兵庫県神戸市
太山寺(たいさんじ)
2025/05/01撮影
概要
太山寺は西区の山際に鎮座する天台宗の寺院です。山号は三身山。
創建は不明。寺記によると元正天皇の勅願寺として、716年(霊亀二年)に藤原宇合によって開かれたとのこと。開山は定恵(藤原鎌足の長男)とされます。なお、発掘調査では奈良時代以前の痕跡が検出されておらず、じっさいの創建は平安時代以降と考えられます。
当初の伽藍は1285年(弘安八年)の火災で焼失しており、13世紀末期に現在の仁王門と本堂が再建されました。当時は40以上の子院と多数の僧兵を抱える大寺院だったようで、鎌倉末期には後醍醐天皇に味方し、建武の新政に貢献しています。江戸時代は明石藩の庇護を受けて存続しますが、江戸中期に衰微して子院が十数件に減り、明治時代には現在の4件に減っています。
現在の境内伽藍は鎌倉末期から江戸後期にかけての非常に古いものです。本堂は13世紀末期の折衷様建築で国宝、仁王門は室町前期の建築で重要文化財に指定されています。そのほか、三重塔が県の文化財、歓喜院表門が市の文化財に指定されています。また、曼荼羅図や甲冑など多数の寺宝が重要文化財となっています。
当記事では仁王門などについて述べます。
太子堂と阿弥陀堂については「その3」をご参照ください。
現地情報
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| 所在地 | 〒651-2108兵庫県神戸市西区伊川谷町前開224(地図) |
| アクセス | 学園都市駅から徒歩30分 前開ICから車で5分、または高丸ICから車で10分 |
| 駐車場 | 30台(無料) |
| 営業時間 | 08:30-17:00 |
| 入場料 | 有料 |
| 寺務所 | あり |
| 公式サイト | 三身山「太山寺」 |
| 所要時間 | 1時間程度 |
文化財情報
境内
仁王門

太山寺の境内は南西向き。
境内入口は県道に面した場所にあり、集落の中に仁王門が西面しています。
仁王門は、三間一戸、八脚門、入母屋造、本瓦葺。
案内板*1によると当初はべつの場所にあり、室町中期の移築で現在の姿になったと考えられます。当初は二層の門(楼門)で、当地に移築する際に上層を撤去し、軒まわりも縮小されたようです。
国指定重要文化財。

正面は3間。
中央の柱間は広く取られ、左右の柱間には仁王像が置かれています。

正面中央の柱間。
中央の柱間には飛貫が通り、中備えに板蟇股を置いて頭貫を受けています。
柱上の組物は出三斗。大斗が大ぶりに作られ、独特なバランスです。
頭貫の上の中備えは間斗束。


向かって左の柱間。
こちらは飛貫がなく、かわりに菱組みの欄間が入っています。
柱はいずれも円柱で、太めの材が使われています。頭貫には禅宗様木鼻がついています。
軒裏は一重の繁垂木。

側面は2間。前方の1間は白壁で、後方の1間は吹き放ち。
柱は礎石の上に据えられ、前後の柱間は腰貫や飛貫でつながれています。

側面も組物は出三斗で、中備えは間斗束です。
側面中央の柱には木鼻がありません。

背面。
柱間に飛貫はありませんが、左右の柱間に腰貫があります。
木鼻や組物や中備えは正面と同様。

入母屋破風には木連格子が張られています。
木の影になっていますが、破風板の拝みには懸魚が下がっています。


通路脇の柱間には仁王像。

内部には鏡天井が張られています。
通路の左右の柱は、頭貫のあたりで切られていて、上に間斗束らしき部材を置いて桁を受けています。独特な構造をしていますが、移築時の改変でしょうか。
通路上の柱間には、正面と同様の飛貫と板蟇股があります。

左後方の柱間には、移築前の仁王門の組物周辺を再現した模型があります。
大ぶりな大斗は現状の造りと同じですが、模型は和様の尾垂木三手先となっており、もとの仁王門は大きく軒先を突き出した造りだったことがわかります。

仁王門背面側から見た図。
尾垂木や地垂木の、ふだんは内部に隠れて見えない部分も再現されています。
塔頭

仁王門から太山寺境内へ向かうと、道路の左右に塔頭が点在しています。
こちらは参道右手(南西)に鎮座する成就院。
文化年間(1804-1817)に造られた枯山水の庭園が県指定文化財となっていますが、常時の拝観はしていないようです。
入口の門は、薬医門、切妻造、本瓦葺。

さらに進むと、駐車場の近くに安養院があります。
こちらは桃山時代に造られた枯山水の庭園が国指定名勝となっています。300円で拝観できるようですが、予定が押していたため割愛。
入口の門は、薬医門、切妻造、本瓦葺。
中門

駐車場と安養院の先へ進むと、南西向きの境内に到着します。
階段の先には中門があり、門の先に拝観受付があります。門より先は有料の区画となります。


中門は、四脚門、切妻造、本瓦葺。
主柱は円柱、前後の控柱は角柱が使われ、前後の柱間は貫と長押でつながれています。

正面の柱間の虹梁は、眉欠きと袖切りだけが彫られたもの。絵様はありません。
中備えは板蟇股。巻斗で軒桁を直接受けています。

控柱は面取り角柱。面取りの幅が大きく、古風な技法です。
柱の正面と側面には大仏様木鼻。
柱上の組物は大斗と舟肘木を組んだもの。

妻面。
中央の主柱の上からは、冠木が突き出ています。冠木の上には大きな巻斗が置かれ、妻虹梁を受けています。
妻虹梁は絵様などの彫りのない無地のもの。妻飾りは板蟇股で、巻斗と舟肘木を介して棟木を受けています。
破風板の拝みと桁隠しには蕪懸魚。

背面。
細部の意匠は正面とほぼ同じです。
手水舎

中門をくぐると、本堂手前の参道右手に手水舎があります。
切妻造、本瓦葺。

参道側の平の面。
柱間には飛貫と虹梁がわたされています。虹梁は絵様と錫杖彫りがつき、中備えは出三斗。

妻面。
こちらの虹梁は中央部がカーブして高くなっており、中備えが省略されています。
柱上の組物は連三斗です。

柱は転びのついた面取り角柱。面取りが広く、古風です。
頭貫の位置には木鼻がつき、その下にも小さい木鼻がついています。内側(写真右)には拳鼻のような腕木が伸び、皿斗を介して虹梁の袖切り部分を受けています。

妻飾りは虹梁と笈形付き大瓶束。こちらの虹梁は錫杖彫りがありません。
大瓶束の左右の笈形は、菊の彫刻。立体的かつ精巧で、良い造形だと思います。
仁王門などについては以上。
*1:神戸市による設置