甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲府市】八幡神社(千塚)

今回は山梨県甲府市千塚(ちづか)の八幡神社(はちまん-)について。

 

八幡神社は甲府市西部の市街地に鎮座しています。

創建は社伝によると769年(神護景雲三年)で、市北部にある八王子山の神を当地に遷座したのがはじまりとのこと。平安中期に源頼信が社殿を造営し、以降、甲斐源氏の崇敬を受けたようです。その後の詳細な沿革は不明ですが、信玄の時代に隆盛をきわめ、武田氏滅亡後は荒廃したとのこと。江戸時代には、1713年(正徳三年)に社殿が再建されました。明治時代には村社に列しています。

現在の境内と社殿は、江戸中期の再建によるものと思われます。境内には随神門や多数の境内社が点在しています。

 

現地情報

所在地 〒400-0074山梨県甲府市千塚3-5-1(地図)
アクセス 甲府駅から徒歩40分
甲府昭和ICから車で15分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道と随神門

八幡神社の境内は南向き。境内入口は幹線道路に面した場所にあり、無用橋と化した石橋がかかっています。

右奥の社号標は「千塚八幡神社」。

 

鳥居は参道の途中に立っています。

石造明神鳥居。扁額は「八幡宮」。

 

参道を進むと、赤く彩色された随神門があります。

桁行正面1間・背面3間・梁間2間、三間一戸、八脚門?、切妻、銅板葺。

 

3つある間口のうち中央の1間を通路にした、三間一戸という形式の門です。ただし前方の間口は、中央の柱2本を省いて広い1間となっています。このような形式の門は甲府盆地周辺でよく見られます。

 

正面向かって左側。

柱は面取り角柱。側面には拳鼻。柱上の組物は連三斗。

虹梁は絵様が彫られ、中備えに平三斗が置かれています。

 

左側面(西面)。写真右が正面側です。

側面2間のうち、前方の1間通りは吹き放ちです。後方は柱間に縦板壁を張っています。

妻虹梁の上には角柱の束が立てられています。

破風板の拝みと桁隠しには蕪懸魚。

 

拝殿と本殿

随神門の先には拝殿が鎮座しています。

入母屋、向拝1間 向唐破風、銅板葺。

 

唐破風の拝みには、蕪懸魚が下がっています。

小壁の部分には円柱の束が立てられ、唐破風の棟木を受けています。

その下の中備えは蟇股。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。

側面に象鼻が付き、柱上は出三斗。

 

向拝柱の上では、板状の手挟が軒裏を受けています。

向拝柱と母屋のあいだには海老虹梁がわたされています。

母屋柱は角柱。柱上に組物はなく、繰型のついた肘木が使われています。

 

拝殿の母屋には、奉納された絵馬などが掲げられていました。

こちらの絵は「三韓征伐」。八幡宮の祭神にまつわる神話の一場面です。

左が神功皇后、右が武内宿祢。武内宿祢が抱きかかえているのが、神功皇后の子の応神天皇(誉田別命)。応神天皇と神功皇后は八幡宮の主要な祭神であり、武内宿祢も八幡宮の摂社に祀られることが多いです。

 

拝殿の後方には、塀に囲われた本殿が鎮座しています。祭神は誉田別命などの八幡神。

本殿は、一間社流造、銅板葺。

造営年不明。山梨県神社庁によると1713年(正徳三年)に社殿が再建された記録があるようですが、それが現在のものかどうかは不明。

 

向拝部分。柱間に湾曲した海老虹梁がわたされています。

向拝柱(写真中央右)には、唐獅子の木鼻がついています。

 

母屋柱は円柱で、柱間は横板壁。

縁側は、正面と側面に切目縁がまわされ、後方は脇障子を立ててふさいでいます。欄干は擬宝珠付き。

 

軸部は長押と貫でつながれています。頭貫には拳鼻。

柱上の組物は二手先。中備えは蟇股で、こちらの蟇股は竹に虎の彫刻が入っています。

 

妻虹梁は渦状の絵様が線彫りされています。妻飾りは大瓶束。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

大棟の鬼板には、赤く彩色された鬼面がついています。

大棟は小さな屋根が付いた箱棟となっており、前面には八幡宮の神紋の三つ巴があります。

 

背面は1間。柱間は横板壁。

こちらも中備えに蟇股があります。題材は波に亀。

 

境内社

境内の東側には摂社・末社が並んでいます。

こちらは当社の境内社でもっとも大きい■珈社(■は王へんに侖)。塀に囲われ、西面しています。

社名に見たことのない字が使われていて、私には読みが解りませんでした。祭神は“鞍持ノ神”とのこと。

社殿は、一間社流造、銅板葺。

 

向拝柱は几帳面取り角柱で、側面に拳鼻が付き、柱上は連三斗が使われています。

虹梁中備えは蟇股。

母屋の正面には板戸があります。

 

向拝柱と母屋とをつなぐ懸架材はありません。

母屋柱は円柱。母屋正面の板戸は、奥まった場所に設けられています。

 

母屋の柱上には舟肘木のような部材が使われています。

妻虹梁の上では、板蟇股が棟木を受けています。

破風板に懸魚はありません。

 

■珈社の左奥には5棟の末社が並立しています。

いずれも一間社流造。

社名は左から、白山社、稲荷社、天神社、津島社、春日社。

 

■珈社や5つの末社から少し離れた場所には、神明社(中央)と名称不明の石祠(右奥)があります。

神明社は一間社流造、銅板葺。

 

以上、八幡神社(千塚)でした。

(訪問日2024/03/16)