今回は滋賀県日野町の正明寺(しょうみょうじ)について。
正明寺は町北部の丘陵に鎮座する黄檗宗の寺院です。山号は法輪山。
創建は不明。寺伝によると聖徳太子による創建とのこと。もとは延暦寺の傘下にあって隆盛したようですが、戦国時代の兵火ですべての堂宇を焼失しました。江戸初期には当地住人の頓宮宗右衛門の発願で再建され、禅僧・一絲文守と後水尾天皇の支援を受け、京都御所内にあった建物を移築して本堂としました。その後は近江国内における黄檗宗の中心寺院として隆盛したようです。
現在の境内は江戸初期に整備されたもの。前述のように本堂は京都御所から移築されたもので、国重文に指定されています。ほかにも本尊の千手観音と脇侍が国重文となっているなど、多くの文化財や寺宝を所有しています。
現地情報
所在地 | 〒529-1601滋賀県蒲生郡日野町松尾560(地図) |
アクセス | 日野駅から徒歩45分 蒲生スマートICから車で20分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 20分程度 |
境内
山門(総門)
正明寺の境内は南向き。境内は、市街地から少しはずれた丘陵の一画にあります。
右の寺号標は「勅建 黄檗宗 法輪山 正明寺」。
左は「近江西国観音霊場第二十四番札所」「近江日野観音霊場第三十三番札所」。
石畳の参道を進むと、山門があります。
一間一戸、四脚門、切妻、正面軒唐破風付、本瓦葺。
軒唐破風がついていて、四脚門としてはややめずらしい造り。正面性が強調されたファサードです。
正面の軒下。
奥の扁額は山号「法輪山」。
軒唐破風の部分。
兎毛通と桁隠しに懸魚が下がっています。
正面の虹梁。
虹梁中備えは大斗と肘木だけの簡略的な組物が使われています。
唐破風の小壁の意匠は、大斗と木鼻を組合わせたもの。
正面(南面)と右側面(東面)。
正面の控柱(写真左)は几帳面取り角柱。柱上は大斗と肘木。前方に腕木を伸ばして皿斗で軒裏を受けており、薬医門のような構造です。
妻壁の飾りは板蟇股。
内部向かって右側。
主柱は円柱で、主柱の上には冠木が渡されています。主柱と前後の控柱は、貫で連結されています。
山門から本堂を見た図。
本堂内でいただいたパンフレットの表紙も、このような構図でした。
背筋が伸びるような、整然とした美しいランドスケープデザインだと思います。
本堂
本堂は、桁行5間・梁間4間、寄棟、向拝1間 向唐破風、檜皮葺。
1645年(正保二年)移築。国指定重要文化財*1。
もとは京都御所の清涼殿の建物だったようで、寺院風というよりは住宅風の簡素で淡麗な趣。パンフレットによると安土桃山時代の造営らしいですが、1645年の移築と改装で現在の姿になったようなので、江戸前期の建築として見るべきでしょう。
向拝の軒下。
細い柱が多用されています。
向拝柱は面取り角柱。側面には象頭の木鼻。
柱上の組物は出三斗。実肘木がなく、唐破風の妻虹梁を直接受けています。
向拝柱のあいだには、無地の細い横木(水引虹梁)が渡されています。中備えは蟇股。
妻虹梁の上には大瓶束が立てられています。
母屋の前面(桁行)は5間。
母屋柱は角柱で、柱間は桟唐戸と蔀が使われています。
縁側は、縁の下の縁束を上へ伸ばし、屋根の軒先を支えています。盛蓮寺観音堂(長野県大町市)と似た構造。
縁束の柱は面取り角柱。肘木などを介さず、そのまま軒桁を受けています。
軒裏は二軒まばら垂木。
側面の建具は舞良戸。
こちらは縁側に天井が張られています。
右側面(東面)。
母屋に対して、軒の出が非常に深くなっています。
本堂向かって左には玄関。
向唐破風、檜皮葺。
中備えは蟇股。妻飾りは笈形付き大瓶束。
唐破風の兎毛通の懸魚には、菊の紋がついています。
その他の伽藍
本堂の手前、参道左手には手水舎。
切妻、桟瓦葺。
本堂の手前で右(東側)へ向かい、放生池を通り過ぎると、一段高い区画に経蔵などの伽藍があります。上の写真は経蔵。
桁行3間・梁間3間、宝形、錣屋根の上段は本瓦葺 下段は桟瓦葺。
1696年(元禄九年)造営。県指定有形文化財。
堂内に収められた「鉄眼版一切経」も県指定有形文化財。鉄眼とは、木版印刷で一切経を出版した禅僧・鉄眼道光(てつげん どうこう)のこと。
母屋柱は角柱。柱上は舟肘木。
軒裏は二軒まばら垂木。
左側面(北面)と背面(東面)。
側面中央は桟唐戸。
背面中央は火灯窓。
経蔵の北には開山堂が南面しています。
桁行正面1間・背面3間・梁間3間、宝形、桟瓦葺。
正面は1間で、桟唐戸と丸窓が設けられています。
柱は円柱で上端が絞られ、頭貫と台輪に禅宗様木鼻がついています。
柱上には組物がなく、そのかわりに独特な花肘木のような部材で軒桁を受けています。
側面は2間、背面は3間。
軒裏は一重の吹き寄せ垂木。
側面および背面も、花肘木のような部材が使われていました。
経蔵の南には鐘楼。
二重、入母屋、上層は本瓦葺、下層は桟瓦葺。
以上、正明寺でした。
(訪問日2022/10/15)
*1:附:厨子、棟札4枚