甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【天理市】天皇神社

今回は奈良県天理市の天皇神社(てんのう-)について。

 

天皇神社は市南部にある集落の一角に鎮座しています。

創建は、伝承によると1272年(文永九年)。1396年(応永三年)に現在の本殿が造営され、江戸時代に何度か修理を受けたようです。本殿内部には薬師如来や牛頭天王の木像が祀られていたようですが、その一部は盗難に遭ったとのこと。

前述のとおり本殿は室町時代初期のもので、桧皮葺の春日造。棟札5枚とともに国重文に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒632-0066奈良県天理市備前町251(地図)
アクセス 長柄駅から徒歩25分
三宅ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

拝殿

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天皇神社の境内は西向き。ややめずらしい方角を向いています。東側に山があるなどの立地的な理由があれば納得できますが、この神社の周辺は平坦な集落です。

入口には石造の明神鳥居。扁額はなく、額束です。

 

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鳥居のすぐ先には拝殿があります。中央部が通路になった、割拝殿の構造をしています。

拝殿は、入母屋、桟瓦葺。

とくに目立つ意匠はありません。

 

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参道右手、拝殿の手前には境内社・賽神神社(さいのかみ-)が北面しています。

一間社春日造、見世棚造、鉄板葺。

見世棚造ですがいちおうの縁側のようなものがあり、背面側には脇障子が立てられています。

 

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軒裏の納まり。

春日造は、前方に流れる庇の垂木と、左右に流れる母屋の垂木の取り合いが、ひとつの見どころ。

この社殿は、母屋前面の桁を境にして、垂木の方向を変えています。

 

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拝殿の後方、本殿の左右には小さな境内社が並立しています。

こちらは本殿左手(北側)にある菅原神社。

 

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こちらは右手(南側)にある厳島神社。

菅原神社・厳島神社ともに小祠ですが、新しい真榊が飾られています。

 

本殿

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拝殿の後方には、石造の瑞垣に囲われた本殿が鎮座しています。

一間社春日造、檜皮葺。

1396年(応永三年)造営。棟札5枚とあわせて国指定重要文化財

主祭神はスサノオ(牛頭天王と同一視される)。「天皇神社」という社名は牛頭天王に由来するようです。

 

案内板(天理市教育委員会)によると、“藤井一家の大工を催促して造立したもの”、“室町時代初期の特徴をよくたもっている”、“中世以降に建てられた春日造の社殿は県下において少なくないが、そのなかでも優作の一つに数えられる”とのこと。

 

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向拝柱は角面取り。

柱上の組物は連三斗。実肘木を介さず、軒桁を直接受けています。

柱の側面には拳鼻のような木鼻が出て、巻斗を介して組物を持ち送りしています。

 

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虹梁は、両端の眉欠きと、下面の黒い線だけが彫られています。唐草状の絵様はありません。

中備えは透かし蟇股。蓮と思しき花が彫られています。彫刻の部分は彩色せず、白木のままになっています。

 

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前方の軒下には、角材の階段が7段。木口が黄色く塗り分けられています。

 

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母屋の前面は板戸。板戸の上と両脇に彫刻がありますが、題材がわからず。

板戸の上の中備えは蟇股。こちらも彫刻が入っています。

前面の両脇には脇障子が立てられています。

 

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母屋柱と向拝柱は、まっすぐな梁でつながれています。

梁の上には白い板が張られ、その中間が垂木の流れる方向の境になっています。春日造ではよく見られる技法です。

縋破風の桁隠しには猪目懸魚が下がっています。

 

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斜め後方から柱上を見た図。

母屋柱は円柱。柱上は舟肘木。

上部に長押が打たれ、その上を頭貫が通っています。頭貫には渦状の繰型のついた木鼻。

中備えは透かし蟇股。内部の彫刻は欠損してしまっています。

 

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背面。

中備えの蟇股はありません。

妻飾りは豕扠首。

縁側は背面で途切れています。欄干は跳高欄。縁の下は腰組で受けられています。

母屋柱は床下も円柱に成形されています。

 

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正面の破風板の拝みには猪目懸魚。

大棟には千木と鰹木が各2つ。千木は外削ぎ。鰹木は角柱状のもの。

 

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最後に全体図。

案内板が「県下有数の優作」とほめていたとおり、一目見ただけでも素性の良さが察せられる、端正な本殿だと思います。

 

以上、天皇神社でした。

(訪問日2022/02/23)