甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【上田市】安楽寺 後編(八角三重塔など)

今回も長野県上田市の安楽寺について。

 

前編では本堂などの伽藍について紹介・解説しました。

当記事では国宝の八角三重塔 などについて解説していきます。

 

経蔵と傅芳堂

国宝の八角三重塔のある場所へ行くには、本堂の左手にある拝観受付を通って階段の斜面を登っていきます。

なお、本堂までは無料でしたがこれ以降は有料区間(300円)となります。受付時間などは前編をご参照ください。

安楽寺経蔵

こちらは経蔵。

銅板葺の宝形。正面3間・側面3間ですが柱は漆喰で塗り込められています。

1794年(寛政6年)の造営。市指定文化財。

 

内部には市指定文化財の輪蔵が設置されています。

輪蔵は「まわすと中に収めた経をすべて読むのと同じ功徳が得られる」というものですが、堂内は立入禁止のため当然ながらまわすことはできません。

 

安楽寺傅芳堂

階段を登って行くと、その中腹にはコンクリート造の傅芳堂なる建物があります。

内部には2体の木像が安置されています。ひとつは樵谷惟仙仏禅師坐像で、安楽寺を開山した人物。もうひとつは幼牛恵仁禅師坐像で、樵谷惟仙の跡を継いだ2代目にあたる人物です。

両者とも高さ1メートルくらいで、椅子に座ったポーズ。鎌倉後期の1329年(嘉歴4年)に彫られたものとのこと。

 

八角三重塔(国宝)

安楽寺八角三重塔

階段を登りつめると、境内の最奥部に鎮座する八角三重塔があらわれます。

八角三重塔はこけら葺。三重。八角。初重は裳階(もこし)付き。全高18.75メートル。

 

造営年については諸説あり、境内の案内板(安楽寺の設置)には“鎌倉時代末期(1277-1333)以外に考えられないというのが定説”と書かれています。

それに対し、パンフレットには木材の年輪をもちいた年代鑑定についての解説があり、“奈良文化財研究所埋没文化財センター古環境研究室の光谷・大河内両先生の調査の結果、三重塔用材の伐採年代は正應2年(1289)と判明、1290年代(鎌倉時代末期)には建立された、わが国最古の禅宗様建築であることが証明された”と書かれています。

要約すると、鎌倉後期の造営であることは確実で、1290年代に造営された可能性が高いようです。

 

安楽寺八角三重塔

一見するとこの塔は四重に見えますが、いちばん下の屋根は裳階(もこし)という庇の一種です。裳階は寺院建築では普遍的に見られる意匠ですが、塔建築に裳階を設けるのは異例で、私の知る範囲だと薬師寺(奈良市)くらいしか例がありません。

また、平面が八角形というのも日本では異例中の異例です。案内板(安楽寺の設置)によると“八角塔は奈良・京都などに記録として残されているが、それらが失われた今日、我が国に残された唯一の八角塔”であるとのこと。

そして各所の意匠は禅宗様という様式にのっとったものであり、塔建築では部分的に禅宗様を取り入れる例はよくあるのですが、この塔ほど徹底して禅宗様の意匠をもちいた塔建築はほかにありません。

 

つまるところ、この八角三重塔は構造から細部意匠にいたるまで異例尽くしで、ほかに類がない唯一無二の珍物件といえるでしょう。

 

八角三重塔裳階

初重の裳階の軒下。

柱は円柱ですが、上端が丸くすぼまった粽(ちまき)になっています。柱間は壁板が縦方向に張られ、その上には波状のパターンを繰り返す弓欄間頭貫と台輪には木鼻がつけられています。

柱上の組物は出組で、桁が一手先に持出しされています。組物は本来なら柱上に置くものですが、この三重塔は柱間にも組物を置いた詰組(つめぐみ)になっています。

軒裏は二軒の繁垂木で、垂木が放射状に延びる扇垂木となっています。

 

ここで述べた粽、縦方向の壁板、弓欄間、頭貫と台輪の木鼻、詰組、扇垂木はいずれも鎌倉期に伝来した禅宗様の特徴的な意匠です。

そのほか、ふつうの三重塔は各階に縁側を設けて初重は高床にするものですが、禅宗様建築では縁側を設けず土間にするのが基本で、八角三重塔はこの基本に則っています。

 

八角三重塔初重

初重の屋根の軒下。

屋根が滑らかな曲線を描いて反っており、このアングルだと軽快な印象を受けます。

組物は、詰組が使われている点は裳階の下と同様。しかしこちらは三手先に持出ししているだけでなく、先端の尖った尾垂木が突き出ており、密度の高い外観となっています。

ちなみに、禅宗様建築では先端が尖った尾垂木が使われます。

 

写真上端に見えるのは二重の母屋。連子窓が立てつけられています。

軒下が見切れてしまっていますが、初重の屋根の軒下と同様です。

 

八角三重塔見上げ

各重を見上げた図。

柱間のスパンがちがうのもありますが、組物の構造が異なるため、裳階よりも屋根の軒下のほうが複雑で密な外観になっています。

 

安楽寺八角三重塔

全体図。

三重塔や五重塔は上層になるにつれて母屋を小さく造りますが、この八角三重塔は逓減率がやや高め。くわえて裳階の下が大きいため、独特なバランスでありながら安定感のあるシルエットに見えます。

そして八角形で禅宗様であるという点も独特さに拍車を掛けます。

 

別所温泉やその周辺(塩田平)は「信州の鎌倉」の異名があり、寺院建築や文化財の密集地帯なのですが、その頂点のひとつがこの八角三重塔であり、必見の物件です。

また、別所温泉と隣接する青木村の大法寺の三重塔も国宝指定されているのですが、そちらは純粋な和様建築であり、同じ三重塔とは思えないほどに別物なので、両者を比較することでより深く楽しめることでしょう。

 

以上、安楽寺でした。

(訪問日2019/04/29,2020/08/01)

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