甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【市川市】法華経寺 後編 祖師堂、四足門、法華堂

今回も千葉県市川市の法華経寺について。

 

前編では、山門、五重塔について述べました。

当記事では、祖師堂、四足門、法華堂などについて述べます。

 

祖師堂

境内の中心部には巨大な祖師堂が、南東向きに鎮座しています。

 

なお、訪問時は屋根の葺き替え工事中で、堂の全貌を見ることはできませんでした。2023年11月末まで工事の予定とのこと。

 

(※画像はWikipediaより引用)

祖師堂は、桁行7間・梁間7間、比翼入母屋造、正面向拝3間、背面向拝1間、こけら葺。

1678年(延宝六年)再建国指定重要文化財*1

 

入母屋の屋根が前後に2つ連なった比翼入母屋造(ひよく いりもやづくり)という様式で造られています。これは国内でもほとんど例がなく、非常にめずらしい建築様式です*2

内部は前方が吹き放ちの外陣、後方が内陣となっており、内陣の左右には脇陣、内陣後方には後陣が設けられています。各陣の境界は取り外し可能な建具で仕切られており、祭事のときなどに空間を広く使えるよう造られているようです。

 

工事中ですが、向拝部分で礼拝することは可能でした。

向拝の木鼻や手挟、外陣の手前の吹き放ちの空間を観察できました。

工事が完了したら、期日未定ですが再訪して加筆したいと思います。

 

四足門

祖師堂の裏の壇上には四足門(しそくもん)。南東向きです。上の写真は左後方(西側)から見た図。

一間一戸、四脚門、切妻、こけら葺。

室町後期の造営(推定)国指定重要文化財

 

名称は四脚門(よつあしもん、しきゃくもん)ではなく、四門。

当初は鎌倉市の愛染堂(覚園寺のこと?)の門だったらしく、いつ移築されたのかは不明ですが、移築後は当寺の山門として使われていたようです。

 

背面向かって右の控柱。

柱はいずれも円柱で、上端が絞られています。

控柱の正面と側面には禅宗様木鼻。複雑な曲線の繰型と、渦の意匠がついています。

柱上の組物は出三斗。

 

控柱のあいだには頭貫が通り、中備えは出三斗。

出三斗の上では、繰型のついた手挟が軒裏を受けています。

 

扉筋の主柱も円柱です。

門扉は桟唐戸。主柱のあいだの横木(台輪?)に穴をあけて、門扉の軸を受けています。

扉の上の欄間には、目の粗い連子。

 

左側面(南西面)。

妻虹梁はなく、中央の主柱が棟木の近くまで伸びています。主柱の上には木鼻のついた大斗が置かれています。

主柱と控柱のあいだには海老虹梁。主柱の側面から斗栱が出て、海老虹梁を持送りしています。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。桁隠しにも雲の彫刻が下がっています。

 

妙見堂

祖師堂と四足門の西側には、妙見堂があります。

入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、瓦棒銅板葺。

 

向拝は1間。

軒下には彫刻が多数あります。

 

唐破風の兎毛通は鳳凰。

屋根の上の鬼板には、桜の花の意匠があります。

 

虹梁中備えおよび唐破風の小壁には、竜の彫刻。2体の竜がにらみ合う構成になっています。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。正面は唐獅子、側面は獏の木鼻。

柱と梁の接続部の持送りには、波に亀の彫刻。

柱上の組物は、出三斗の肘木部分を象鼻に置き換えたものが使われています。

 

手挟は、菊と思しき花の籠彫り。

縋破風の桁隠しは、菊水の彫刻。

 

向拝部分は派手な彫刻がありましたが、母屋部分は一転して装飾が少なめ。

母屋柱は円柱。柱間は桟唐戸と引き戸。

切目縁が3面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。

 

頭貫には象鼻がつき、柱上には台輪が通っています。側面は、柱と台輪のあいだに舟肘木のような部材がはさまれています。

柱上の組物は出組。中備えはありません。

 

正面の千鳥破風。

拝み懸魚は雲の意匠。

暗くてよく見えませんが、妻飾りは笈形付き大瓶束のようなものが見えます。

 

右側面の入母屋破風。

拝みには雲の彫刻。

妻飾りは二重虹梁で、力神が梁をかついでいます。

 

法華堂

四足門の北には法華堂(ほっけどう)が南東向きに鎮座しています。

 

桁行5間・梁間4間、入母屋、瓦棒銅板葺。

室町後期の造営(推定)国指定重要文化財*3

棟札によると、内部の柱や軒周りは、1670年の修理によるもの。

 

正面は5間。中央の1間はやや広く取られています。

母屋の前方1間通りは建具がなく、吹き放ちです。

 

柱は円柱。軸部は飛貫と頭貫で連結されていて、長押は使われていません。

頭貫には禅宗様木鼻。

柱上は出三斗と平三斗が使われ、中備えは間斗束(撥束)。

 

右側面。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

前方の1間通りは柱間が広く、ここだけ中備えに平三斗が置かれています。

平三斗の左右には間斗束。

組物と間斗束の上には、通肘木が使われています。

 

側面中央の2間は桟唐戸。

後方の1間は縦板壁。

どちらも禅宗様の意匠ですが、間斗束は和様の意匠です。

 

入母屋破風。

破風板の拝みは蕪懸魚。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

 

その他の伽藍

五重塔の南には額堂。

入母屋、桟瓦葺。

 

内部は化粧屋根裏で、小屋組が見えます。

壁には奉納された額が掲げられています。

 

五重塔から寺務所のほうへ向かうと、参道左手に宝殿門があります。

三間一戸?、楼門、入母屋、桟瓦葺。

 

扁額は「寶殿門」。内部に太鼓が置かれています。

柱は角柱、柱上は舟肘木。中備えはありません。

 

寺務所の手前には荒行堂。

入母屋、桟瓦葺。向拝1間 千鳥破風付、銅板葺。

 

向拝部分には、竜、唐獅子、象の彫刻があります。

 

以上、法華経寺でした。

(訪問日2023/06/10)

*1:附:棟札11枚

*2:この祖師堂のほかでは、吉備津神社本殿(岡山市)が著名

*3:附:棟札5枚