甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【神戸市】太山寺 その2(本堂、三重塔)

兵庫県神戸市

太山寺(たいさんじ)

2025/05/01撮影

 

その1では仁王門について述べました。

当記事では本堂と三重塔について述べます。

 

本堂

中門の先には本堂が南西向きに鎮座しています。本尊は絶対秘仏の薬師如来。

概観は、正面の幅に対して棟が低く、落ち着いたシルエット。細部の意匠は和様をベースとし、一部に禅宗様を取り入れた折衷様です。折衷様建築の例の中でも規模が大きく、力強い木割と内部空間の広さがこの堂の特徴といえます。

 

桁行7間・梁間6間、入母屋造、銅板葺。

もとあった本堂は1285年(弘安八年)に焼失していて、現在の本堂は1300年頃の再建と考えられます*1国宝に指定されています。

折衷様建築の現存例は、鶴林寺本堂(加古川市)や朝光寺本堂(加東市)など県内だけでも多数ありますが、そのほとんどは14世紀以降のものです。この本堂のように13世紀のものは全国的にも希少で、折衷様建築の中でも古い部類に入ります。

 

正面は7間。

縁側は、板を母屋と平行に張ったくれ縁。擬宝珠付きの欄干が立てられています。

 

柱はいずれも円柱。太めの柱にの上下に厚い長押が打たれ、骨太で力強い軸組です。

正面の柱間はいずれも半蔀。上半分は跳ね上げ、下半分は取りはずす方式。訪問時は中央の半蔀だけ解放されていました。

 

正面向かって右(南)の隅。

軸部は貫と長押で固められています。頭貫には禅宗様木鼻。

柱上の組物は出組。中備えは間斗束。組物と中備えは、軒桁を直接受けています。

 

右側面(南東面)。側面は6間。

前方の1間は板戸、その奥の2間が半蔀で、開放できる建具です。後方の3間が引き戸と白壁で、ほとんど解放できない閉鎖的な造りです。

組物はいずれも出三斗、中備えはいずれも間斗束で、正面と同じです。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

背面。

中央の1間は板戸が設けられ、左右各3間は白壁となっています。

背面に縁側はなく、側面の後方で途切れています。

 

(左:背面の組物 右:右側面の組物)

背面も組物は出三斗、中備えは間斗束ですが、組物の造りが若干ことなります。

背面の組物(左)の肘木は木口と底面をひとつづきの曲面で処理していますが、ほかの面の組物(右)の肘木は木口を平面とし、底面を曲面でつなぐことで処理しています。同じ建物の、同じ構造の組物で、肘木の形状を変えるのはめずらしい技法だと思います。

 

右側面の破風。

破風板の拝みと桁隠しには蕪懸魚が下がっています。

妻飾りは豕扠首。

 

母屋柱は亀腹の上の礎石に据えられています。補強のための材が添えられていて分かりにくいですが、母屋柱は床下も円柱に成形されています。

縁束は面取り角柱で、亀腹の下の礎石に据えられています。鎌倉時代の建築のため、面取りの幅が非常に大きいです。

 

内部は前方の3間通りが外陣、後方の3間通りが内陣です。一般の参拝者は、外陣まで入ることができます。

外陣と内陣とのあいだには、黒い格子と緑色の菱組みが入り、内外の境界を仕切っています。開放的な外陣と閉鎖的な内陣とに区切り、境界部に建具を入れて仕切るのは、折衷様建築(密教本堂)の内部構造の典型です。

正面7間・側面6間のうち外周の1間通りは庇になっていて、化粧屋根裏が設けられています。庇をのぞいた正面5間・側面2間が母屋で、母屋の外陣部分は柱を省略して広い空間を設け、二手先の組物の上に組入天井を張っています。

 

三重塔

本堂向かって右、境内南側の区画には三重塔が鎮座しています。上の写真は北西面で、こちらが正面のようです。

三間三重塔婆、本瓦葺。

心柱の墨書銘および棟札より、1688年(貞享五年)造営。県指定有形文化財。

 

柱間は3間。中央は板戸、左右は連子窓。

縁側は切目縁で、擬宝珠付きの欄干が立てられています。縁側の床は幅が広めに取られており、昇段することができます。

 

柱はいずれも円柱。軸組みには長押が多用され、和様の造りです。

組物の間の中備えは撥束。こちらも和様の意匠です。

 

正面向かって左。

緑色の連子窓は、板材をぎざぎざに削って成形したもので、盲連子です。

柱上の組物は和様の尾垂木三手先。左右の柱間には、中備えはありません。

 

軒裏は平行の二軒繁垂木。

組物の尾垂木の上には力神(邪鬼)の像が乗り、隅木を受けています。

隅木には風鐸が下がっています。

 

北東面。

母屋部分の意匠は正面と同様です。

側面には階段がありません。母屋の床下は亀腹になっています。

 

二重。

欄干の影になって見づらいですが、柱間は初重と同様に板戸と連子窓が設けられています。

縁側は跳高欄が立てられ、縁の下は腰組で支えられています。この塔の意匠はほぼすべてが和様ですが、隅の腰組には拳鼻(禅宗様木鼻)が使われているため、純然たる和様建築とは言えないでしょう。

 

二重の隅の組物も、尾垂木の上に力神が乗っています。

 

三重。

二重とほぼ同じ造りですが、三重はすべての柱間の中備えが省略されています。

 

頂部の相輪。

反花と九輪の上には、火炎状の水煙がついています。

 

各重を見上げた図。

軒裏の垂木はいずれも重も平行です。

 

本堂手前の手水舎付近から見た図。

三重塔や五重塔などの仏塔は、上層に行くほど母屋と屋根を小さく造りますが、この塔は上層と下層とで大きさにあまり差がありません(逓減率が低い)。案内板(神戸市教育委員会)によると、逓減率が低いため“重厚感のある安定した造り”とのこと。

 

本堂と三重塔については以上。

その3では太子堂と阿弥陀堂について述べます。

*1:案内板(神戸市教育委員会)より