甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【天理市】大和神社

今回は奈良県天理市の大和神社(おおやまと-)について。

 

大和神社は市の南東部の集落に鎮座しています。

創建は記紀によれば第10代・崇神天皇の時代とのこと。当初は長岡崎(現在の桜井市内らしい)という場所に祀られ、現在地に遷座したようです。692年(朱鳥二年)に持統天皇の奉幣を受け、平安時代には『延喜式』の名神大社に列しました。全盛期には伊勢神宮に次ぐ広大な社領を所有していましたが、平安遷都や火災により衰退し、安土桃山時代にはすべての社領を失っています。江戸時代には寺院風の社殿が再建されたようですが、明治時代に現在の社殿が造られました。

現在の境内社殿はおもに明治時代のもので、3棟の本殿が並立しています。また、戦艦大和の艦内に当社の分社が祀られていたことから、境内には戦艦大和にまつわる資料や模型が展示されています。

 

現地情報

所在地 〒632-0057奈良県天理市新泉町306(地図)
アクセス 長柄駅から徒歩15分
天理東ICから車で10分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 大和神社 Ooyamato jinja へようこそ
所要時間 20分程度

 

境内

参道

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大和神社の境内は東向き。集落の一角に境内入口があります。

一の鳥居は石造の明神鳥居。扁額なし。

左の社号標は「官幣大社大和神社」。

 

境内案内板によると、当社の参道は270メートルあり、戦艦大和の全長とほぼ同じとのこと。

 

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二の鳥居。

こちらも石造の明神鳥居、扁額なし。

 

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二の鳥居の近くの参道左手には境内社・増御子神社(ますみこ-)。

一間社春日造、銅板葺。

祭神はサルタヒコとウズメ。

 

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参道左手には手水舎。

入母屋、銅板葺。

 

拝殿と本殿

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参道の先には拝殿。

入母屋、正面軒唐破風付、銅板葺。

 

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唐破風の上の鬼板には菊の紋。

破風板の兎毛通は、少し変わった形状の猪目懸魚。

 

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唐破風の軒下の扁額は「大和大明神」。

柱は円柱で、柱上は舟肘木。

 

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拝殿の後方には3棟の本殿が並立して鎮座しています。

3棟いずれも、一間社春日造、檜皮葺。

造営年不明。戦後のものと思われます。

祭神は倭大国魂神、大国主(八千戈大神)、年神の3柱。

 

破風板や垂木は黒く塗られ、飾り金具で装飾されています。

屋根の上には千木と鰹木が各2つ。千木は外削ぎで、長方形の風穴が空いています。

年代不明とはいえ、屋根を見ただけでも立派な本殿だとわかるほどの風格があり、軒下を観察できないのが惜しいです。

 

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こちらは後述の戦艦大和展示室にあった、上空からの写真。

3棟の本殿の前には、切妻、檜皮葺の幣殿(あるいは中門?)が確認できます。

 

境内社

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拝殿向かって左手には摂社・高龗神社(たかおおかみ-)。「龗」の字は、雨かんむりに口3つと龍。

入口には笠木のついた神明鳥居が立っています。

 

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簡易的な拝所の奥に本殿が鎮座しています。

高龗神社本殿は、一間社春日造、檜皮葺。

造営年不明。

祭神は竜神で、雨をもたらす水神とのこと。

 

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虹梁には竹が吊るされ、細いしめ縄がかかっています。

軒裏は二軒で、まばらな吹寄せ垂木。

 

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向拝柱は角面取り。

柱上は連三斗。赤をベースに、白と黄色で独特な配色に塗り分けられています。

虹梁木鼻は象鼻。巻斗を介して組物を持ち送りしています。

 

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虹梁中備えは透かし蟇股。

彫刻は入っていませんが、塗り分けのおかげで単調さを感じさせません。

 

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母屋柱は円柱。柱上は舟肘木。

向拝柱と母屋柱はまっすぐな梁でつながれています。梁の上は白い板が張られています。

 

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背面。

妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

大棟の鬼板に、外削ぎの千木がついています。

 

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拝殿向かって右手、境内北側には祖霊社。

一間社春日造、銅板葺。

案内板によると、当社の旧本殿を移築したものとのこと。

各所の造りは、前述の高龗神社本殿の意匠を簡略化した感じでした。

 

祭神は大国主のほか、戦艦大和の乗組員や、それに付随した巡洋艦・駆逐艦の戦没者が祀られているようです。

近現代の戦没者を、大国主のような神話の神と合祀しているのはめずらしいです。また、民間人を祀る祖霊社が、国家神道の時代の官幣社の境内に作られた例もめずらしいようです。

 

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最後に境内南側にある戦艦大和展示室。

入場無料。ご自由に見学してくださいとのこと。

室内には、戦艦大和の模型や、古写真、パネル資料などが展示されていました。

 

以上、大和神社でした。

(訪問日2022/02/23)