石造明神鳥居。

1638年(寛永十五年)造営。「東照宮」5棟1基のうち、「鳥居」1基として国重文(国指定重要文化財)。

 

拝殿及び幣殿

石段の先には拝殿や本殿などの社殿が鎮座しています。

ふだんは拝殿の前の扉が閉じていて、開扉されるのは日曜日と祝日だけのようです。とはいえ、閉扉していても社殿を遠目に見ることは可能です。

 

扉の先には拝殿。

桁行3間・梁間2間、入母屋、向拝1間、銅瓦葺。

1640年(寛永十七年)造営。「東照宮」5棟1基のうち、「拝殿及び幣殿」1棟として国重文

 

向拝は1間。

向拝の下には角材の階段が5段設けられ、母屋の周囲に縁側がまわされています。階段や縁側に欄干はありません。

 

向かって右の向拝柱。

面取り角柱が使われ、側面には麒麟の木鼻。

柱上の組物は連三斗。桃山風の極彩色に塗り分けられています。

 

向拝の虹梁は無地の材が使われ、中備えは蟇股。蟇股の彫刻は、松に鷹。

軒桁は、唐草模様に三葉葵の紋をあしらった意匠が描かれています。

 

母屋正面は3間、側面は2間。

柱間の建具は、正面中央は桟唐戸、ほかは半蔀です。

 

母屋柱は円柱。柱間は貫と長押で固められています。木鼻は使われていません。

柱上の組物は出三斗と平三斗。中備えは蟇股で、鳥獣の彫刻が入っています。

 

右側面(北面)。

縁側はくれ縁が4面に設けられ、側面後方は脇障子を立てています。

 

入母屋破風。

破風板の飾り金具には、三葉葵が彫られています。拝みには蕪懸魚が下がり、左右に雲状の鰭が添えられています。

妻飾りは豕扠首。

 

拝殿(写真左の棟)の後方には、妻入り屋根の幣殿がつながっています。

梁間1間・桁行2間、入母屋(妻入)、前面は拝殿に接続、銅瓦葺。

拝殿と同年の造営で、拝殿とあわせて1棟として国重文となっています。

軒下の意匠は拝殿部分と同様ですが、こちらの幣殿部分は建具に板戸が使われています。

 

唐門と本殿

拝殿及び幣殿の後方には本殿(写真右奥)が鎮座しています。本殿の手前には唐門が設けられ、その左右につながる透塀(瑞垣)で本殿を囲っています。

唐門は、一間一戸、平入唐門、銅瓦葺。

瑞垣は、折れ曲がり延長30間、本瓦葺。

 

唐門、瑞垣ともに1640年造営

「東照宮」5棟1基のうち、「唐門」1棟、「瑞垣」1棟として国重文

 

瑞垣の内側には本殿。祭神は東照権現(徳川家康)。

桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、銅瓦葺。

1640年(寛永十七年)造営。「東照宮」5棟1基の「本殿」1棟として国指定重要文化財*1

 

正面の向拝は3間あります。

間近で見られなかったため詳細な観察はできませんが、向拝柱の木鼻の唐獅子、虹梁中備えの蟇股が確認できます。

いずれの部材も桃山風の極彩色で、江戸前期らしい作風です。

 

母屋部分は正面3間・側面2間。写真では見切れていますが、柱間は半蔀と引き戸が使われていました。

母屋柱は円柱で、軸部は長押と貫で固められています。頭貫に木鼻はありません。

 

柱上の組物は出組。

頭貫の上の中備えは蟇股。蟇股には花鳥や神獣の彫刻が入っています。

 

妻飾りは二重虹梁。

大虹梁の上の壁面には鳳凰が描かれています。その左右は麒麟の彫刻を置き、組物で桁と二重虹梁を受けています。

二重虹梁の上には大瓶束。束には三葉葵の紋。束の左右の欄間は、唐草とも雲ともつかない彫刻で埋めつくされています。

 

背面。

正面と同様に母屋は3間あり、中備えに蟇股が置かれています。

 

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

大棟の両端には千木と鰹木。千木は先端が水平に切られたもの。鰹木は2本置かれています。

 

以上、仙波東照宮でした。

(訪問日2024/10/11)

*1:附:棟札1枚、宮殿1基