今回は山梨県大月市富浜町(とみはままち)の諏訪神社(すわ-)について。
諏訪神社(富浜町)は大月市東部の国道20号線沿いの集落に鎮座しています。
境内は拝殿と本殿のみのシンプルかつ小規模な内容ですが、いかにも甲州(山梨県)らしい華やかな作風の本殿やケヤキの巨木を見ることができます。
現地情報
所在地 | 〒409-0502山梨県大月市富浜町3393(地図) |
アクセス | 鳥沢駅から徒歩20分 大月ICまたは上野原ICから車で15分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
参道と拝殿
諏訪神社の境内は西向き。
入口の鳥居は明神鳥居で、扁額は「諏訪犬嶋神社」。
拝殿は鉄板葺の切妻。特筆するほどの点はありません。
拝殿の屋根の向こうに見えるのが本殿。
本殿
拝殿の裏には本殿があります。塀などはなく、手の届く距離で鑑賞できます。
本殿は一間社入母屋(いっけんしゃ いりもや)、平入。向唐破風の向拝1間。
山梨県内でよく見かける、入母屋で詰組を使った本殿です。
造営年代は不明ですが、作風からして江戸中期かそれ以降でしょう。
祭神は案内板(設置者不明)によるとタケミナカタのほか、オオヤマツミやコノハナノサクヤなどが合祀されているとのこと。あと、鳥居の扁額には“犬嶋”とあったので犬島明神も祀られていると思われます。
正面の唐破風の軒下。
兎毛通(うのけどおし:唐破風の懸魚のこと)には、鳳凰が繊細な造形で彫刻されています。鳳凰の両脇の桁隠しには、躍動感あるポーズの兎。
軒下に掲げられた額には「諏訪犬島神社」とありました。
正面向拝に渡された虹梁(こうりょう)の中備えは、派手な龍の彫刻。
赤い塗料は退色しやすいのですが、なぜか赤だけ色が落ちずに残っています。
向拝柱の木鼻。写真は向かって左側になります。
虹梁の端には、正面・側面ともに唐獅子が彫刻された木鼻がつけられています。
向拝柱は几帳面取りされた角部だけが黒く塗装されています。
母屋の正面。
扉は金具のついた板戸で、扉の上の長押(なげし)には諏訪神社の系統を示す諏訪梶が描かれています。
扉の左右は上り龍・下り龍、下は山鳥(あるいはキジ?)、上は鶴。
右側面から見た向拝の軒下。
左の向拝柱は角柱、右端に見切れている母屋柱は円柱。両者は湾曲した海老虹梁(えびこうりょう)でつながれています。
左の向拝柱上では三手先の組物で軒を受けており、写真右上のほうでは組物と垂木のあいだに草木の意匠が彫られた手挟があります。
右側面。
正面側とは打って変わって、こちらは彫刻なし。屋根は入母屋なので垂木が四方に伸びています。
頭貫の木鼻は雲のような意匠ですが、先端が尖っていてやや粗削りな造形。柱の上に置かれている組物からは尾垂木が突き出ていますが、こちらも先端が尖っていて粗削りな印象を受けます。
組物は三手先の出組で、梁と桁を持出ししています。そして柱の間に置いた組物、すなわち詰組(つめぐみ)が使われています。詰組は禅宗様の寺院建築の意匠で、普通は神社には使わないのですが山梨県内の神社では使われていることが多々あります。
入母屋、尾垂木のついた出組、詰組、といった技法や意匠は山梨県(とくに東部や郡内)の神社本殿ではよく見かけます。当地の作風や地方色なのでしょう。
背面。こちらも壁面に彫刻はなし。
木鼻と組物、詰組、梁の中間に並べられた斗(ます)。側面とほぼ同じ内容です。
背面の縁側。
縁側は前後左右の4面にまわされており、床板は壁面と直交の切目縁(きれめえん)。脇障子はなし。欄干には赤い擬宝珠がついています。床下は、木鼻のついた三手先の組物で支えられています。
母屋の柱の床下がどうなっているか観察したかったのですが、複雑な組物でびっしりと覆われていて、柱の形状を確認することができず。
最後に、東側から見た境内の遠景。
社叢のケヤキが高々と枝を伸ばしていて、少し離れた場所からでもとても目立ちます。案内板によると、県内のケヤキの中でも屈指の大木とのこと。
以上、諏訪神社(富浜町)でした。
(訪問日2020/01/24)