今回は群馬県みなかみ町の月夜野神社(つきよの-)について。
月夜野神社は利根川沿いの河岸段丘に鎮座しています。
創建は不明。もとは都神明宮と呼ばれていたようです。本殿は別の神社から移設したもののようで、板軒にまで彫刻を配した非常に派手な本殿を見ることができます。
現地情報
所在地 | 〒379-1313群馬県利根郡みなかみ町(地図) |
アクセス | 後閑駅から徒歩30分 月夜野ICから車で10分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
参道
月夜野神社の境内は東向き。
二の鳥居は木造の両部鳥居。扁額は「月夜野神社」。
一の鳥居は石段の下にあり、階段の昇降が面倒だったので入口と一の鳥居は未確認。
もとは都神明宮(みやこ しんめいぐう)というアマテラスを祀る神社で、明治期の神社整理で近在の小社を多数合祀し、1908年に月夜野神社と改称したようです。
月夜野という独特な地名の場所にありますが、この神社は地名の由来とはとくに関係ないようです。
拝殿の右手には神楽殿。入母屋(妻入)、鉄板葺。
前方は吹き放ちの空間。後方は建具があり、正面側は3組の扉が立てつけられ、まるで三間社の本殿のような外観。頭貫や組物や脇障子もあり、神楽殿にしては凝っています。
拝殿
拝殿は入母屋(平入)、桟瓦葺、向拝1間・軒唐破風付、銅板葺。
向拝柱は几帳面取りされた部分が黒く塗られています。
虹梁は緑の唐草が彫られ、中備えは蟇股。木鼻は象鼻。
柱上の組物は、皿斗をベースにした出三斗。
唐破風の小壁には四角い大瓶束。破風板の兎毛通はなんとも形容しがたい独特の形状をしています。
屋根は母屋部分が桟瓦葺ですが、向拝部分は銅板葺。銅板の柔軟さを活かし、瓦では表現しづらい三次元的な曲面を出しています。
拝殿の左隣には摂社。詳細は不明。
一間社流造、銅板葺。
塗装がきれいなので古いものには見えないですが、まっすぐなつなぎ虹梁や、妻壁の豕扠首、頭貫に木鼻がないところなどに古風な点が見られます。
本殿
拝殿の後方には、覆い屋の中に本殿が鎮座しています。
本殿は梁間1間・桁行1間、一間社隅木入春日造、向拝1間・軒唐破風付、板瓦葺。
1792年(寛政四)建立。棟梁は榛東村新井の柏木、大河原なる人物。
吾妻谷神社(あづまべ-)という神社の本殿を1937年に現在地へ移設したもので、解体せずにそりところに乗せて人力で移設したようです。
祭神はアマテラスのほか、29柱が合祀されています。
向拝柱の木鼻は正面が唐獅子、側面が象(あるいは獏?)。しかし、こちら側は象の彫刻が欠損しており、ほぞ穴が露出しています。
虹梁中備えは雲に麒麟。その左右には組物が配置され、唐破風の桁を受けています。
柱上の組物は出三斗と連三斗をベースとしたもので、2段重ねになっています。
そしてこの本殿の最大の特徴が、軒裏に垂木のない板軒であり、板軒のすべてに彫刻が施されていること。
向拝柱は几帳面取り角柱。面には菱形の紋様が彫られ、梅の花が描かれています。
正面には角材の階段が5段。その下には浜床。この周辺だけは彫刻がなく、あっさりした外観。
母屋正面の扉は桟唐戸。左右にも彫刻があり、題材はブドウにリスのようです。
昇高欄の擬宝珠は禅宗様の意匠。
縁側は切目縁が3面にまわされています。欄干は跳高欄で、一部の部材が欠損しています。縁の下は、木鼻のついた腰組と、波の意匠の持ち送りで持ち出されています。
右側面の胴羽目は、松に鷹。
頭貫には菱形の紋様が彫られ、木鼻は唐獅子。
組物は尾垂木三手先で詰組になっています。桁下の板支輪は波の意匠、支輪の下は巻斗が並べられています。
背面の胴羽目は、雲に鳳凰。
大まかな意匠は側面と同様ですが、こちらは組物のあいだの壁面に赤い花のような模様が描かれています。
背面の妻壁と軒裏はまさに壮観。
妻虹梁は三手先に持ち出され、さらに二重虹梁になっています。二重虹梁の上では大瓶束が棟を受けています。
軒裏の板軒には極彩色の竜が彫られています。彫刻の造形は抜群に巧いというわけではないと思うのですが、軒裏をひとつのキャンバスにした大作であり、このような作例は初めて見たので圧倒されました。
なお、正面側の軒は入母屋のようなまわしかたをしていますが、背面は切妻なので、この本殿の建築様式は「隅木入春日造」(すみきいり かすがづくり)です。
覆い屋のせいで屋根がほとんど見えないため入母屋と紛らわしく、背面を見てようやく春日造だとわかりました。寺社建築の最大の見どころは彫刻よりも屋根だと思うので、屋根が見えないのはやや残念。
左側面の彫刻は、梅に鷹。
反対側の松に鷹は飛び立つ場面でしたが、こちらは木にとまった場面。静と動の好対照。
最後に左側面の全体図。
以上、月夜野神社でした。
(訪問日2020/11/22)