今回は山梨県大月市笹子町吉久保(よしくぼ)の稲村神社(いなむら-)について。
稲村神社(吉久保)は大月市西部の国道20号沿線の集落に鎮座しています。
本殿はよくある入母屋で、この地域の神社本殿の典型とでも言うべき造り。彩色された蟇股や、他社よりも凝った造形の鬼面を見ることができます。
現地情報
所在地 | 〒401-0024山梨県大月市笹子町吉久保1056(地図) |
アクセス | 笹子駅から徒歩20分 大月ICから車で15分 |
駐車場 | 3台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
鳥居と拝殿
稲村神社の境内は南向き。境内は石の瑞垣で囲われています。
入口の鳥居は石製の神明鳥居で、笠木の断面は円柱。社号標は「稲村神社」。
拝殿は銅板葺の入母屋(平入)。向拝なし。柱はいずれも角柱。
垂木はまばらな二軒。縁側は切目縁、高欄は擬宝珠付き。組物は柱の上に舟肘木があるだけで、非常にシンプルな意匠。
本殿
拝殿の裏には覆いで保護された本殿があります。
本殿は銅板葺の一間社入母屋(いっけんしゃ いりもや)、平入。向唐破風の向拝1間。
大月市・都留市によくある、詰組を使った入母屋本殿の典型といえる様式です。
造営年代は不明ですが、おそらく江戸後期のもの。
山梨県神社庁のサイトによると、祭神は国之常立命、スサノオなどの4柱。
向拝の中備えには竜。虹梁の両端の木鼻は、正面側は唐獅子、側面は獏。造形は決して悪くはないと思うのですが、赤一色のせいかメリハリが感じられず潰れた印象。
唐破風から垂れ下がる兎毛通(うのけどおし)はおそらく鳳凰。
軒下だけでなく壁面もほぼ赤一色の単調な配色。
母屋の正面の扉とその両脇には、松に山鵲(カササギ)を題材に彫刻されています。
縁側は4面にまわされたくれ縁。背面側には脇障子があります。高欄は擬宝珠付き。
縁の下は三手先の出組で支えられています。組物の木鼻には竜が彫刻されていますが、長いあいだ風雨にさらされていたからなのか、彩色や造形がかなり危ういところまで風化しています。
向拝柱と母屋柱をつなぐ海老虹梁(えびこうりょう)は、直線的に進むと見せかけて鈎のような急カーブを描いているのが特徴的。
向拝柱の組物の上にある手挟(たばさみ)は、籠彫で牡丹(あるいは菊?)を彫っていますが、例のごとく赤一色のせいであまり立体感がありません。
母屋の木鼻には唐獅子の彫刻。なぜかこちらは目だけ黄色に塗り分けられていました。
母屋の組物は尾垂木が出た三手先の出組。この地方の本殿のご多分に漏れず、詰組(柱間に置く組物)があります。詰組は禅宗様の意匠ですが、山梨県東部の神社本殿の多くでは当然のように採用されています。
組物と詰組のあいだの欄間には菊や梅などの彫刻があり、こちらは白や緑色で彩色されていて、赤ばかりの目が痛くなりそうな色の中、瑞々しさを感じさせてくれます。
縁側の背面をふさぐ脇障子には樹木が彫られています。
軒下や縁の下の組物は、よく見ると肘木がちょっと角ばった造形をしています。
母屋の柱は床上は円柱ですが、床下は几帳面取りの四角柱になっていました。ふつう、ここの床下は造形を八角形で止めることで手抜きするのですが、この本殿はなぜか几帳面取りという少し手の込んだことをしているのが変わっています。
大棟は箱棟になっており、両端の鬼板には鬼面がつけられています。他の神社の鬼面と較べて造形が凝っています。
以上、稲村神社(吉久保)でした。
(訪問日2020/01/24)