今回は岐阜県中津川市の坂下神社(さかした-)について。
坂下神社は旧坂下町の中心地の集落に鎮座しています。
創建についての詳細は不明で、この神社を信仰していた木曽義仲によって同市法力屋から当地へ遷座したとのこと。社殿については拝殿や多数の本殿、それに加えて隣接する出雲福徳神社などなど充実していますが、いずれも昭和期の造営のようです。
現地情報
所在地 | 〒509-9232岐阜県中津川市坂下655-5(地図) |
アクセス | 坂下駅から徒歩10分 中津川ICから車で25分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
参道
坂下神社の境内は東向き。
入口には石造の明神鳥居が立っており、扁額はありません。
参道の右手には手水舎。鉄板葺の切妻。柱は円柱。
軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木。天井がなく化粧屋根裏。
柱の木鼻は象鼻で、虹梁(こうりょう)と台輪の上の蟇股(かえるまた)は波の意匠。
拝殿
拝殿は桟瓦葺の入母屋(平入)、正面に軒唐破風(のき からはふ)。柱はいずれも円柱。柱間に壁はなく吹き放ちで、土足で内部に入れます。
唐破風の軒下に掲げられている扁額は「八幡宮」。
拝殿の前には石造の由緒書きがあり、1959年(昭和34年)の伊勢湾台風で社殿が倒壊したことと、木曽義仲(源義仲)が洪水で川を渡れなかったため対岸から矢文を射込んで祈願したというエピソードが書かれています。
軸部の固定に長押(なげし)を使っている点は神社建築らしさを感じられます。しかし柱は上端がすぼまっていて、頭貫だけでなく台輪にも木鼻がついており、禅宗様の意匠も見られます。神社とも寺院ともつかない造り。
本殿
拝殿の奥には本殿が鎮座しています。
本殿は銅板葺の三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)。正面3間・側面2間、向拝3間。
造営年は1960年。祭神は誉田別命(八幡神)のほか、熊野権現と白山神も合祀されているとのこと。
向拝の正面。軒先を支える向拝柱は几帳面取りされた角柱。
向拝柱は虹梁でつながれ、その上の中備えには竜が彫刻された蟇股が置かれています。
組物は柱上に皿斗が置かれ、その上に肘木と巻斗が配置された構成。
写真奥の母屋は円柱で構成され、格子のついた間口が3つあります。
向拝を右側面(北面)から見た図。
向拝柱の側面(写真手前)には象が彫刻された木鼻。柱上では菊と思しき葉が彫られた手挟(たばさみ)が垂木を受けています。
向拝と母屋(写真右)をつないでいる海老虹梁(えびこうりょう)はゆるやかにカーブした形状。
右側面の妻壁。
柱上の組物は出組。組物のあいだには蟇股が置かれています。
出組で持ち出された妻虹梁は二重になっており、その上は雲状の笈形(おいがた)がついた大瓶束(たいへいづか)が棟を受けています。
破風板の懸魚(げぎょ)は拝みにだけつけられており、桁隠しはないため桁の木口が露出しています。
縁側の脇障子。
右側面はブドウ(あるいは藤?)、左側面は芭蕉に鶏。どちらも風変わりな題材だと思います。
縁側は切目縁が3面にまわされており、欄干は跳高欄。床下は縁束です。
背面。こちらは特にこれといった意匠はありません。
母屋柱の床下は八角柱になっていました。
境内社
本殿の左右には2つの社殿があります。
こちらは本殿右手にある御鍬神社。
こちらは本殿左手にある天満宮。
両者とも茅葺の神明造(しんめいづくり)で、簡略された見世棚造(みせだなづくり)。屋根葺きに茅が使われているほか、屋根の千木は破風板と一体化した正式なものとなっており、意外に凝った造り。
妻壁は豕扠首(いのこさす)と大瓶束を折衷したような何とも言い難い意匠。
御鍬神社の右手には覆いのかけられた社殿があります。戦没者の慰霊のためのもののようです。
神明造であるのは同様ですがこちらは正面3間・側面2間で、神明造の特徴である諸々の意匠がしっかりと備わっています。
側面。
室外には内側に少し転んだ柱(棟持柱)があり、破風板からは4本の棒(鞭懸)が突き出ています。これは神明造の典型的な意匠。
屋根の上の千木は外削ぎで、風穴が開けられていました。大棟の鰹木は5本。
参道の左手にはトタンの覆いがついた社殿が北向きに鎮座しています。
こちらは中山稲荷。豊川稲荷の分社とのこと。茅葺の一間社流造。
新しい神社本殿なので保存状態が良いだけでなく、彫刻の造形も繊細。
写真は向拝の蟇股。2頭の狐が彫られています。
出雲福徳神社
坂下神社の左隣(南)には出雲福徳神社なるものが隣接しています。
もとは坂下神社の境内の一部だったようですが半ば独立しており、2つの神社を行き来するにはいったん道路に出る必要があります。
境内は小規模ながら妙によく整備されており、本体であるはずの坂下神社よりも小ぎれい。土曜日の09:30あたりの訪問だったのですが社務所が開いていました。
珍スポット臭のする神社だと思って帰宅後に調べてみたところ、この神社を参拝すると宝くじが当たるとか当たらないとか言う噂があったりなかったりするっぽいです。
拝殿を兼ねた覆い屋の中には本殿が鎮座しています。
本殿は茅葺の大鳥造(おおとりづくり)。正面1間・側面2間・背面2間。
昭和期の造営とのこと。祭神は大国主。
背面。
屋根の大棟には外削ぎの置き千木と、3本の鰹木。
坂下神社のついでで覗いてみたのですが、大鳥造という珍しい様式の本殿がこのような場所で見られるとは思っていなかったので驚きました。
以上、坂下神社でした。
(訪問日2020/06/27)