甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【安中市】熊野神社(安中)

今回は群馬県安中市安中(あんなか)の熊野神社(くまの-)について。

 

熊野神社は安中市街の中心部に鎮座しています。

創建は1559年(永禄二年)。領主の安中忠政が、安中城の鬼門除けとして熊野権現を勧請したのがはじまり。以降、歴代の安中城主の崇敬を受け、城下の総鎮守として庶民からも信仰を集めました。当初は熊野大権現と称したようですが、明治時代に現在の社号に改められています。

現在の境内は江戸中期後期に整備されたものと思われます。拝殿や本殿は、桃山風の派手な彩色の彫刻が配され、市指定文化財となっています。また、多くの社宝を所蔵するほか、境内に生育する大欅が市の天然記念物に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒379-0116群馬県安中市安中3-21-17(地図)
アクセス 安中駅から徒歩20分
松井田妙義ICまたは甘楽スマートICから車で20分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

神門と参道

熊野神社の境内は南向き。入口は住宅地の生活道路に面しています。

 

入口の神門は、一間一戸、高麗門、切妻、銅板葺。

造営年は不明ですが、江戸後期のものかと思われます。廃城となった安中城の門を移築したものらしいです。

 

内部向かって左側の様子。写真左が正面方向です。

柱はいずれも面取り角柱。

後方には低い切妻屋根がかけられています。低いほうの屋根は垂木が一重ですが、高いほうの屋根は二重(二軒)となっています。

 

参道を進むと、右手に名称不明の境内社が南面しています。

入母屋(妻入)、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

母屋の手前には縁側も階段もなく、向拝部分は土間です。

 

正面の入母屋破風と軒唐破風。

どちらの破風も、拝み懸魚に彫刻が入っています。

 

虹梁は菊花のついた絵様が彫られ、中備えに出三斗と彫刻が置かれています。

中備えの彫刻は三猿。右から、見ざる、聞かざる、言わざる。

 

向拝柱は几帳面取りの角柱。卍崩しの文様が彫られています。

側面には見返り唐獅子の木鼻。

柱上は出三斗。

 

向拝柱(写真右)と母屋柱(左)のあいだには、天井板が張られています。

母屋の正面の建具は桟唐戸。

 

左側面(西面)。

母屋柱は角柱。頭貫にも卍崩しが彫られ、木鼻は唐獅子の頭となっています。

柱上の組物は出三斗。中備えは蟇股で、牡丹の彫刻が入っています。

 

背面は中央に柱が立てられ、2間となっています。

側面および背面の柱間は横板壁。

屋根は春日造ではなく入母屋のため、背面にも軒がまわっています。

 

拝殿

境内の上段には、拝殿と本殿が鎮座しています。

拝殿の手前には石造神明鳥居。扁額は「熊野神社」。

 

拝殿は、入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

江戸後期の再建と思われます。後述の本殿・幣殿とあわせて1棟で市指定有形文化財。

 

軒下には極彩色の彫刻が配され、豪華な趣。境内入口の案内板*1いわく、“室町時代風で、淡雅であり、手法は古拙な写実を特色としている”とのこと。

向拝柱は几帳面取り角柱。菱形の文様が彫られています。側面には竜の彫刻があり、非常に大振りで豪快な造形です。

柱上の組物は、出三斗をベースとして二手先に展開したもの。

 

虹梁中備えの彫刻は、2頭の竜が向き合った構図のもの。右の竜は虎にも見えますが、顔の部分が竜になっています。

唐破風の小壁には、人々が甕のまわりで踊る構図。何かしらの伝承や故事を題材にしたものと思われます。

 

唐破風の破風板は、赤い地に唐草の絵様が彫られています。

拝みに下がる兎毛通は、極彩色の鳳凰の彫刻。

 

向拝柱(写真右)の上では、手挟が軒裏を受けています。手挟の彫刻は、菊の花。

向拝柱と母屋をつなぐ海老虹梁にも極彩色の彫刻があり、題材は栗鼠(リス)に葡萄。

 

母屋の正面および側面。柱間の建具は格子戸と舞良戸。

縁側は、切目縁が3面にまわされ、背面側は脇障子を立てています。

 

母屋の正面中央の虹梁は、梅の花の絵様が描かれています。

虹梁の上の中備えは鯉の彫刻。

 

頭貫には花のパターンの文様が彫られ、中備えの蟇股には何らかの人物像の彫刻が入っています。

 

正面向かって右側。

飛貫虹梁の中央に大瓶束が立てられ、軒桁を受けています。大瓶束の手前には、牡丹と思しき花の木鼻。

飛貫虹梁と頭貫のあいだの欄間には、松に鶴の彫刻。

 

母屋柱は円柱。正面と側面に唐獅子の木鼻があります。

柱上は出三斗。

 

側面の入母屋破風。妻面は黒い木連格子。

破風板の拝みは蕪懸魚。

 

幣殿と本殿

拝殿の後方には、幣殿(写真左)と本殿(右)がつながり、権現造*2のような構成の複合社殿となっています。

祭神は熊野権現で、大国主、スクナビコナ、櫛御気野命(スサノオ?)が祀られているようです。

 

幣殿は、両下造、銅板葺。

本殿は、梁間3間・桁行2間、三間社隅木入り春日造、銅板葺。

両者とも、拝殿と同様に江戸後期の再建と思われ、市指定有形文化財です。

 

幣殿部分は側面2間。

柱は円柱で、軸部は長押と頭貫が使われているほか、柱上に台輪が通っています。

頭貫の位置の木鼻や、台輪の上の蟇股には彫刻が入っています。

 

本殿部分。

幣殿(左)と本殿母屋(右)をつなぐ海老虹梁は、竜の彫刻。

母屋の軒裏は二軒繁垂木。斜め手前方向にのびる隅木が入っており、正面は入母屋のような軒まわりです。

 

母屋側面は2間。壁面には、紅葉と鳳凰の彫刻。

 

縁側は切目縁が4面にまわされ、床下は三手先の腰組で支えられています。

腰組の下には波の彫刻。

 

反対側の左側面(西面)。

こちらは梅に鳳凰の彫刻。

 

背面は3間。

彫刻は、松に鶴。

 

妻壁。背面は切妻になっています。

組物は二手先。中備えの蟇股や、支輪板に彫刻があります。

妻飾りは大瓶束。束の左右には波の彫刻。

破風板の拝みには、怪鳥の彫刻。桁隠しには雲の彫刻。

 

諏訪神社と大欅

境内の西側は1段高い区画となっており、ここは古墳らしいです。

古墳の上には諏訪神社が東面しています。

右の樹木は大欅(ケヤキ)で、樹齢は推定1000年。市の天然記念物です。

 

諏訪神社の社殿は、妻壁に蟇股や笈形付き大瓶束などが使われています。

 

以上、熊野神社(安中)でした。

(訪問日2023/11/03)

*1:安中市教育委員会による設置

*2:日光東照宮や久能山東照宮の建築様式