今回は京都府京都市の伏見稲荷大社御旅所(ふしみいなりたいしゃ おたびしょ)について。
伏見稲荷大社御旅所は京都駅の南の市街地に鎮座しています。
創建は不明。当初は七条油小路(下京区)と八条坊門猪熊(南区)の2か所に鎮座しており、天正年間(1573-1592)に現在地へ移転して統合されたとのこと。
この御旅所は伏見稲荷大社(同市伏見区深草)の境内の一部というあつかいのようで、稲荷祭の折に、東寺とのあいだを行き来する神輿が停まる場所となっています。現在の境内は2007年(平成十九年)から順次整備されたもの。社殿は4棟が並立し、伊勢神宮から下賜された古材が使われているとのこと。
現地情報
所在地 | 〒601-8416京都府京都市南区西九条池ノ内町98(地図) |
アクセス | 東寺駅から徒歩5分、または京都駅から徒歩10分 京都南ICから車で10分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | 伏見稲荷大社 |
所要時間 | 10分程度 |
境内
御旅殿
伏見稲荷大社御旅所の境内は南向き。
入り口には木造の明神鳥居。扁額はなく、額束になっています。
境内東側には、4棟の本殿が並んで西面しています。いずれも2015年(平成二十七年)の竣工。
こちらは中央に鎮座する御旅殿。
一間社流造、檜皮葺。
向拝柱は角柱。古式を意識したのか、大きく角面取りされています。
柱上は出三斗。実肘木は使われず、斗が桁を直接受けています。
虹梁は無地の材が使われています。
中備えは板蟇股。はらわたの彫刻は、唐草と蓮華と思しき花が彫られ、彩色されています。
向拝と母屋は、まっすぐな梁でつながれています。
破風板は紅白に塗り分けられ、飾り金具がついています。向拝の桁隠しは小さな猪目懸魚が下がり、左右には波状の鰭があります。
母屋柱は円柱。柱上は舟肘木。
軸部は長押と頭貫で固定されています。頭貫木鼻はありません。
妻飾りは古風な豕扠首。
破風板の尾上と桁隠しには猪目懸魚。
母屋の前面は黒い格子戸。側面は白い板戸。
縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。背面側は脇障子を立ててふさがれています。
その他の社殿
こちらは御旅殿の南(向かって右)の太神宮。
二間社神明造、銅板葺。見世棚造。
母屋の正面に扉が2つあり、二間社というめずらしい様式になっています。また、前方に壁がなく、神明造で吹き放ちの空間があるのも風変わり。
大棟の上には外削ぎの置き千木。鰹木は紡錘形のものが3本。
母屋の外には棟持ち柱が立てられています。破風板の拝みの近くには、鞭掛(4本の棒)が出ています。この辺りは神明造の構造や意匠にのっとっています。
屋根はわずかにむくり(上に凸の曲面)がついています。
こちらは御旅殿の北にある上命婦社と下命婦社。
両者とも、一間社流造、銅板葺。見世棚造。
境内西側には、神楽殿と思しき社殿が東面しています。
入母屋(妻入)、桟瓦葺。
柱は角柱。柱間は雨戸が閉められています。
柱上は出三斗で、こちらの組物は実肘木が使われています。
梁の中備えは蟇股。
軒裏は二軒まばら垂木。飛檐垂木(軒先のほうの垂木)は先端に向けて細くなる形状をしており、繊細な趣。
破風板の拝みは蕪懸魚。
入母屋破風の内部は、木連格子が張られています。
境内北側には社務所が南面しています。
屋根は強い反りがつけられ、前後に長く伸びています。流造の神社本殿を意識したデザイン。
前面はシャッター(鎧戸)が下りています。
間口は5つに区切られ、神社本殿の向拝のように見えます。
以上、伏見稲荷大社御旅所でした。
(訪問日2022/02/24)