今回は滋賀県彦根市の北野神社(きたの-)について。
北野神社は彦根城西側の住宅地に鎮座しています。
創建は1620年(元和六年)。井伊直孝によって、上野国の北野寺(群馬県安中市)にある天満宮が現在地に勧請されたのがはじまりです。1795年(寛政七年)に火災で社殿を焼失しますが、井伊直中(直弼の父)によって再建されました。明治初期には神仏分離令によって北野寺から分離され、社号を「北野神社」に改めました。
現在の境内は北東に北野寺が隣接してつながっており、神仏習合の時代のおもかげが残ります。社殿は江戸後期以降のものと思われ、本殿などの社殿は権現造に似た造りとなっています。
現地情報
所在地 | 〒522-0069滋賀県彦根市馬場1-3-10(地図) |
アクセス | 彦根駅から徒歩30分 彦根ICから車で10分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり |
公式サイト | 天満宮 北野神社 |
所要時間 | 10分程度 |
境内
参道と手水舎
北野神社の境内は南東向き。入口は生活道路に面し、北東へ20メートルほど行った場所には北野寺の仁王門があります。
右の社号標は「縣社 北野神社」。
参道の途中には石造明神鳥居が立っています。
鳥居の扁額は「北野神社」。
額縁には梅鉢の紋があしらわれています。
参道左手には手水舎(左)と神楽殿(右)。
手水舎は、梁間1間・桁行2間、入母屋造(妻入)、銅板葺。
手水舎の柱は几帳面取り角柱が使われ、飛貫の位置に長押が打たれています。釘隠しは梅鉢の意匠。
頭貫の位置に虹梁がわたされ、柱に木鼻がついています。
柱上には出三斗が置かれ、台輪の上の中備えは蟇股。
側面は2間。
細部意匠は正面と同様。
入母屋破風。
木連格子が張られ、拝みに鰭付きの蕪懸魚が下がっています。
神楽殿と能舞台
神楽殿は、入母屋造(妻入)、銅板葺。
柱は面取り角柱が使われ、柱上は舟肘木。柱間の建具は舞良戸。
縁側は3面にまわされ、跳高欄と脇障子を立てています。
入母屋破風には木連格子が張られ、破風板の拝みに懸魚があります。
神楽殿から参道をはさんだ向かいには、能舞台があります。こちらは建具がなく吹き放ちで、開放的な造り。
入母屋(妻入)、桟瓦葺。
蛭子神社
能舞台のとなりには、境内社の蛭子神社。公式サイトには「北野ゑびす神社」とありました。
一間社流造、桟瓦葺。
頭貫の上の中備えは蟇股。
若葉と思われる彫刻が入っています。
向拝柱は面取り角柱。
柱上は連三斗で、柱の側面の斗栱が連三斗に添えられています。
向拝の組物の上では、手挟が軒裏を受けています。手挟は板状で、繰型と絵様のついたもの。
破風板の桁隠しは猪目懸魚。
母屋正面には桟唐戸が設けられ、垂れ幕には蔓柏の紋が入っています。
母屋柱は円柱。軸部は貫と長押で固められていますが、木鼻はありません。
扁額は「北野蛭子神社」。扁額のかかった頭貫の上には、彫刻の入った蟇股が配されています。
側面。柱間は横板壁。
頭貫の中備えは蟇股。蔓を題材にしたと思しき彫刻が入っており、母屋正面の蟇股とほぼおなじ造形です。
柱上の組物は出組。持ち出した組物で、無地の妻虹梁を受けています。
妻飾りは豕扠首。
破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。
縁側は3面にまわされ、擬宝珠付きの欄干と脇障子を立てています。
正面の階段の下には浜床が設けられ、母屋柱は井桁状の土台の上に据えられています。
白山神社
蛭子神社の北側には、摂社と思われる白山神社が鎮座しています。社殿は後述する本殿など(写真左端)と同じ南東向き。
白山神社の手前の道を右(北東)へ行くと、北野寺本堂(当該記事にて紹介)への近道となっています。
白山神社は、一間社流造、銅板葺。
向拝柱は几帳面取り角柱。正面には唐獅子、側面には獏の木鼻がついています。柱上は連三斗。
虹梁中備えは蟇股。
母屋柱は円柱で、柱上は舟肘木。
正面には2組の桟唐戸が設けられ、側面は横板壁。
妻飾りは、妻虹梁に無地の束を立てたもの。
破風板の拝みには蕪懸魚。桁隠しには雲状の懸魚がついています。
拝殿と幣殿
境内の中心部には拝殿や本殿などの主要な社殿が鎮座し、神門と透塀で囲われています。
社殿は拝殿・幣殿・本殿が一体となっており、権現造に近い造りです。
拝殿は、桁行3間・梁間2間、入母屋造、向拝1間、軒唐破風付、銅板葺。
唐破風の兎毛通は鳳凰の彫刻。鬼瓦には若葉の彫刻があります。
破風板の飾り金具や、鬼瓦の鳥襖には梅鉢の紋。
唐破風の小壁には、虹梁大瓶束が使われています。
その下には蟇股があり、鳥の彫刻が入っています。
向拝柱は几帳面取り角柱。側面には象の木鼻。
柱上の組物は連三斗。
母屋正面は3間。柱間はサッシの引き戸。
母屋柱は角柱で、柱上は舟肘木。
向拝柱と母屋柱とのあいだには海老虹梁がわたされています。
側面は2間ですが、後方1間通りに庇が設けられ、側面3間にも見えます。柱間は横板壁と板戸で、後方の庇の柱間は連子窓。
縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干はありません。
軒裏は一重まばら垂木。
拝殿の屋根には千鳥破風らしき構造がありますが、拝殿の大棟よりも高く造られており、これはおそらく幣殿の大棟かと思います。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚が下がっています。
幣殿の母屋。
幣殿は、梁間1間?、桁行2間、両下造、銅板葺。
柱は角柱、柱上は舟肘木で、拝殿に準じた造り。
柱間には板戸が設けられています。縁側はなく、おそらく内部は土間床かと思います。
本殿
拝殿および幣殿の後方には本殿が鎮座しています。公式サイトの境内図には、拝殿・幣殿・本殿をすべてあわせて「本殿」と記載されていました。
本殿は、桁行3間・梁間2間、三間社入母屋造、銅板葺。
側面は2間で、柱間は横板壁。幣殿との接続部(写真右)には片開きの桟唐戸があり、桟唐戸は藁座ではなく蝶番で吊られています。
母屋柱は円柱。軸部は貫と長押で固められ、頭貫には拳鼻。
柱上の組物は大斗と舟肘木を組んだもの。中備えはありません。
背面は3間。こちらも横板壁で、組物や木鼻も側面と同様です。
縁側は背面をのぞく3面に設けられています。脇障子の羽目は欠落しています。
北野神社の社殿については以上。
以上、北野神社でした。
(訪問日2025/03/23)